TBSの日曜劇場「下町ロケット」(夜9時〜)がいよいよ今夜、最終回を迎える。先週放送の第10話の裏では、映画「シン・ゴジラ」がテレビ朝日で放映されていた。
そこで東京がゴジラに襲われていたころ、「下町ロケット」では新潟を水害が襲い、佃製作所の元経理部長の殿村(立川談春)の田んぼが稲刈りを前に全滅してしまった。しかし「シン・ゴジラ」がそうであったように、このドラマでも、自然の猛威に対し人々は科学技術の力をもって立ち向かう。

番組のあいまに流れたクボタのCMでは、「下町ロケット」でモチーフとなる無人農業ロボット(トラクター)が宣伝されていたが、そのキャッチコピーは「壁がある。だから行く。」というものだった。これはドラマのなかの殿村や、主人公である佃製作所の社長の佃航平(阿部寛)以下、社員たちにも当てはまるフレーズではないか。

軽部はじつはいいやつだった!


帝国重工の財前(吉川晃司)から再び無人農業ロボット「アルファ1」のプロジェクトへの協力を求められた佃は、考えた末にそれに応じる。だが、佃製作所の社内では、エンジンはともかく自社の開発途上のトランスミッションではライバルとなる中小企業連合の「ダーウィン」に太刀打ちできないのではないかとの声も上がった。何しろダーウィンには、伊丹(尾上菊之助)率いるギアゴーストの高性能のトランスミッションが装備されているのだ。

そこで佃は動く。かつてギアゴーストでトランスミッションの設計を手がけていたエンジニアの島津(イモトアヤコ)を社員として迎えるために。ギアゴーストをやめた彼女は、このときには大学で講師を務めていた。

しかし島津は迷う。ずっと請求していたアメリカの大学への推薦が下りたばかりだったからだ。
そこへ来て、伊丹からもギアゴーストに戻らないかと声をかけられた。しかし伊丹は、島津が来てくれるなら、彼女に代わって入れた氷室(高橋努)をやめさせてもいいとひどいことを言う。かつて自分から切った相手に戻ってきてほしいと頼むのも虫がよすぎる上に、これでは島津でなくとも「あんたってそういう人だったっけ!?」と言いたくなる。

結局、逡巡した末に島津は佃製作所を選んだ。佃が彼女の入社を伝えると、社員たちは驚きと喜びをもって歓迎する。もっとも、一人だけ手放しで喜べない者がいた。技術開発部にあって無人農業ロボットのトランスミッション開発チームのリーダーを務めていた軽部(徳重聡)である。

これまでにも自分勝手な言動でチームの和を乱しがちだった軽部(決まり文句は「定時だから」と「野暮ったいんだよなー」)は、島津が来て以来、ますます非協力的な態度が目立つようになる。それに対し、ついに立花(竹内涼真)がたまりかねて抗議するも、いつものポーカーフェイスで「定時だから」と退社してしまう始末。

だが、軽部の態度にはちゃんと理由があった。彼が定時退社していたのは、心臓の病気で通院する幼い娘を迎えに行くためだったのだ。そのことを技術開発部長の山崎(安田顕)から知らされたあと、立花と加納(朝倉あき)が職場に戻ると、そこには退社したはずの軽部が一人で作業を進めていた。
立花が問いただせば、島津が来てからというもの自分の仕事に専念できるようになったなどと言う。何て野暮ったいんだ!

あれ、でも軽部って、無人農業ロボット開発で手を組む北海道農業大学にも佃たちと出向いていたし、そのときも「定時だから」って言ってなかったっけ?(北海道に来てまで娘を迎えに行く必要はないはずだが)……なんてツッコミも野暮ったいか。
今夜最終回「下町ロケット」大切なのは意義だと訴える阿部寛に、ついに山本學が頭を下げた10話
イラスト/まつもとりえこ

殿村にのしかかる試練


ともあれ、そんなふうに佃製作所が、無人農業ロボット開発に本格的に着手したころ、ダーウィンプロジェクトは一歩先んじて、商品化に向け、農家に製品を貸し出して実地的なデータを得るモニター調査をスタートさせていた。

