原作は真山仁の小説『ハゲタカ』および『ハゲタカII』。

小林薫演じる飯島常務がまるで「ナニワ金融道」!?
第1話は2018年の現在から始まった。財界トップである経協連会長の西澤(山本學)に呼び出された芝野健夫(渡部篤郎)は、危機に陥ったある大企業の再生を任される。しかし芝野は、この案件は自分一人では無理だと、ある男がパートナーになってくれるのなら引き受けると申し出た。西澤が承諾すると、芝野はさっそくその男のもとへ向かう。訪れたのは寂れた町工場。かつてゴールデンイーグルと呼ばれ、かつては芝野にとってもこの国にとっても敵と目された男はいま、そこで働いていた──。
時代はここから一気に21年さかのぼる。1997年、バブル崩壊から数年が経ったこのころ、かつてのなりふりかまわぬ融資のツケが回り、各銀行は莫大な不良債権を抱えていた。そのなかで三葉銀行は、回収困難な不良債権を投資会社に一括でまとめ売りする「バルクセール」を日本で初めて実施することを決定。その買い手に指名され、三葉銀行に颯爽と現れたのが、その男、外資系投資ファンド「ホライズン・ジャパン・パートナーズ」代表だった鷲津である。一方、このとき芝野は、三葉銀行の不良債権処理にあたる資産流動化開発室の室長として鷲津を迎えた。
三葉側の買い取り希望額は最低でも300億円であった。だが、鷲津たちが徹底的に調べ上げたうえ、提示した評価額はわずか65億円にすぎなかった。同時に、三葉銀行が帳尻を合わせるために行なっていた不正や隠蔽も次々と指摘され、三葉側はすっかり鷲津の手のひらの上で踊らされてしまう。
鷲津たちはその後、三葉から譲渡された鬼怒川の老舗料亭「金色庵」を訪ねる。金色庵は、バブル期のゴルフ場建設など過剰投資から213億円もの負債を抱えていた。だが、彼らは金色庵の社長・金田(六角精児)に対し、2週間以内に5億円を払えば、残りの借金はなかったことになると切り出す。
他方、三葉銀行では続く2回目のバルクセールを、常務取締役の飯島亮介(小林薫)が取り仕切ることになった。先に鷲津たちにさんざん振り回された苦い経験から、飯島は「ルールを決めるほうが主導権を握る」と息巻き、次のバルクセールは競売入札、それも1円でも高く入札額をつけた業者に買い取らせるオークション形式でいくと決める。
このとき、中身はどうであれ、不良債権処理の実績になればいいと不法行為も辞さない飯島を、芝野はたしなめる。だが、飯島は聞く耳を持たない。それどころか、芝野に顔を寄せると、「三葉のためやったらな、少々汚いことでもするっちゅう覚悟を持て。いいか、そのことをよぉ頭に叩きこんどけ」と逆に言って聞かせるのだった。
綾野剛のドスの効いたセリフにビビる
鷲津もまた、2回目のバルクセールがオークション形式でいくと知るや、さっそく動き出す。その件について都内のホテルのロビーにて電話で部下たちと話していると、金色庵の金田が現れた。このときすでに2億円の返済期限は切れ、金色庵はホライズンから人手に渡っていた。それに対し怒りをぶつける金田に、鷲津が豹変する。
「あんたに被害者面をする資格はない。銀行から甘い汁を吸って放漫経営を続けた結果がこのざまだ。バブル景気に浮かれ、銀行の過剰融資に溺れ、目先の欲に目がくらんだ。日本をここまで腐らせたのは、あんたのような無能な経営者だっ!!」
鷲津のドスの効いた言葉に、たまらずつかみかかろうとする金田を、フロントにいた女性が止めに入る。東京クラウンセンチュリーホテルのフロントマネージャーの松平貴子(沢尻エリカ)だ。金田はやっと我に返ると、自分もお客さんのためにいい店にしたいと思っていたとぼやく。それを聞いて鷲津は「金田社長、あなたが一番許せないのはあなたご自身ではないんですか。先代や先々代が築いてきた伝統を、守るべき価値のあったものを、あなたは自ら捨ててしまったんです」と語りかける。
金田「そうかもな……終わりだ、もう。何もかも」
鷲津「何を言ってるんです。あなたはまだ生きている」
相手をいきなり恫喝したかと思うと、一転して励ます鷲津。金田には車代として1万円札を渡すと、その場を立ち去るのだった。
覚悟を忘れた日本人
バルクセールのためすぐに動き出したはずのホライズンだが、入札当日、同社の担当者のアラン(池内博之)は時間ギリギリで駆け込んだ。結果は、ホライズンが見事勝ち取るも、2位の業者の入札額の差はごくわずかだった。
後日、芝野の同期の沼田(藤本隆宏)がひそかにホライズンと通じ、入札の締め切り直前に、他社の入札額を漏らしていたことが発覚する。内通者から情報を得た者が、知った額に少し上乗せすることで入札を勝ち取るという「ラスト・ルック」と呼ばれる手口だった。
