のど飴で8時間も浪費した熊本市議会、「生産性がない」のは政治家だ

熊本市議議員の緒方夕佳議員が、質疑中にのど飴を舐めていたことを理由に、本人を除く全員の賛成で懲罰動議を可決し、議会から退席を命じた問題が大きな問題となっています。

たとえ、緒方議員の行動に問題があると感じたとしても、真っ当な方法で批判をすればいいだけで、のど飴を舐めることに対して「品位がない」と判断し、全員で排除する姿勢はイジメ以外の何ものでもありません。


熊本市議会と対照的な事例として、2017年10月に開催されたイギリス保守党の党大会の様子がインターネット上でにわかに話題となっていましたが、この党大会では、テレサ・メイ首相が演説中に咳が止まらなくなったところ、ハモンド財務相がのど飴を手渡していました。それと比べると熊本市議会の姿勢がいかに酷いかが分かります。


イジメる人間はイジた相手のせいにする


当然様々な人が「これはイジメだ」と指摘しているわけですが、その自覚が当事者たちにはまるでないようです。現場の状況をTwitterで中継し、緒方議員を批判した田上辰也議員はキャリコネニュースの取材に対して「いじめでは決してありません」と主張し、その理由をつらつらと述べていますが、その弁明文の主語が「緒方議員は~」となっています。

イジメに該当するか否かは本来「自分たちの行い(ここではのど飴を舐める行為が品位に欠くという理由で懲罰動議を可決したこと)」が争点です。ですから、仮にその正当性を証明するのであれば、他の地方議会でも同様のことが行われている事例や、とりわけ懲罰の対象が与党の長老男性議員でも変わりなく適応した事例があること等を根拠に「自分たちの判断は常識的なものだ」と反論する必要があるわけです。

にもかかわらず、「だってあいつが~●●するから~」と被害者側の問題に争点をすり替えているわけです。それは、「自分たちがイジメるだけの理由があいつにはあったんですよ」という自己正当化に他ならず、結局「自分たちがしたのはイジメでした」と認めていることに他なりません。

むしろのど飴を舐めていたのが与党の長老男性議員であれば、おそらくここまで紛糾しなかったはずで、「若い女性憎し」というミソジニー(女性嫌悪)が発動したがゆえにイジメが起きたのだろうと感じている人も多いはずでしょう。そのほうがよっぽど品位のない行動です。

「品位がない!」という人たちが品位に欠け、「道徳が大切!」という人たちの道徳が崩壊し、「日本人の知性が足りない!」という人たちがデマや偏見を拡散する知性の低さを露呈しているように思います。結局のところ、彼等が言う品位も、道徳も、知性も、「生意気だ!大人しく従え!」を都合良く言い換えているだけに過ぎないのでしょう。


「生産性がない」のはむしろ政治家ではないのか?


次に、イジメであることとは別の問題を指摘したいと思います。それは政治家の生産性の低さです。


のど飴問題に関連して議会進行は約8時間止まって紛糾したわけですが、それはつまり議会は約8時間もの貴重な時間をくだらないことに浪費したことを意味します。国会にしても地方議会にしても、課題は山積みであるにもかかわらず、何ら市民の具体的利益に直結しないことに対して長々と時間を浪費する政治家たちは、あまりに労働生産性が低いと言わざるを得ません。

杉田水脈衆議院議員が雑誌新潮45で「LGBTは生産性がない」と言ったことが今も解決しないまま大きな問題となっていますが、生産性がないのはむしろ日本の政治家のほうではないでしょうか?

しかも熊本市議会の生産性の低さを露呈したのは今回だけではありません。緒方議員が2017年末に話題になった子連れ出勤の際にも同様です。あろうことか熊本市議会はこの後に会議規則を変更し、乳幼児が議会に入れないように明文化したのですが、そこに貴重な議会のリソースを割いたわけです。

他の先進国では設けていないようなルールや規則を作り上げることに、決定権限を持った人たちの貴重な時間を投入するのは愚かな行為と言わざるを得ません。そのような人たちが当たり前に決定権限を持ち続けるている以上、この国の「働き方改革」が進むようには到底思えないです。

周りにもいる、生産性がない意思決定者たち


でも、このような何の利益も生まないルール作りに時間を割く労働生産性の低い意思決定権者は、私たち一般市民の周りにもいるのではないでしょうか?

私も会社員時代に、髪の毛をヘアピンで止めていたら、役員会議で「男性のヘアピン禁止」と服務規程にこっそりと追加され、「服務規程に載せてあるからやめなさい」と言われたことがありました。

ですが、それをしたところで顧客利益につながるのでしょうか? もしくは(経営者以外の大株主がいる場合は)株主利益に繋がるのでしょうか? むしろその時間浪費分だけ事実上経費が増加するわけで、顧客や株主にとって不利益にしかなりません。他の従業員の風紀を乱し、彼等の生産性を落とすわけでもありません。それで機嫌が悪くなるのは、男性と女性であるべき服装を変えるべきだという性差別主義者だけでしょう。

このように、生産性を考慮しない愚かな上司たちが作り出す職場環境が、日本の経済プレゼンスが大きく下がったことと無縁ではないでしょう。


男社会が作り出した因習が醜いイジメを作り出す


最後に1点問題にしたいのが、女性議員比率の低さです。先日も安倍首相は内閣改造において女性大臣を片山さつき議員たった一人しか選出しなかったという、時代を逆行する愚かな決断に手を染めたわけですが、熊本市議会もご多分に漏れず47名中6名(約12.8%)と、女性議員がとても少ない状態が続いています。


もちろん男女が半々に近い状態でもイジメが起こることはあります。ですが、日本よりジェンダー平等が進むニュージーランドでは、女性首相のアーダーン氏による子連れ出勤がむしろ称賛されており、熊本市議会のように「常識外れ」を理由に子連れ出勤がイジメの材料に使われることはまずないでしょう。

そして日本の「常識」を作り出したのは紛れもないこれまでの「男社会(あくまで男社会であって男性ではない。よって男社会に迎合している女性も含む)」であり、この男社会の因習がなければ、おそらく子連れを材料にしたイジメは起こらないと思うのです。そして続くのど飴イジメも起こらなかったことでしょう。2014年に起こった都議会のセクハラ野次も同じ文脈にあると思います。

先日、カナダのトルドー首相と同様にフェミニストを自称しているスペインのペドロ・サンチェス新首相は、17人中11人の女性閣僚を選出しました。世界の先進国で政治のジェンダー平等が進む中、日本が「ジェンダー不平等政治ニュースの一大産出国」として一際目立つようになって来ていると言えます。


自治体同士でジェンダー平等を競い合わせたい


なお、私はこのような日本の現状を打破するべく、現在準備しているNPO「パリテコミュニティーズ」にて、「自治体版ジェンダーギャップ指数」を策定しようと思っています。

これは世界経済フォーラムが毎年実施・公表しているジェンダーギャップ指数を日本国内用にアレンジし、自治体を男女平等ランキング化するものです。民間有識者組織の「日本創成会議」が「消滅可能都市」を発表した際、消滅都市と指摘を受けた東京都豊島区が必至に子育て支援政策を進めた事例を手本に、自治体のジェンダー平等政策に外部から良い圧力をかけることを目的とします。

様々な有力者、研究者、民間団体とともにコレクティブインパクトを目指して行きたいと思うので、是非公表した際には話題にして頂けると幸いです(※協力してくださる団体や個人も募集しています)。

(勝部元気)
編集部おすすめ