昨日放送された「下町ロケット」新春ドラマ特別編(TBS系)は、去年12月まで日曜劇場で放送された本編の展開をことごとくひっくり返し、佃航平(阿部寛)率いる佃製作所が理想を貫き、最終的に勝利を収めた。

本編の第2部「ヤタガラス編」では、無人農業ロボットの開発をめぐり、佃製作所が提携した帝国重工と、ダイダロス・ギアゴースト・キーシンによる中小企業連合がしのぎを削った。
だが、帝国重工が売り出した「ランドクロウ」は、中小企業連合の「ダーウィン」を相手に苦戦する。
「下町ロケット」新春ドラマ特別編はまるで大人向けの戦隊ヒーロー物だった。農業ロボット、発進!
「下町ロケット」新春ドラマ特別編の原作となった池井戸潤『下町ロケット ヤタガラス』(小学館)

悪役・的場は失脚するもモヤモヤが残る


ランドクロウのプロジェクトを指揮する的場(神田正輝)は結果を急くあまり、ダーウィンにかかわっていた下請け企業に圧力をかけて手を引かせる。そのためダーウィンの出荷は一時中断されるも、そんな強引な手がずっと効くわけもない。中小企業連合は帝国重工を下請法違反として訴え、的場は逆に窮地に追いこまれた。腹心だった奥沢(福澤朗)にも、後ろ盾となってきた会長の沖田(品川徹)にもとうとう見捨てられ、彼は失脚する。

中小企業連合のうちダイダロスの重田(古舘伊知郎)とギアゴーストの伊丹(尾上菊之助)はこれまで、因縁の相手である的場に復讐することを第一にダーウィンプロジェクトを進めてきた。それだけに的場の失脚は、彼らにとって喜ぶべき結末であったはずだ。だが、いざ勝利してみるとむなしさだけが残った。伊丹にとっては、このとき司法に訴え出るよう入れ知恵した法律顧問が、これまた因縁の相手である元弁護士の中川(池畑慎之介)とあって、よけいに複雑であった。

窮地に追いこまれた伊丹は佃に頭を下げるが……


この間、本編ですでに予兆が現れていたとおり、ダーウィンに対しユーザーから動かなくなったというクレームがあいついでいた。原因はギアゴーストの開発するトランスミッションにあることは薄々わかってはいたものの、開発主任の氷室(高橋努)はずっと見て見ぬふりをしてきた。だが、そうしているうちに問題は深刻化し、ギアゴーストはもはや逃げられない状況に追いこまれる。この段になってもなお自らのプライドにこだわる氷室を、伊丹は叱責するのだが、なぜもっと早くそれができなかったのか。結局、氷室は敵前逃亡するように会社をやめる。
中小企業連合内でも、それまで氷室からさんざん責任転嫁されてきたキーシン(無人走行制御システムを担当)の戸川(甲本雅裕)がここぞとばかりに伊丹を責め、関係がぎくしゃくするようになる。まあ、その戸川だって、佃の友人である北海道農業大学の教授・野木(森崎博之)から盗んだ開発データでシステムをつくったわけだけれども……。

ギアゴーストの柏田(馬場徹)たちは、佃製作所の開発したランドクロウのトランスミッションと照らし合わせた結果、不調の原因はトランスミッションのシャフトにあると突きとめる。しかしそれをどう改善すればいいのか皆目わからない。佃製作所の開発したシャフトを使うにしても、すでに特許が取られており、許可が必要だった。

そもそもギアゴーストのトランスミッションは、伊丹が同社から追い出した島津(イモトアヤコ)の開発したものが原型となっていた。本編の最終回で描かれたように、島津は佃製作所に移ると、技術開発部の面々と一丸となってシャフトを改善し、問題を克服していた。その際、佃の勧めできちんと特許をとっていたことが、じわじわと効力を発揮する。

このままいけばリコール(製品を無償で回収・修理すること)を実施せねばならない伊丹は、シャフトの使用を認めてもらうため、佃のもとを何度も訪ねては頭を下げる。だが、かつて危機に陥ったギアゴーストを佃製作所は全社を挙げて支援したにもかかわらず、伊丹が裏切ってダイダロスやキーシンとついたという経緯から、当然ながら佃は拒まざるをえなかった。佃以上に社員の反発は強く、技術開発部の立花(竹内涼真)にいたっては、もし伊丹の要求を飲むなら会社をやめるとまで言い出す。