これに遅れてはならないと、佃たちもアルファ1のモニター探しに動き出す。当初、佃と山崎は殿村にモニターを依頼するが、父親の正弘(山本學)が先祖代々の田んぼをわけのわからないロボットに踏み荒らされたくないと拒否したため、断られてしまう。さらにほかの農家をあたったものの、帝国重工には下請け切りのイメージがつきまとい、引き受けようというところはなかなか見つからない。番組制作会社社長の北堀(モロ師岡)も参画するダーウィンプロジェクトは、「大企業=悪玉、中小企業=善玉」というイメージを世間に植えつけるメディア戦略においても一枚上手であった。

そこへ殿村の家を襲ったのが、冒頭に書いたとおり、大雨による水害である。田んぼが全滅した殿村は、農林協に融資を求めるも、よりによってその窓口となったのが以前から関係の悪い吉井(古川雄大)で、冷たくあしらわれてしまう。途方に暮れているところへ、今度は、殿村が先に農業法人入りを持ちかけられて断っていた同級生の稲本(岡田浩暉)と出くわし、「おまえが法人に入っていたら、こっちまで損害をこうむっていたところだよ」と悪態をつかれる。何という嫌がらせのTo Be Continued……。あまりにも悔しくて、軽トラのハンドルを拳で打ちつける殿さんの姿が切ない。

そんな殿村のもとへ、佃が援助物資を持って駆けつける。
そこで会社に戻ってこないかと殿村に持ちかけるも、農家を継いだ以上、そんなことはできないときっぱり断られてしまう。佃としてみれば好意のつもりであったが、殿村はすでに農業に人生を捧げると決意したのだとあらためて気づかされる。

後日、佃は財前や山崎らとともにあらためてモニターを依頼するべく殿村の家を訪ねた。あいかわらず父・正弘の態度は頑なで、人の不幸につけ込んで商売に利用しようとしているのではないかと突っぱねる。それに対し、佃は商売を否定するつもりはないと潔く認めた上、しかしそれ以上に大切なのは「意義」ではないかと訴えかけた。彼らの掲げる意義とは、少子高齢化が進み、存亡の危機を迎えようとしている日本の農業を救うことだ。そのためにも、どうしても殿村たちの協力が必要なのだと強調する。

さらに佃は、息子の殿村に会社に戻って来ないかと誘って断られたことを打ち明け、「私はそんな大切な友人を助けたい、その気持ちはこの国の農業に対しても同じなんです」と頭を下げた。その情熱に心を動かされ、ついに正弘からも両手をついて、依頼を引き受けるのだった。

最後に笑うのは意義ある者たちか


意義。佃たちにあって、ダーウィンプロジェクトの面々が忘れているものがこれだろう。ドラマのなかで、転倒する帝国重工のアルファ1の映像を繰り返し観ながら大喜びするシーンがあったが、そこに彼らのおごりを感じずにはいられない。
とくに伊丹と重田(古舘伊知郎)にとっては、宿敵である帝国重工の的場(神田正輝)に復讐することこそ最大の目標で、無人農業トラクター開発はそのための手段にすぎないともいえる。

これに対し、佃や財前らは無人農業トラクター開発を、先述のように日本の農業を救うという目標を掲げて始めた。したがってダーウィンに勝利することは最終的な目的ではない。しかし行きがかり上、ダーウィンを倒さないことには、本来の目的を達成することもおぼつかないのもまた事実である。

折しもダーウィンプロジェクトが首相肝煎りのICT農業推進プロジェクトに認定され(ICTとは情報通信技術のこと)、アルファ1もダーウィンとともに、首相の前で実演することが決まった。いわば御前試合である。前回のアグリジャパンでの対決ではあくまで観戦者にすぎなかった佃や島津が、最終決戦では戦う側に加わり、果たしてどんな反撃に出るのか、見届けたい。
(近藤正高)

※「下町ロケット」はTVerで最新回、Paraviにて全話を配信中
【原作】池井戸潤『下町ロケット ヤタガラス』(小学館)
【脚本】丑尾健太郎
【音楽】服部隆之
【劇中歌】LIBERA(リベラ)「ヘッドライト・テールライト」
【ナレーション】松平定知
【プロデューサー】伊與田英徳、峠田浩
【演出】福澤克雄、田中健太
【製作著作】TBS
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