元キャリアウーマンの義母と娘の交流を描く、綾瀬はるか主演、森下佳子脚本のドラマ『義母と娘のブルース』が絶好調だ。

激突! 亜希子対PTA
第3話では、会社を退職し、専業主婦となった義母・亜希子(綾瀬はるか)が小学校のPTAに初参加するのだが、そこは古参の役員たち(奥貫薫、春日井静奈、山口香緒里、西尾まり)が牛耳る抑圧の帝国だった。
たとえば、不明な点について亜希子が繰り返し質問すると、こういう返事が返ってくる。
「何にもわかんないくせに黙っててくれる?」
「わからないからお尋ねしているのですが」
「わかんないだったら、黙ってるでしょ? 普通!」
「では、“聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥”ということわざについて、本谷さんはどのような見解をお持ちですか?」
「あんた、ケンカ売ってんの!?」
「わかんないだったら、黙ってるでしょ? 普通」という言葉が怖い。「わからないなら黙っていろ」というのは民主主義ではなく恐怖政治だ。「普通」という誰が決めたわけでもない「常識」をさりげなく織り交ぜているところも悪質。
亜希子はPTA役員たちの不興を買い、娘のみゆき(横溝菜帆)が楽しみにしていた「おうち会」も子どもたちが次々とキャンセルして中止となった。ゴミ箱に捨てられた、手製の招待状が悲しい。筆者も小学生の娘の父親だが、あんなの見たら泣いちゃう。
亜希子のPTA壊滅計画
怒りに震える亜希子は、行動を起こす。一心不乱にパソコンに向かう姿を見て、夫の良一(竹野内豊)が声をかけると、亜希子はギンギンの目で恐ろしいことを言い始めた。
「私はただ、その輩を戒めるスキームを考えているだけです」
「戒めるって、どういう?」
「その輩たちの根城であるPTAを叩き潰し、廃止に追い込みます」(プォォオ~と法螺の音)
なんとかなだめようとする良一だったが、亜希子は聞く耳を持たない。
「みゆきちゃんがどれだけ楽しみにしていたと思っているんですか? こんなやり方で罪もない子どもの気持ちを踏みにじって。
「親としての意識が低い奴らなのよ」
さっそくPTA廃止に向けた署名を集めはじめる亜希子。集めた署名は全校生徒の親の3分の1にあたる171名! しかし、亜希子の動きを察知したPTA役員たちは、教師の立ち会いの元、亜希子を呼び出して事情聴取を行う。
「ご存知ないかもしれませんが、請け負った仕事もやらない方、そもそも保護者会にも出られない方、そんな無責任な方も大勢いらっしゃるんです。宮本さんに賛同されたのは、そうした方々なんじゃないでしょうか?」
「そうよ、親としての意識が低い奴らなのよ、署名なんてするのは!」
保護者会が行われるのは平日の昼間であり、両親が共働きの家庭は出席が難しい。それを穏やかそうに見えるPTA会長の矢野(奥貫薫)はさりげなく「無責任」と一刀両断している。もっとも抑圧的な本谷(山口香緒里)は「親としての意識が低い奴ら」とまで言っていた。ひどい。
それでも一歩も退かない亜希子に対し、PTA役員は運動会の運営から一切手を引くと通告。亜希子は一人で運動会を運営しなければならなくなる。女同士の心を削り合うケンカの描き方が森下佳子はとても上手い。
「長いものには巻かれればいい」は本当か?
覚悟を決め、教師たちに運動会の運営に関する提案をしようとする亜希子。そこへみゆきが飛び込んでくる。「私のママなら、私が嫌われるようなこと、しないでよ!」と怒りをぶつけるみゆき。しかし、それでも亜希子は退かない。
「先生、子どもがこんな発想になって良いのでしょうか?
子どもは親が嫌われるようなことをしたら、自分も嫌われると思っている。
親は子どもが嫌われることを恐れて言葉を飲み込み、陰口でうさを晴らす。
その背中を見て育った子どもは思うでしょう。
長いものには巻かれればいい。
強いやつには逆らうな。
本当のことは陰で言うのが正しいんだ。
だって、大好きなお父さんとお母さんがそうやっていたんだから!
……私事で恐縮ですが、私は大事な一人娘にそんな背中を見せたくはありません」
毅然と言い放つ亜希子に、教師だけでなく、みゆきまで亜希子の言うことに耳を傾けるようになる。亜希子は男社会の中、実力本位で出世を遂げてきた。長いものに巻かれているだけでは、ここまで出世はできない。元キャリアウーマンの矜持が表れたセリフだった。
声を荒げたり、怒鳴ったりしているわけではないのに、怒りとテンションの高さがビンビン伝わってくる綾瀬はるかの演技はさすが。
元部下の田口(浅利陽介)の協力などを仰ぎながら運動会の運営に挑む亜希子だったが、あまりにも煩雑な業務にさすがの元キャリアウーマンも困り果てる。PTA廃止に署名した母親たちが自主的に協力を始め、なんとかつつがなく運動会は終了したが、亜希子は保護者の組織は必要だと痛感させられる結果に。PTA会長の矢野も亜希子に頭を下げて、ハッピーエンドとなった。
女同士の戦いの背後にある男たちの影
女同士の激しい争いが描かれた第3話だったが、女の背後に常に男たちがいたのを見過ごしてはならないだろう。
矢野は亜希子と同じくキャリアウーマンだったが、妊娠によって会社を強制的に辞めさせられた過去があった。彼女は権力欲と仕事欲をこじらせて、PTAを支配していった。頑迷な男社会の犠牲者と言っていい。また、PTAの横暴を黙認していたのは事なかれ主義の男性教師たちだった。
亜希子による運動会の運営を妨げていたのは、傲慢な男の来賓と、身勝手な振る舞いを続ける男の保護者たちだった。彼らは保護者として運動会の運営には協力せず、女親たちにすべてを押し付けている。業を煮やした亜希子が拡声器で名札の名前を読み上げようとすると、瞬時に反応して妨害するあたり、自己防衛にだけは長けていて小賢しい。
桜沢鈴の原作コミックは傑作だが、そこから大きく膨らませて運動会のエピソードをつくり上げ、さらに背後の細かい部分まで書き込んでいる制作サイドの目配りの良さに感心する。一方で、コミカルさを忘れない平川雄一朗の演出も功を奏している。ただ、亜希子のPTA壊滅スキームがただの署名だったり、運動会が成功するのがご都合主義だったりしたのはちょっと残念。亜希子の凄腕ぶりをもうちょっと見てみたかった。
本日放送の第4話は、みゆきが良一と亜希子を「偽装結婚なの?」と疑うエピソード。亜希子が良一のプロポーズを受けた理由も語られそうだ。そして毎回エンディングになると悪化する良一の健康状態も心配だ。今夜10時から。
(大山くまお)
【作品データ】
『義母と娘のブルース』
原作:桜沢鈴『義母と娘のブルース』
脚本:森下佳子
音楽:高見優、信澤宣明
演出:平川雄一朗、中前勇児
プロデュース:飯田和孝、中井芳彦、大形美佑葵
※各話、放送後にTVerにて配信