嵐と共に恨みも去りぬ


このころ帝国重工は、的場の失脚によりプロジェクトのリーダーに復帰した財前(吉川晃司)のもと、農業ロボットの第2弾として無人コンバインを完成させ、さらに農業ロボットによるキャラバンを編成し、台風などの災害時には出動して全国各地のユーザーを支援する体制を整えていた。


そこへ大型台風が日本に接近する。当初は、関東への上陸が予想されたため、キャラバンは埼玉県深谷市の要請を受けて出動するも、台風の進路が外れたため中止となる。結局、台風は北陸地方を直撃するのだが、そこには佃製作所の元経理部長の殿村(立川談春)が農業を営む新潟県燕市も含まれた。佃は殿村の家で使われるコンバインの様子を見るため、島津や技術開発部の山崎(安田顕)、加納(朝倉あき)、そして立花をともない新潟へと駆けつける。

殿村の家のコンバインは、父・正弘(山本學)の早急の判断で稲刈りに着手したこともあり、しっかりと実力を発揮した。一方で、これまでさんざん殿村をバカにしてきた農業法人の稲本(岡田浩暉)は予想を誤り、台風上陸の直前になってやっと稲刈りを始めたものの、とても手が足りない。そこで泣きついたのが誰あろう殿村だった。殿村は、同じコメづくりをする者として稲本の気持ちを汲むと、それまでの恨みを水に流し、彼に使っていないコンバインを提供する。これに心を動かされた佃は、財前にキャラバンの出動を要請。稲本はダーウィンのユーザーであり、本来なら帝国重工が助ける筋合いではないのだが、財前は独断で出動を決めた。

強い風雨が叩きつけるなか、稲本の田んぼを2台の無人コンバインがぐんぐん稲を刈り取っていった。一瞬、コンバイン同士が衝突しそうになるも、島津の機転と野木の協力により無事に回避する。
このとき、トレーラー車内のコントロールルームからロボットに指示を与えるさまは、まるで戦隊ヒーロー物のようでかっこよかった。

いや、振り返ってみると「下町ロケット」は全編を通して、佃製作所の社員が正義のため力を合わせて戦う、いわば大人向けの戦隊物だったのかもしれない。たとえ個人的に恨みを持っていようとも、大きな目標(この場合は日本の農業を救うこと)を前には、それはささいなことにすぎない。だから敵であろうとも、相手が困っているのなら手を差し伸べる。実際には、そこにいたるまで佃も立花や殿村も何度も躊躇したわけだが、それでも最後には稲本や伊丹を助けることを選んだのだった。独断でキャラバンを出動させた財前も、会社の懲罰委員会にかけられるが、農業ロボットの位置測定に用いる準天頂衛星ヤタガラスはそもそも国民に遍く利用されるために打ち上げられたとの理念を持ち出し、社長の藤間(杉良太郎)からは結局お咎めなしとなる。

劇中の的場や氷室のケースのように、責任を他人に転嫁したり、問題を放置したおかげでしっぺ返しを食らうということは、現実にも起きがちだ。昨年も、日本を代表する大企業をはじめ、さまざまな組織で問題が噴出したが、今回のドラマ特別編はそれに対しあらためて警鐘を鳴らしていたようにも受け取れた。

新春ドラマ特別編は、「下町ロケット」シリーズ恒例のロケット打ち上げのシーンで締めくくられた。今回のそれは佃たちの新たな挑戦、またアメリカの宇宙関連企業をめざす佃の娘・利菜(土屋太鳳)の可能性を示唆するかのようであった。

※「下町ロケット」はTVerで今回の特別編、Paraviにて全話を配信中
【原作】池井戸潤『下町ロケット ヤタガラス』(小学館)
【脚本】丑尾健太郎
【音楽】服部隆之
【劇中歌】LIBERA(リベラ)「ヘッドライト・テールライト」
【ナレーション】松平定知
【プロデューサー】伊與田英徳、峠田浩
【演出】福澤克雄、田中健太
【製作著作】TBS

(近藤正高)
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