「聖ちゃんがこの先ずっと
 笑っていられますように
 黒岩晶」


12月18日(火)放送の火曜ドラマ『中学聖日記』(TBS系)最終話。
「成人と未成年の恋愛ドラマ」に対し、当初は批判的な声も聞こえた。
しかし、そんな批判の声以上に、本作のストーリーは聖(有村架純)と晶(岡田健史)に対して現実的であり、いつも厳しい。

「相手、未成年ですよ。未成年誘拐、3ヶ月以上7年以下の懲役。これにわいせつ目的が加われば、1年以上10年以下の懲役」
「ちなみに、未成年者が承諾していたとしても、監護者である親御さんの意思に反していれば、罪は成立します」
「みんな言うんだよ、『合意の上だった』って」

警察官の言葉は、二人の恋を燃え上がらせるための舞台装置ではない。彼らは、二人を引き裂く悪い奴ではない。警察官たちの言ったことはただの現実であり、大人が意識すべき「こどもは守るもの」という社会的責任を告げただけのことだった。

ものすごい勢いのロマンスを、ものすごい強度の現実で殴りつける。
最終話「中学聖日記」ネット批判の上行く厳しい現実を描くドラマだった。衝動を削ぎ落した先の純愛観
イラスト/まつもとりえこ

聖「もう会うことはありません。黒岩くんにも、そうお伝えください」


愛子(夏川結衣)は、弁護士をとおして誓約書にサインするよう聖に求めた。晶に対して一切の連絡、接触を断つことを約束し、それを破れば即500万円を支払うことになる。そのとき愛子がどんな処分を求めても、聖は異議を申し立てることができない。そんな誓約書だった。


愛子や自分の母・里美(中嶋朋子)を裏切り、聖は晶に会いに行ってしまった。母親たちから聖と晶はそれぞれ「あなたを信じられない」と言われる。聖と晶は、周りに理解してもらえて信頼される大人になることに再び失敗してしまった。その代償としての、厳しい誓約書だった。

「誰が何を言おうと関係ない。僕は、先生さえいれば、それで……」

康介(岸谷五朗)の言葉で、晶も一度は周りに理解してもらうことを目指そうとした。
しかし、愛子たちからの強い反対を受けると、晶はまたすぐに反発する感情に突き動かされてしまう。

過去の聖だったら、強い感情に揺れ動く晶に戸惑い、反射的に突き放したり逃げたりしてしまっていた。いまの聖は違う。晶の衝動性とこどもだからこその不安定さに気づき、自分の意思でその場を動かず、晶と顔を合わせなかった。

「黒岩くんにとって大事なのは、未来です。どんなに心で思っても、表に出してはいけなかった。
本当に彼を思うなら、与えなければいけなかった。時間や、距離や、可能性。それが大人としての責任だったのに、そうできなかったこと。心から、お詫び申し上げます。もう会うことはありません。黒岩くんにも、そうお伝えください」

聖は、誓約書にサインをした。
それは、世間の目を恐れたためでも、愛子に申し訳ないと思ったからでもない。大切な晶のためだと思ったからこそ、自分の意思で書いたサインだった。晶と同じく不安定でこどものようだった聖は、ようやく大人としての責任を果たした。

『中学聖日記』の映像美。観覧車に乗せた別れと感情



聖は、晶と連絡を取ることも会うこともできなくなった。そんな聖を、勝太郎(町田啓太)は観覧車に連れて行く。
原口(吉田羊)に、聖を観覧車に乗せるように命令されたのだという。

ひとりで観覧車に乗った聖に、原口から電話がかかってくる。聖が電話に出ると、原口は別の人に電話をかわる。見下ろすと、地上には晶がいた。

「いままで僕は、聖ちゃんといると幸せで、自分のことしか考えてこなかった。でもいまは、聖ちゃんに幸せになってほしい。だから、もう会わない。連絡もしない。でも、ずっと願ってる。幸せにって」

晶の言葉に、聖は「私を変えてくれた。黒岩くんが、力をくれたの。この先、一人で立っていく力を。会えて良かった。さよなら、黒岩くん」と返事をする。この先、聖がどんな仕事をするか知らないはずなのに、晶は「きっと、良い先生になる!」と断言する。それを聞いて、聖が「えへへ」と「ふふふ」の中間のような、嬉しそうで愛おしそうな笑いをこぼす。

