TBSの日曜劇場「下町ロケット」(夜9時〜)。前回、第1話のレビューにも書いたとおり、このドラマのキャストはさまざまな分野から集められている。
面白いのは、そこで出演者の見せる演技が、時折おのおのの本業を思い出させることだ。
「下町ロケット」立川談春がやりくり上手のおかみさんのようだまるで人情噺2話
イラスト/まつもとりえこ

先週放送の第2話でいえば、古舘伊知郎にそれを感じた。古舘の役どころは、本作の主人公・佃航平(阿部寛)の経営する佃製作所の商売敵である小型エンジンメーカー・ダイダロスの社長の重田。彼は、取引先の農機具メーカー・ヤマタニの蔵田(坪倉由幸)が商談中にうっかり漏らした情報に食いつく。そこで、鎌をかけながらさらに話を引き出そうとするさまが、キャスターとしてインタビューする古舘の姿と重なった。

また、佃製作所の経理部長の「殿さん」こと殿村を演じる立川談春にも、その演技からはやはり本業である落語家らしさを感じることがある。とくに第2話はそんなシーンが多かった。それというのも、今回の話がどこか落語の人情噺めいていたからだろう。そこでの殿さんの役割はさながら落語に出てくる、お人好しのすぎる旦那(もちろん佃のこと)にあきれながらも家計を支えるやりくり上手のおかみさんという趣きだった。

雨の夜、エンジントラブルがきっかけで佃と島津が急接近!?


そう感じさせるほど、第2話は佃の人情深さが全編にわたって表れた回だった。そもそもの発端は、前回、佃製作所がバルブを提供することになったトランスミッションメーカー・ギアゴーストが、特許侵害で訴えられたことだ。

訴えてきたのは、外資系メーカーのケーマシナリー。その言い分は、ギアゴーストの副社長・島津(イモトアヤコ)が開発し、大手自動車メーカーに採用されたトランスミッションに、自社の特許品が無断で使われているというものであった。
ケーマシナリーは使用料として15億円を要求、払えなければ裁判を起こすと迫る。もっとも、ケーマシナリー側は、ギアゴーストにそんな大金を払えるとは思っていない。その真の狙いは、成長株のギアゴーストをつぶすことにあったからだ。このたくらみには、第1シリーズで佃製作所をやはり特許侵害で訴えた弁護士の中川(池端慎之介)が噛んでいた。

佃はそんなギアゴーストの窮地をヤマタニから伝え聞き(ギアゴーストはヤマタニにトランスミッションを提供していた)、何とか手を貸したいと思う。しかし15億円を出資するのはさすがにリスキーすぎる。社内でも経理の殿村や営業の津野(中本賢)と唐木田(谷田歩)、技術開発部長の山崎(安田顕)らが難色を示した。そこへ顧問弁護士の神谷(惠俊彰)から、クロスライセンス契約を狙うことで、ケーマシナリーに対抗できるかもしれないと提案を受ける。ケーマシナリーの製品からギアゴーストに対する特許侵害を見つけることで、特許使用料を相殺しようというのだ。同時に、この方法をとれば、あわよくば佃製作所はギアゴーストをタダ同然で買収できるとも教えられる。しかしそれにはギアゴーストには黙って手続きを進めなければならない。

ギアゴーストを傘下に収めれば、佃製作所はそのすぐれた技術を手に入れられる。
だが、だまし討ちのように買収することに佃は抵抗を感じた。そんなふうに悩んでいたとき、島津の技術への情熱をあらためて思い知らされるできごとがあった。それは前回に続きボウリング場で佃が島津と遭遇し、その帰りがけ、大雨が降っていたので彼女に車で送ってもらったところ、エンジントラブルに見舞われたときだった。佃はガソリンスタンドで島津とエンジンを修理しながら、彼女が子供のころ車いじりの好きな父親を手伝ううち、トランスミッションに魅せられていったことを知る。佃もまた少年時代によく父親に車の整備を手伝わされていただけに共感できた。このやりとりは池井戸潤の原作小説『下町ロケット ゴースト』にはないエピソードで、ドラマにより人情味をもたらしている。

ここから佃の下した決断は、島津とギアゴースト社長の伊丹(尾上菊之助)にはすべてを話したうえで、ケーマシナリーの製品から特許侵害を見つけることに佃製作所が全面協力するというものだった。

「ギアゴーストには確実に死んでもらいます」


しかし、いざギアゴーストと佃の社員が共同で作業を始めたところ、やり方の相違から衝突も生じる。徳重聡演じる技術開発部の軽部が、前回に続きここでもトラブルメーカーとして本領を発揮(?)していた。

そもそもこのとき佃製作所は、帝国重工の宇宙航空部本部長・水原(木下ほうか)からのたっての願いで、ロケットエンジン用の新たなバルブシステムを短期間のうちに完成させるという喫緊の課題を抱えていた。そんな重要な時期に、他社の手助けをすることに、佃の社員からは疑問の声も上がる。

そのなかにあって両社の仲裁役を担ったのが島津だ。彼女は、佃側のやり方も採用しながら柔軟に対応する。
難航していた新型バルブシステムの開発も、島津が教えてくれた素材を用いることで成功へといたった。そんな島津の姿勢に、佃の技術開発部員の加納(朝倉あき)は「立派な方ですね。会社の立場だとか流儀だのは関係ない、いいものはいいと思える純粋な気持ちを持っている。あれが本当のエンジニアの姿ですよね」と感服する。

ただ、肝心の特許侵害は、一瞬は光明が差したものの、結局見つからなかった(このあたりの緩急の付け方がまたドラマにカタルシスをもたらしている)。しかし佃は、ギアゴーストに対し15億円を出資し、傘下に収めることを決める。もちろん殿村たちは反対するが、彼は「彼らの創意と工夫を見捨てちまっていいのか!?」と熱っぽく訴え、納得させる。情熱社長・佃航平の真骨頂だ。

第2話のラスト、ギアゴーストは、ケーマシナリー側に必要とあれば15億円を支払うと伝えた。予想外の申し出に弁護士の中川は一瞬うろたえるも、続く場面──何者かとの密談の席では、「ギアゴーストには確実に死んでもらいます」と任侠映画のようなセリフを吐く。こうしていよいよ佃と中川の戦いが、第1シリーズに続き火ぶたを切って落とされたのである。

第2話がやけに人情噺っぽくなった理由


ちなみに原作では、窮地に陥ったギアゴーストは、自分たちから佃に相談を持ちかける。
それがドラマでは逆に、事情を知った佃側がギアゴーストに手を差し伸べるというふうに変わった。第2話では先述のとおり、佃は当初、特許侵害の調査をギアゴーストには黙って進めるつもりだったが、良心の呵責に耐えかねて結局伊丹と島津に伝えた。こうした展開も、原作の改変なしには成立しなかったことになる。今回のエピソードがやけに人情噺っぽくなったのも、このおかげだろう。

第2話ではまた、殿村が実家が代々受け継いできた田んぼを、地元の友人の経営する農業法人に貸すという話が持ち上がるも、父親(山本學)から反対されるというエピソードも出てきた。経理として、ときに佃に手を焼かされながらも会社を支える殿さんだが、こちらの進展も気になるところである。
(近藤正高)

※「下町ロケット」はTVerで最新回、Paraviにて全話を配信中
【原作】池井戸潤『下町ロケット ゴースト』(小学館)
【脚本】丑尾健太郎
【音楽】服部隆之
【ナレーション】松平定知
【プロデューサー】伊與田英徳、峠田浩
【演出】福澤克雄、田中健太
【製作著作】TBS
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