高橋一生主演のドラマ「僕らは奇跡でできている」。変わり者でマイペースな動物行動学者・相河一輝(高橋一生)と彼をとりまく人々の姿を描く。
脚本は『僕の生きる道』シリーズの橋部敦子。

先週放送の第9話のサブタイトルは「楽しかった日々の終わり」。理解者に恵まれ、毎日を楽しく過ごしてきたはずの一輝の身に何が……? と心がざわめいた視聴者も少なくなかったはず。
「僕らは奇跡でできている」好きなことだけやっている人は「迷惑なんだよ。悪影響なんだよ」今夜最終回
イラスト/Morimori no moRi

高橋一生の表現力が「すごいです」


前半は「楽しかった日々の続き」というべきものだった。鮫島(小林薫)の代理で授業を務め、事務長の熊野(阿南健治)に叱られ、育実(榮倉奈々)は山田さん(戸田恵子)に料理を習いに来る。

いつもとの大きな違いは、教え子の琴音(矢作穂香)に告白されたことだ。グイグイ行動する琴音のおかげで(?)、一輝と育実の関係は少しずつゆらぎはじめる。
山田さんに育実に対する本当の気持ちを訊ねられる一輝は「わかりません」と先送りにするが、一輝にヤモリ退治を頼んだ育実はつい抱きついてしまい、後から思い出して頭を抱える。ふたりは自分の気持ちをつかみかねているようだ。

ついに一輝は育実と向かい合って自分の気持ちを伝える。だが、それは独特の表現だった。

「水本先生(育実)は謎や不思議でいっぱいです。水本先生と一緒にいると感動や発見があります。
でも、いい思いだけではありません。嫌な気持ちになったこともありました。いろんな気持ちになります。つまり、僕は水本先生のことが……面白いです」

当然ながら困惑する育実。だけど、大切な部分は一度立ち去ろうとした一輝がまた戻ってきてから言ったひと言だった。

「やっぱりすごいです。
いろんな気持ちになるこの感情に、面白いって言葉をつけた人は、本当にすごいです」

彼は自分の感情が何なのかわかっていない。だから、肝心の部分を上手く説明できないのだ。単なる「面白い」なら何度も何度も言ってきた。満面の笑みを浮かべて、はっきりと言い切ればいい。だけど、このときの一輝は手の動きがもどかしげで、うっすらと涙ぐんでさえいた。一輝の心の動きを育実は読み取れない。
だけど、このセリフのところの高橋一生の表現力こそ「すごいです」。

要潤、激怒!「ここから消えてほしい」


一方、准教授の樫野木(要潤)の身の回りにも変化があった。別れた妻が再婚するというのだ。相手は脱サラして大好きな自転車の店を始めようとしている男なのだという。

樫野木は大いに動揺する。そして、自分の娘と楽しそうに交流する一輝に苛立ちをぶつけてしまう。

「黙れ! そりゃさ、相河先生みたいになれれば幸せだよね。
学力があって、できないことがあっても支えてくれる人がいて、好きなことだけやってられて。子どもはさ、キラキラした大人に憧れるけど、キラキラした大人なんてほんの一握りしかなれない!」

いつもは樫野木の言葉をかわしたり、逆に茶化したりしている一輝も固まってしまう。樫野木の明確な敵意を敏感に感じ取っているのだ。

「なのに学生たちも相河先生みたいになりたがっている。なれなかったらどうすんの? 責任とれんの? 相河先生はさ、ここだからいられるんだよ。よそじゃやっていけない。
それわかってる? わかってるなら、人生の成功者みたいな顔して学生たちを勘違いさせないでほしい!」

激しい樫野木の言葉を聞きながら、固まっていた一輝の表情がじわじわと怯えに変わっていく。目はうるみ、口元はかすかに震えている。

「迷惑なんだよ。悪影響なんだよ。ここから消えてほしい」

自分の居場所を潰されるような言葉を浴びせられた一輝は黙ってその場を立ち去ることしかできなかった。樫野木は自分が言い過ぎだとは思っていない。上司の鮫島に苛立ちを指摘されても、「他におっしゃりたいことはありますか」と呟いて席を立つ。

樫野木は一輝に振り回される典型的なカタブツとしてコミックリリーフのように扱われてきたが、彼には彼の考え方があり、彼の人生がある。そういう意味では、第8話の山田さんに近い。では、樫野木の苛立ちとは何なのだろう?

登場人物たちが身につける「赤」と「青」の意味


一輝と樫野木は対照的な人物だ。それは色を見れば一目瞭然。一輝のパーソナルカラーは赤。自転車やバッグ、フリースジャケットの一部にも赤が使われている。樫野木のパーソナルカラーは青。いつも青いシャツを着て、ネイビーのベストを着用している。

もう一つ、印象的な色使いがある。水本歯科クリニックで働いているときの育実の青い制服と、歯科衛生士のあかり(トリンドル玲奈)と祥子(玄覺悠子)の明るいピンク色の制服だ。

フィールドワークや自分の好きな研究に没頭するのが大好きな一輝と、仕事より自分の用事を優先するようなあかりと祥子。本当は好きだったフィールドワークを犠牲にして論文に打ち込む樫野木と、“あるべき自分”を追い求めて仕事に打ち込んできた育実。

そうやって考えると、赤やピンクは自分を優先する色、青は自分を殺している色として使われているのかもしれない。そういえば、一輝は学校の授業でいつも青いジャケットを着ていた。

樫野木の苛立ちは自分を殺していることに原因があるのだろう。彼ももともとはフィールドワークに没頭し、そのせいで家庭が壊れたと言っていた。まわりの人たちに助けられながら、好きなことを好きなようにやっている一輝が「人生の成功者」のように見える。

しかし、一輝はけっして「人生の成功者」などではない。一輝は一輝なりに何度も壁にぶちあたり、泣いたり、やりすごしたり、必死に理解して受け入れようとしていた。

たとえば、自分を生んだ母親が自分を置いて逃げてしまった。普通なら耐え難いことだ。その母親が何食わぬ顔をして帰ってきて、家政婦として働いている。これも異常なことかもしれない。だけど、一輝は「先送り」にしたり、あえて「山田さん」と呼んだりしながら長年かけて受け入れた。彼なりに苦労しているのだ。

一輝は今の居場所をこのまま失ってしまうのだろうか? 好きなことだけやって生きていくことは本当に簡単なことではないのだろうか? 彼のような存在は周囲に悪影響を及ぼすのだろうか?

今夜最終回。一輝が大学に辞表を出すというのだが……。ロシア語を勉強していたり、ゼミを開かなかったりしたのが伏線なのかもしれない。夜9時から。
(大山くまお)

「僕らは奇跡でできている」
火曜21:00~21:54 カンテレ・フジテレビ系
キャスト:高橋一生、榮倉奈々、要潤、児嶋一哉、田中泯、戸田恵子、小林薫
脚本:橋部敦子
音楽:兼松衆、田渕夏海、中村巴奈重、櫻井美希
演出:河野圭太(共同テレビ)、星野和成(メディアミックス・ジャパン)
主題歌:SUPER BEVER「予感」
プロデューサー:豊福陽子(カンテレ)、千葉行利(ケイファクトリー)、宮川晶(ケイファクトリー)
制作協力:ケイファクトリー
制作著作:カンテレ