初回放送前に公開されたスピンオフムービー。9話の海辺を自転車で二人乗りするシーン。1話で二人が夕日に目を奪われるシーン。美しい景色に登場人物の感情を乗せた画づくりを続けてきた『中学聖日記』。今回の観覧車のシーンも美しかった。

原口や勝太郎に促されて観覧車に乗った聖は、地面から離れていく。地上を見ると、緑の芝の上に晶が立っている。青田に囲まれて空を仰いでいた中学生の頃の晶を思い出すが、青々とした背の高い稲に飲み込まれそうだった晶の姿はない。その足で、しっかりと地面を踏みしめている。

名残惜しさを感じるようなゆっくりとした速度で、聖を乗せた観覧車は晶から離れていく。聖は、観覧車の動きを止めることも、そこから飛び降りることもできない。二人が離れることは止められない。だけど、電話でお互いへの気持ちを確認し合った二人は、離れることを恐れていない。

こどものようだった聖と、こどもである晶。10歳の差があり、聖のほうが少しだけ先に大人になって、ひとり飛び立っていく。晶はまだこどもとしてやるべきことがあり、少し遅れて大人になる。観覧車は、二人の別れと感情だけでなく、そんな歩みの差をも表していた。

「純愛」とは何だったのか


みんなそれぞれの道に進む、という結末かと納得しかけた。しかし、二人が離れた2018年から5年後、タイで日本語教師をしている聖のもとに、大人になった晶が現れる。晶が持ってきた誓約書を見ると、聖は「平成30年」と書くべき日付を「平成2018年」と書き誤っていた。誓約書は聖に返された。それは、晶と聖が愛子に許されたことを意味する。

SNSでは「日付が誤っていたから無効」という説も出ていた。しかし、実は多少の書き損じがあっても簡単に無効にはならないそうだ。日付に関しては、複数の証人がいたり記録が残っていたりして「いつ書いたか」がはっきりとわかれば有効扱いになることも。

愛子は、誓約書が無効だから二人を許したのではない。有効だと知っていながら、いつか二人を許せたときに伝えるきっかけにするために、書き損じの誓約書を保管していたのではないだろうか。愛子が許そうと思えたのは、これまで約束を破ってばかりだった聖と晶が大人になって約束を守りとおし、信用を得たからだ。

塩谷「大丈夫。つらい思いをした人は、必ず強くなれます。すべてかけがえのない経験です。きっと、これからの人生に活きるでしょう」

塩谷(夏木マリ)が愛子に言ったこの台詞は、聖と晶に対してのメッセージでもあったと思う。

待つこと。信じること。反省をすること。約束を守ること。誰かを守ろうとすること。
大人になるにつれ、そういった地味でほとんど評価されないような営みに向き合う時間は増える。衝動的でドラマチックな感情に突き動かされては、自分で責任を負いきれないこともある。

「大人になる」とは、自分に嘘を吐くことではない。守りたい相手や周りの人のことを思い、自分にできることを精一杯考える。正解のないものに日々向き合うことと、それをおこなわせる力が純粋な愛。その先に、なりたい自分や求めていた答えが待っている。

ドラマ『中学聖日記』が描いた「純愛」は、邪魔する大人や世間のしがらみを振り切ってでも貫く熱い感情ではない。衝動を削ぎ落していった芯の部分にある、相手を思う気持ち。そんなシンプルなものが最も純粋で尊く、海と空を染めた夕日のように美しいことを、ハッピーエンドをもって伝え切った。

(むらたえりか)

火曜ドラマ『中学聖日記』
TBS系 毎週火曜よる10時から放送
出演:有村架純、岡田健史、町田啓太(劇団EXILE)、マキタスポーツ、夏木マリ、友近、吉田羊、夏川結衣、中山咲月
原作:かわかみじゅんこ『中学聖日記』(フィールコミックス/祥伝社)
脚本:金子ありさ
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、坪井敏雄
主題歌:Uru「プロローグ」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/chugakuseinikki_tbs/