高橋一生主演のドラマ『僕らは奇跡でできている』。変わり者でマイペースな動物行動学者・相河一輝(高橋一生)と彼をとりまく人々の姿を描く。
脚本は『ピュア』や『僕の生きる道』シリーズの橋部敦子。

先週放送された第3話の視聴率は少し盛り返して6.2%。じんわりとドラマの良さが人々に広がっているような気がする。

第3話のサブタイトルは「少年を動物園に連れサル!?」。一輝が歯医者で知り合った9歳の少年・虹一(川口和空)を動物園に連れ出してしまい、彼の母親の涼子(松本若菜)や歯科医の育実(榮倉奈々)を巻き込んで大騒動になる……という話だったのだが、サブタイトルがそれほど深刻じゃない。
高橋一生「僕らは奇跡でできている」「楽しそうな人」と「楽しくなさそうな人」がくっきり分かれる3話
イラスト/Morimori no moRi

夢中なのに早口や大声にならない高橋一生


動物園のニホンザルのボスが交代しようとしていた。ボスの交代は5年から10年に一度でめったに見られない。嬉しくて仕方がなさそうな一輝は動物園のサル山に日参する。

教え子の琴音(矢作穂香)は、いつも楽しそうな一輝に興味津々。「だって面白いじゃん」と周囲に言いつつ、じわりとアプローチしていく。

動物園のサル山にまでやってきた琴音に一輝がゴリラのカップル成立の過程を説明するシーンで、高橋一生の「毛づくろい」がSNSで話題になったが、それよりも高橋一生がシャイなゴリラのようにパーソナルスペースに入ってくるシーンのほうがドキドキした。高橋一生の話すトーンが、夢中なんだけど、早口や大声にならないところもポイント大きい。実はけっこう難しい話し方なんじゃないだろうか。


チンパンジーのリップスマッキングの真似をする高橋一生も見どころの一つだったが、「相河先生、可愛い」とスマホで写真を撮った後の琴音は、ちゃんと恋をしている顔をしていた。今風のギャルを演じている矢作穂香だが、大林宣彦監督の最新作『花筐/HANAGATAMI』で直々にヒロインのオファーを受けるほどの実力派だったりする。今後売れていきそうだ。

子どもを待つことって本当に大事


一輝と遊びたくて待っていた虹一は、一緒に動物園に行きたくなってしまう。9歳の男の子なら当然だろう。お母さんの許可をとってね、と言う一輝だが、虹一が許可を取る様子は描かれない。あとでわかることだが、本当は塾へ行くはずの時間だった。虹一はこう言う。

「お母さんは、どうしてみんなと同じようにできないの? っていつも言ってる。僕をダメな子だと思ってる」

9歳の子にしては辛いつぶやきだ。「みんなと同じようにできない」というのは、幼い頃の一輝とまったく一緒。しかし、一輝には母親がおらず、「同じようにできない」ことを優しく肯定してくれた祖父の義高(田中泯)がいた。

一輝と虹一は閉園時間になったらサル山で集合すると約束していたが、閉園時間を過ぎても虹一は戻ってこなかった。
血相を変えて虹一を探す母親・涼子に巻き込まれる形で動物園にやってきた育実は「どうして探さないんですか?」となじる。だけど、一輝はいつもの調子で、だが決然と言う。

「虹一くんは戻ってきます」

虹一は人と同じことができない。興味のあることには夢中になる。一輝は自分と同じだとわかっているから、待つことができる。子どもを待つことって本当に大事。

動物を見ることや絵を描くことに夢中になり、広大な動物園で迷子になってしまった虹一が取り出したのは、一輝に渡されていたコンパスだ。大人がすべてレールを敷いた上を歩かせるのではなく、道具を与えて自分の道を探して歩ませる。これが子どもの成長を促す一番の方法だと思う。

「戻ったぞ!」と意気揚々と帰ってきた虹一を「謎は見つかったか!」と迎える一輝。発見した動物の謎を楽しそうに報告する虹一に「了解!」と返す一輝の声が本当に嬉しそう。一輝の目線は保護者というより、楽しいことをする仲間のよう。


