同じ病気なのに尚と公平には落差がある
前回から登場した、MCI患者の松尾公平(小池徹平)。彼については、存在自体に賛否がある。
少なくとも、アルツハイマー病患者の心境を描く上では重要な存在だ。
間宮尚(戸田恵梨香)に会うため、用もないのに病院へ入り浸る公平。主治医の井原侑市(松岡昌宏)から尚と距離を取るよう促されても聞く耳を持たず、去り際にゲップを吐く態度。公平の精神状態を表している。人のことなどお構いなし。
間宮真司(ムロツヨシ)への挑発は度を超えていた。
「僕はもう、失うものは何もないから。何をされても平気なんだ。だってどうせ、み〜んな忘れてなくなっちゃうんだから。あるのは今だけ」
侑市を相手に、公平は今の気持ちを開けっぴろげに明かした。
「僕なんか早くいなくなったほうがいいんです。奥さんだって逃げていったんですから(笑)」
尚が卒倒した講演中のハウリングは、やはり公平の仕業だった。
確かに、病気の症状が引き起こしたものではない。でも、全く無関係とは言えない。公平は絶望している。記憶を失い、支えてくれる家族はいない。仕事も失いかけだ。夫や母がいる尚とは明らかに違う。同じ病気なのに、自分と比べて尚は恵まれ過ぎている。尚と公平の落差は、本当にエグい。
周囲の人と共に病に立ち向かおうとしている尚。孤独に飲み込まれ、絶望の淵にいる公平。同じ病気なのに、向いている方向は正反対だ。
最後まで、公平は希望を見つけられないのだろうか? それは、あまりに救いが無さ過ぎると思うのだ。

“記憶をなくす者”と“忘れ去られていく者”のコントラストが鮮明に
今回、尚の病状は急激に進行した。講演で気を失った尚は、目を覚ましてからすぐに真司の名前を呼んだ。
「そう。俺、真司(笑)!」
名前を呼んでくれるだけで嬉しい。
でも、忘れたことも尚には多い。「子どもを産みたい」と侑市に相談したこと。編集者の名前。
尚は、かつて真司と住んでいたアパートのことも忘れていた。月光荘を覚えていないということは、ここで過ごした日々も忘れているということ。“記憶をなくす者”と“忘れ去られていく者”のコントラストが、遂に鮮明になってしまった。
でも、居酒屋のことは覚えていた。店長と店員のやり取りをアテレコしながら、尚は真司に気持ちを伝えた。「ごめんね、面倒な病気にかかっちゃって」「迷惑かけると思うけど、一生懸命生きるからよろしくお願いします」。尚は、この日のこともきっと忘れてしまうだろう。
「忘れていいよ。
忘れ去られていく者の優しさが「忘れていい」という言葉に集約されている。隣に誰かがいれば、記憶は消えても希望は消えない。
次回以降、このドラマは観ていてドンドン辛くなっていくはずだ。もう、何を忘れてしまったかを心配する段階は終わった。何を覚えているかを見つけることで安堵する2人になる。
真司は、耐え切れなくなっている。自分よりも尚のほうが辛いはずなのに、尚の前で何度も泣いてしまった。そんな真司を見た尚は「記録がほしい」と出産を望んだ。記録を残したい尚と、1人では抱えきれなくなっている真司。2人にとって新しい命は希望だ。絶望しない。大恋愛は希望の種。
(寺西ジャジューカ)
金曜ドラマ『大恋愛〜僕を忘れる君と』
脚本:大石静
音楽:河野伸
主題歌:back number「オールドファッション」
プロデューサー:宮崎真佐子、佐藤敦司
演出:金子文紀、岡本伸吾、棚澤孝義
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
※各話、放送後にParaviにて配信中