8月22日に放送された『科捜研の女』(テレビ朝日系)の第14話。こんなにも先が読めず、斜め上に突き進むドラマを観たのは久しぶりである。


第14話あらすじ


内科医院の元院長・瀬田一郎(鶴田忍)が、自室で何者かに殺害された。死因は、側頭部を細い凶器で強打されたことによる脳挫傷。臨場した榊マリコ(沢口靖子)たちは、室内から1通の“葬儀契約書”を見つける。一郎本人が生前予約したらしいが、遺族は寝耳に水だった。
直後、司法解剖に入ろうとするマリコの前に葬儀プランナー・神城峰子(中島ひろ子)が現れる。峰子は一郎が葬儀の生前契約を結んだ相手で、一郎が死後すみやかに火葬するよう望んでいたことを明かし、解剖が終わり次第、遺体を預かると申し出た。峰子は墓場まで持っていきたい秘密を遺族に絶対バレないようにする葬儀プランナーとして有名で、同業者の間で“秘密屋”と噂されているという。一郎には家族に隠し通したい秘密があった?
そんな中、現場に落ちていた透明な微物がマニキュアのトップコートの破片だと判明。これは、ギターが趣味の孫・数真(大地伸永)が爪を保護するため塗っていたもの。彼はスマホでラジオを聴いていたが、成績が上がるまではと母親にスマホを取り上げられていた。愛聴するラジオ番組『カレンの華麗なるお仕置き』を聴くため、数真は一郎の部屋からラジオを拝借する。実は、この番組には一郎も投稿していた。
一郎は契約内容の一部を変更したいと峰子を自宅に招いたが、峰子が到着すると一郎は亡くなっていた。
峰子は一郎が「棺の中に入れてほしい」と希望した赤いピンヒールを現場から持ち出した。このピンヒールは一郎殺害の凶器に使われており、ここから発見された血液指紋が家政婦・加藤佐奈(飯島順子)と一致。以前から一郎の預金をたびたび引き出していた佐奈。この日はたまたま部屋に忍び込んでいるところを一郎に見つかり、ピンヒールで殴って殺してしまったのだ。
一郎が“墓場まで持っていきたい秘密”は『カレンの華麗なるお仕置き』ハガキ職人・毒医者ヤブ太郎の正体が自分ということ。「家族にガッカリされたくなくて本当の自分になれない」と悩んでいたが、数真がこの番組のラバーバンドを着けているのを見つけ、全てを話そうと思い直していた。「あの人、こんなくだらないことを墓場まで持っていくつもりだったの?」と家族は大笑いし、数真は「毒医者ヤブ太郎のラジオネームを継ぐよ」と宣言した。
「科捜研の女」驚愕セーラームーン回、三石琴乃の「華麗なるお仕置き」と殺された祖父とラジオの謎14話
イラスト/サイレントT

セーラームーンはれっきとした伏線


もしも、自分がラジオ番組に送ったネタやラジオネームが家族にバレたとしたら……。考えただけで身の毛がよだつ。昨夏、テレビ朝日ではデジタル遺品を削除するドラマ『dele』が放送された。でも、死後に残る秘密はデジタルとは限らない。

全く展開が読めなかった14話。今回のあらすじを要約すると、厳格な祖父に愛人がいると思いきや、彼の正体は有名なハガキ職人。
孫もリスナーだとわかってカミングアウトしようと思った矢先、番組ノベルティのピンヒールで殺されてしまったという話だ。よくもまあ、こんな脚本を書けるものである。ピンヒールが凶器とわかった瞬間、筆者はてっきり一郎に女装趣味があるのかと思ってしまった。違う。最優秀賞に選ばれたハガキ職人への賞品だ。考えてみてほしい。ノベルティグッズが赤いピンヒール。なんてリスナーを大切にする、太っ腹な番組なのか。

力づく過ぎる伏線も、それはそれでチャーミングだと笑って許したい。色々と唸る伏線だった。
ラジオパーソナリティ・日向寺カレンを演じたのは声優の三石琴乃で、彼女の代表作は『美少女戦士セーラームーン』(テレビ朝日系)。ラジオ番組のタイトル『カレンの華麗なるお仕置き』は、セーラームーンの決めゼリフ「月に代わってお仕置きよ!」を意識しているし、赤いヒールと言えばセーラーマーズだし、カレンの着けるイヤリングは月の形をしていた。
しかも、最優秀リスナーは番組の世界観に則って“最優秀下僕リスナー”と呼ばれるのだ。愛人だの何だのはただのミスリードで、一郎とラジオの関係を最初から暗に知らせてくれていた。全てが伏線であり、『科捜研の女』スタッフも意味なくぶっ込んでるわけではない。

重要な伏線は他にもある。自分の正体を隠す一郎は、自戒の念で「嘘はいかん!」を口癖にしていた。そんな彼が「秘密を守り通したい」と峰子を頼りにする。一方で、「家政婦は見た」と言わんばかりに秘密をベラベラと喋り倒していた佐奈。やはり、喋り過ぎの奴が犯人だったのだ。
家を忍者屋敷のように改造した一郎。隠し扉を開けるには、カエルの置物を動かさなければならない。優秀なハガキ職人の血を受け継ぐ、ラジオの構成作家志望の孫。「カエルの子はカエル」ではなく「カエルの孫はカエル」だった。
もしかすると、これもヒントだったのか。

焼かれながら科学調査したいマリコ


例によって、エンディングはマリコと土門薫(内藤剛志)のツーショット。マリコから「墓場まで持っていきたい秘密は?」と問われた土門は意味深な表情になり、うしろを向いた。マリコへの恋愛感情を墓場まで持っていこうというのか? もどかしい男だ。土門の秘密を視聴者は全員知っているという、この甘酸っぱさ。

マリコには秘密などない。自分の葬儀を想定した際、“棺に入れてほしいもの”にサーモグラフィを指定し、死装束には白衣を希望。焼かれながら火の温度を測定するつもりのようだ。彼女は成仏できないのではないか?
「死んでも忙しい人だね」(日野所長)

「科捜研の女」より「火葬研の女」とでも呼びたい、楽しい14話だった。
(寺西ジャジューカ)

木曜ミステリー『科捜研の女』
ゼネラルプロデューサー:関拓也(テレビ朝日)
プロデューサー:藤崎絵三(テレビ朝日)、中尾亜由子(東映)、谷中寿成(東映)
監督:森本浩史、田崎太 ほか
脚本:戸田山雅司、櫻井武晴 ほか
制作:テレビ朝日、東映
主題歌:今井美樹「Blue Rain」(ユニバーサル ミュージック/Virgin Music)
※各話、放送後にテレ朝動画にて配信中
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