ちょい変化球な深夜ドラに定評のあるテレビ東京が、月曜夜10時にド直球で勝負する新ドラマ枠「ドラマBiz」。

今年の4月より開始したこの枠の第2弾『ラストチャンス 再生請負人』(テレビ東京・月曜22:00〜)がスタートした。


「ドラマBiz」は、働くことをテーマにしたビジネスドラマの枠。

前作『ヘッドハンター』は、江口洋介演じるヘッドハンターが、会社員たちを転職させることで様々な悩みや問題を解決していくという、料理を転職に変えた『美味しんぼ』。もしくは暗殺を転職に変えた『ゴルゴ13』みたいな話だった。

ドラマの存在自体の認知度が低かったものの、一話完結でサクッと見られ、見た人からの評価は高かった(「Paravi」で全話配信されているから機会があったら見よう!)。

第2弾となる本作『ラストチャンス』は、銀行から実質的に追い出された仲村トオルが、
再生請負人となり、飲食フランチャイズ会社の再建をする連続モノ。

主人公が様々なトラブルに巻き込まれつつも、何だかんだで大逆転していく(たぶん)という、まあ言っちゃえば、『半沢直樹』に代表される一連の池井戸潤ドラマっぽい構成となっている。

原作は、池井戸潤と同じく銀行出身の作家・江上剛。

脚本はWOWOW版の『空飛ぶタイヤ』『下町ロケット』『アキラとあきら』(いずれも池井戸作品が原作)を担当した前川洋一。

そういえば、WOWOW版の『空飛ぶタイヤ』では仲村トオルが主演を務めていた。

……まあ、そのセンを狙っているというのは明白だろう。TBS日曜劇場との全面戦争だ!?
「ラストチャンス 再生請負人」はTBS池井戸潤ドラマに倍返せるか?今テレ東「ドラマBiz」が面白い
イラストと文/北村ヂン

ひとまずストレスをためこむターン


主人公・樫村徹夫(仲村トオル)は、大手銀行・ちとせ銀行で順調にキャリアを積み上げていたが、突然、格上の菱光銀行に吸収合併され人生設計が大きく狂ってしまう。

そんな時、ミッキー・カーチス演じるうさんくさい占い師と出会い、「うらみ、つらみ、ねたみ、そねみ、いやみ、ひがみ、やっかみ。これが人生の七味とうがらしだよ」と指南を受ける。


原作小説である『ラストチャンス 再生請負人』は、雑誌連載時には『人生、七味とうがらし』というタイトルで発表されており、単行本刊行当初は『人生に七味あり』と改題されていた。「人生の七味とうがらし」は本作のテーマだと言えるだろう。

……そんなに上手いこと言えてるたとえ話だとも思わないが、これは江上剛自身が実際に占い師から聞かされた話らしい。

順調に送ってきたものの「面白み」に欠けていた樫村の人生も、七味とうがらしがきいて波瀾万丈となっていく。

仲間たちは次々と早期退職していき、樫村自身も関連会社に飛ばされ……。

心機一転、学生時代の先輩を頼ってITベンチャーへの就職を決めたのに、銀行を辞めた後になって話が白紙に。

あわてて就活をはじめるも、まったく採用されず……と踏んだり蹴ったり状態。

ところが路上で、謎の女性(水野美紀)とぶつかったことにより運勢が一転する。

知人であるファンド社長・山本知也(大谷亮平)から、飲食フランチャイズ会社「デリシャス・フード」の再建を依頼されたのだ。

樫村は「デリシャス・フード」を再建するため、CFO(最高財務責任者)という好待遇で迎えられるが、社長(本田博太郎)は会社よりも自分の利益を優先していそうなあやしいおっさんだし、元・オーナーに心酔している財務部長(勝村政信)からは敵意をむき出しにされるし……。

さらに会社に乗り込んできて「7億円返せ!」と大騒ぎする男も登場。再建は楽ではなさそうだ。


第1話ということで、とにかく樫村に様々なトラブルがどんどん降りかかるターン。色んなイヤなヤツが登場しつつも何も反撃できず、見ていてイライラする展開が続く。

ここでためこんだストレスの分、いずれスカッと「倍返し」してくれると信じよう。

演技が下手なヤツがいないと気持ちよくドラマが観られる!


前作が江口洋介だっただけに、第1話を見るまで、正直、主人公が仲村トオルというのは弱いなーと思っていた。

第1弾には気合いを入れて金をかけた分、第2弾ではちょっとランク落としたのかと……。

しかし、芸能界においていまいちパッとしないポジションにいる仲村トオルという存在と、実直で人がよさそうだけど、いまいち頼りないサラリーマン・樫村とがマッチして、なかなかいい味を出していた。

仲村トオルのイメージ、『ビー・バップ・ハイスクール』とか『あぶない刑事』の時代で止まってたよ、ゴメン。

脇役陣も、椎名桔平や大谷亮平、和田正人、勝村政信、本田博太郎、竜雷太、嶋田久作……と、テレ東のドラマとは思えない豪華さで、「ドラマBiz」への力の入れ方が分かるというものだろう。

中でも、仲村トオルの妻役である長谷川京子は、異様なまでに夫の仕事に理解があり、後押ししてくれる理想の妻な上、妙な色気を放っていてタマラナイ!

他局でありがちな、人気優先な若手イケメン・カワイコちゃん俳優には頼らないキャスティングのおかげで、演技が下手なヤツがいないとこれほど気持ちよくドラマを観ることができるのかと実感させられた。

まだ第1話ということで、最終的に「100倍返し」するべきラスボスが誰なのかも分からないが、当面の敵は、何か裏でやっていそうな「デリシャス・フード」社長ということだろう。

しかし、そもそも銀行を辞めて途方に暮れてた樫村がいきなりCFOとして迎えられるということ自体、上手い話すぎる。

そういう意味では、この再建話を持ってきた山本も信用できないし、元・同僚である宮内亮(椎名桔平)もなーんかあやしい。


もう、誰が敵で誰が味方か分からない。とにかくどいつもこいつも「倍返し」してやれ!

このドラマ枠自体、まだまだ知られておらず地味な存在ではあるが、骨太なビジネスドラマが期待できそうな本作。

『半沢直樹』とか『下町ロケット』あたりが好きな人には間違いなくオススメだ。
(イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
ネットもテレ東

Paravi

TVer

『ラストチャンス 再生請負人』(テレビ東京)
原作:江上剛『ラストチャンス 再生請負人』(講談社文庫刊)
脚本:前川洋一
演出:本橋圭太
主題歌: 村松崇継「Starting over」(Climbing Records)
音楽 - 村松崇継
チーフプロデューサー:稲田秀樹(テレビ東京)
プロデューサー:川村庄子(テレビ東京)、松野千鶴子(アズバーズ)、木川康利(アズバーズ)
制作協力:アズバーズ
製作著作:テレビ東京
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