まもなくして退職を願い出た沼田を、芝野が問い詰めると、アルツハイマーの母親を抱え、妻も介護疲れで病気になってしまったところ、ホライズンから救いの手を差し伸べられたのだと聞かされ、愕然とする。
そのころ、日光へイヌワシを観ようと来ていた鷲津は、偶然にも貴子と再会を果たす。彼女は鷲津を案内しながら、つい先月亡くなったばかりの祖母とイヌワシを観た思い出を語って涙ぐむ。そして先日、ホテルのロビーで、鷲津が金田相手に放った言葉に、まるで自分のことを言われたような気がしたと打ち明けるのだった。
じつは彼女の実家である日光の老舗ホテルも、三代目社長である父親の放漫経営により存続の危機に瀕していた。
「あのとき激高した男を前に、ホテルのマネージャーとしてあなたは一度もひるまなかった。そこには、たしかな覚悟がありました」「いま、多くの日本人が忘れてしまったものです」
ちょうどそのとき、イヌワシが二人の上空に現れた。鷲津はそれを見て「戦う勇気をもらった」と言って先へ進んでいく。
第1話のラストシーン、夜のオフィスで、鷲津は、失踪中の繊維会社の社長が大蔵省で割腹自殺したという数年前の事件の新聞記事を見つめる。一体、その社長と彼はどういう関係なのか。そもそも鷲津は何者なのか。さまざまな謎を残しながら、ドラマは今夜放送の第2話へと続く。主演の綾野剛はこれまでにも、NHKの朝ドラ「カーネーション」でヒロインと不倫に落ちる男や、日本テレビの「フランケンシュタインの恋」における不老不死の怪物など、多くは語らないが重い過去を背負った役を演じてきただけに、多くの謎に満ちた今回の鷲津役もまさに適役といえる。
NHK版との違いは? 影響は?
せっかくなので、11年前に放送されたNHK版「ハゲタカ」にも少し触れておきたい。こちらはNHKオンデマンドの特選ライブラリーで現在観ることができる(有料)。
主人公の鷲津を大森南朋が演じたNHK版の「ハゲタカ」は全6話と短期間の放送のためだろう、原作からエッセンスを抽出しつつ、独自の物語に仕立てていた。鷲津も原作とは異なり、かつて三葉銀行で芝野(柴田恭兵)の後輩だったという設定に変えられている。そこへ経済紙の記者・三島由香(栗山千明)と、旅館の経営者だった父を失った西野治(松田龍平)と、鷲津と因縁のある二人の若者(いずれもドラマオリジナルの人物)が絡み、物語は展開していく。
これに対し今回のドラマは1クール(約3ヵ月)の放送ということで、NHK版とくらべると原作を忠実になぞるだけの余裕がある。原作中、鷲津と芝野とともに主要な人物として登場する松平貴子(NHK版には登場しない)の物語も存分に描かれることだろう。
ちなみに原作では、鷲津は身長165センチの小男だったりする。対して今回彼を演じる綾野剛の身長は180センチ。NHK版の鷲津役の大森も178センチの長身だし、かけているメガネのデザインといい、人物造形にかぎっていえば、今回のドラマに影響を与えているといえそうである。
いずれにせよ、すでに同じ原作を映像化した作品が存在し、しかも高い評価を受けているだけに、今回のドラマの演じ手・つくり手にはきっとプレッシャーもあるだろう。それをどう乗り越えるかは、結局のところ、第1話終盤の鷲津のセリフではないが、覚悟の問題のような気がする。
先ごろ100歳で亡くなった脚本家の橋本忍は、修業時代、シナリオの師匠だった映画監督の伊丹万作から、「原作物に手をつける場合には、どんな心構えが必要だと思うか」と問われたことがあったという。この質問に対し橋本は、少し考えた末に、自分の心構えを一頭の牛を一撃で殺すことにたとえると、《原作の姿や形はどうでもいい、欲しいのは生血だけなんです》と答えた。
だが、これを聞いた伊丹は、「君の言うとおりかもしれない」と言いながらも、《しかし、橋本君》《この世には殺したりはせず、一緒に心中しなければならない原作もあるんだよ》と説いたという(橋本忍『複眼の映像 私と黒澤明』文春文庫)。はたして橋本は、後年、『羅生門』や『砂の器』など原作物の映画でも多くの名作を残すことになる。
原作を「一撃で殺し、生血だけ抜き取る」にせよ、「一緒に心中する」にせよ、相応の覚悟が必要であることは間違いない。はたして今回の「ハゲタカ」にそれだけの覚悟はあるのか。目をイヌワシのように光らせながら、とくと拝見したい。
(近藤正高)
【作品データ】
「ハゲタカ」
原作:真山仁『ハゲタカ』、『ハゲタカII』(講談社文庫)
脚本:古家和尚
監督:和泉聖治ほか
音楽:富貴晴美
主題歌:Mr.Children「SINGLES」
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:中川慎子(テレビ朝日) 下山潤(ジャンゴフィルム)
※各話、放送後にテレ朝動画にて期間限定で無料配信中
※auビデオパスでは第1話〜最新話まで見放題