大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時) 
第31回「龍馬との約束」8月19日(日)放送  演出:岡田 健

わしを買うてくれ


31話の視聴率は11.0%(ビデオリサーチ 関東地区)で少し上がったが、32話を放送する25日は裏番組で「24時間テレビ」があるので正念場視されている。
もっとも関西ではたいてい関東よりいくらか高く、それほど崖っぷち感がない。
チェスト! きばれ!

坂本龍馬(小栗旬)が吉之助(鈴木亮平)を訪ねてやって来て「買うてくれんかよ このわしを」と持ちかける。

龍馬が出てくるたびぐぐっとアップで思わせぶりに撮るのは龍馬だから? 小栗旬だから? どっちどっち?(「半分、青い。」でよく出てくる台詞のマネ)
吉之助は龍馬を糸(黒木華)の待つ薩摩の実家に連れていく。
家は安普請のため雨漏りしているが、川口雪篷(石橋蓮司)は“島津雨”といって吉兆だと語る。

吉之助は出世してもなお、この貧しい家を大事にしていることを聞いた龍馬はすっかり吉之助に心を開き、一緒に雨漏りを直す。
どんなに出世しても借金が減らない吉之助。父の代からの借金も残っているうえ、革命のために使ってしまっているのか。

貧しいのは薩摩の民だけでない。土佐も貧富や身分の差が激しく下々の者は雨が降っても傘もさせないと龍馬は言う。
その話を受けて吉之助は「日本の雨漏りを直したい」と言う。
31話もまた庶民の暮らしを顧みない幕府をなんとかしないといけないと吉之助の思いが語られる。
「西郷どん」では一貫して貧しい民の生活を描き続け、その民の生活をよくすることが吉之助の行動のモチベーションになっている。
「西郷どん」31話「銀魂2」好調の小栗旬の無駄遣いではないか

坂本龍馬 全書簡集【(1)政治・思想編(2)手紙・和歌編】2冊セット

黒木華とのシーンではみんないい顔している


吉之助とは反対に、幕府を守ろうと一橋慶喜(松田翔太)はふたたび長州征伐をしようとする。
大久保(瑛太)の進言によって島津久光(青木崇高)はその計画に加担しないことにする。
気を良くした吉之助は龍馬を紹介。

ここでも龍馬は「薩摩でわしを買うてもらえんですろうか」と売り込む。
吉之助は長州と組むつもりで、龍馬が仲を取り持つと力強い。

早朝、旅立つ龍馬と糸がしばし語らう。
「薩摩の宝は さつまいも 宝島 西郷吉之助ぜよ」と言って去っていく龍馬。
ごくごく短く地味な場面だが、黒木華と小栗旬のやりとりはじんわりする。
黒木華の抑制しながらも迫真な芝居がいいのだろう、鈴木亮平とのシーンも鈴木が驚くほどいい顔を見せる。

「広がってきたな西郷の毒が」


薩長同盟の鍵を握るのは桂小五郎(玉山鉄二)。
薩摩藩に戻った桂のもとに龍馬は向かい、銃、大砲、軍艦を売り込む。
吉之助は京都に行って長州征伐を阻止したものの、慶喜は西郷たちの動きを知っていた。
「広がってきたな西郷の毒が」「これ以上、徳川を汚すな」と釘をさす。

ほんとうなら吉之助は下関に龍馬と桂に会いに行く予定だったが、急遽京都に向かうことを選択し、それについては文を託したがその文は届かず、龍馬は怒って京都に追いかけてくる。
痛恨のすれ違い。

「おまんは信用も義理も人情もなにもかも失うたぜよ」とあっという間に龍馬は吉之助に愛想をつかす。

31話はざっとこんな感じ。駆け足で状況だけ説明している感じで、坂本龍馬回のようで、それほど龍馬の見せ場がまったくない。小栗旬というスター性のある俳優を坂本龍馬役に起用しながらもったいなくはないか。8月17日から公開されている主演映画「銀魂2 掟は破るためにこそある」(福田雄一監督)も好調であるというのに。

原作がそうなのかと思って読むと、林真理子は男たちの政治的駆け引きを淡々と進めつつ、ベテランエンターテイメント作家として気持ちを沸き立たせるダイアローグを確立しているように思う(現在、下巻の頭のほうまで来た)。
ドラマだと従来の役割(一般的にこのヒトはこういうヒトという認識)をいっさいとっぱらって意識的にフラットにしているような気さえするのだ。いろいろ起こる事件も、待ってました、◯◯事件!みたいなことでなく、段取りよく行われるものでなく、様々なことが重なりながら日常のなかでなし崩しに起こっていくような危いものに見える。
良く考えれば、当時はまだ幕府か倒幕か時代がどちらに転ぶかわからず、誰が時代のヒーロー(リーダー)になるかわからないわけで、幕府と倒幕派もどちらが正しいと言い切れない。何が起こるかわからない。誰も彼もが暗闇のなかで迷ってうる、そういうリアルに挑んでいるのではないか。
堪え性ないと、鈴木も小栗も、例えば福田雄一作品のほうがわかりやすい役割を与えられて輝いているような気がするのでもういっそ福田雄一の大河ドラマをコメディ化したようなものをやってみてはどうか、もう一本残っているスペシャルはそれでどうだろうか、なんてことすら考えてしまうのだが、わかりやすい役割を描く作品がはたして正義かといったらわからない。
中園ミホに狙いがあるとしたらもう少し見守りたい。

美術(及び照明)は毎回すばらしい。格子を多用したセットの光と影だけは物語の陰影を語ろうとして見える。
(木俣冬)
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