「すっごく楽しかった!」

うんうん。楽しいのが一番だよね、という気持ちになる。

しかし、「楽しかった」で済まないのが母親の涼子だ。学部長の鮫島(小林薫)は一輝と一緒になって、カンカンの涼子に平身低頭で謝り倒す。鮫島がしょげている虹一をちらっと見て、「今日は楽しかったねぇ」と声をかけるところが良い。この人も一輝の親代わりだった。本当に一輝は周囲の人に恵まれている。

お詫びに育実を居酒屋に誘った鮫島は、虹一を探そうとしていた育実にいきなりハゲたサルの話をしようとした一輝の本心を説明する。自分で毛を抜きすぎてハゲてしまった若いサルを治すために、一輝は食事を日に4回にすることを飼育員に提案していた。

「食欲とか本能がずっと刺激されて、サルたちがいきいきとしてくる。自分の毛を抜かなくなってくる。そういうことなんじゃないのかなぁ、あいつが言いたかったことは」
「虹一くんと何の関係が?」
「虹一くんが本来持っている、やりたいと思うことを、思う存分やらせてみたかったんじゃないかなぁ」

「楽しそうな人」と「楽しくなさそうな人」


このドラマの登場人物は「楽しそうな人」と「楽しくなさそうな人」にくっきり分かれている。
「いきいきしている人」と「ドンヨリしている」と言い換えてもいい。

一輝はもちろん「楽しそうな人」の側だ。
劣等感にさいなまれていた虹一は、一輝とふれあうことで生き生きとした表情を見せるようになった。琴音にも一輝の魅力が伝わりはじめている。教授の鮫島、アリの研究をしている沼袋(児嶋一哉)もいつも楽しそうだ。

一方、育実は楽しそうにしている表情を見せたことがない。
琴音のクラスメイトの新庄(西畑大吾)もいつもつまらなさそうな顔をしている。虹一の母親の涼子はつらそうな顔をしているし、准教授の樫野木(要潤)はいつも右往左往している。事務長の熊野(阿南健治)は怒ってばかりだ。

一輝のまわりには「夢中」と「楽しい」と「嬉しい」があふれている。カギを握っているのは「やりたいこと」を思う存分やっているかどうかのような気がする。

人は誰だって、やりたいことばかりやっているわけにはいかないから、一輝だって出席カードを使って学生の出席をとったりしている。
でも、ほかのやりたくないことはなるべくやらない。一輝は忙しくてイライラしている育実に「やりたくないことばっかりなんですね」と言って余計イライラさせる。

「あなたがどう思おうと、私は私です」と必死で突っ張る育実だが、一人になって自分が出ている雑誌のページを見ながら、一輝の「昔の僕は僕が大嫌いで毎日泣いてました」という言葉を思い出す。

他人から見て輝いているかどうかなんて関係ない。自分はやりたいことをやっているのだろうか? 人生を楽しんでいるのだろうか? 自分は自分が好きなのだろうか? 自分は自分と仲良くやれているのだろうか? 大切なのはそこのところだ。

育実と同じように、ドラマを見ながら自問自答している視聴者も少なくないのではないだろうか。常識やルールに縛られ、やらなきゃいけないことに追われている育実のような我々は、一輝のように「やりたいこと」を思う存分やる「楽しそうな人」になれるのだろうか?

本日放送の第4話はコンニャクがテーマらしい。いいぞ、この調子。今夜9時から。公式サイトでは山田さん(戸田恵子)のピリ辛きゅうりのレシピを公開中。
(大山くまお)

「僕らは奇跡でできている」
火曜21:00~21:54 カンテレ・フジテレビ系
キャスト:高橋一生、榮倉奈々、要潤、児嶋一哉、田中泯、戸田恵子、小林薫
脚本:橋部敦子
音楽:兼松衆、田渕夏海、中村巴奈重、櫻井美希
演出:河野圭太(共同テレビ)、星野和成(メディアミックス・ジャパン)
主題歌:SUPER BEVER「予感」
プロデューサー:豊福陽子(カンテレ)、千葉行利(ケイファクトリー)、宮川晶(ケイファクトリー)
制作協力:ケイファクトリー
制作著作:カンテレ
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