
文豪・川端康成の作品をモチーフに、奇妙なお通夜を行う高校の同級生たちを描いた映画『葬式の名人』が全国順次公開中だ。
今年、実生活でも母親となった女優・前田敦子が自身初となる母親役に扮し、女手一つで息子を育てながら、大切な人との別れに直面する雪子を演じる。前田自ら節目の作品と位置付ける本作は、出産前の彼女の母親姿が見られる最後の作品ともなった。笑いながら切なくなって、切なさのあとに笑顔が生まれる本作で、彼女が感じたものは何だったのか? 自身の変化と共に今の思いを語ってくれた。
取材・文/瀧本幸恵 撮影/石井小太郎
初挑戦の母親役 演出に戸惑いも?


――今回は初の母親役に、初の関西弁など、初めてが多い作品でしたね。
前田敦子(以下、前田):撮影をした(大阪府)茨木市で先行上映されたんですけど、たくさんの方が観に来てくださってると聞いて、すべてが救われた気がしました。やはり関西弁は不安が大きかったんです。事前に練習できる時間もあまりなくて、撮影中も現場での出来事をあまり覚えていないくらいタイトだったので(苦笑)。
――母親役はどうでしたか?
前田:監督からも母子の部分を大事にしてほしいと言われていたんですけど、すごく(雪子の息子・あきお役の阿比留照太が)人懐っこくてすぐに仲良くなれたので心配するようなこともなくて。撮影があるときはずっと私の楽屋にいてくれて、私から歩み寄らずとも向こうから来てくれる感じで、現場でも楽しそうにしていて。かなり助けられたと思います。
――今作は川端康成の作品からモチーフを得て作られたオリジナル作品ですが、脚本を読まれたときはどう思いましたか?
前田:出演のお話をいただいた時点で脚本も読ませていただいたんですけど、その時点から面白かったので、どんな風な映像になるんだろう? っていうのが楽しみでした。それで、撮影に入ると、先に入られていた(同級生・豊川大輔役の)高良(健吾)さんが「すごく面白いものが撮れてると思うから、これからが楽しみ」って興奮気味に言ってきてくださって。映画が大好きな高良さんがそんな風に言うんだったらすごい楽しんだろうな、っていう入りでした。
ただ、今回は監督からの演出がほとんどなくて。だから現場でみんなで話し合いながら作り上げたという感覚が強かったです。こんなにがっつり話しながら作ったのは初めてっていうくらいでした。
――では、キャスト同士でじっくり話し合う時間が?
前田:そうは言っても立ち止まってる時間もあまりなかったので、もう撮りながらって感じでしたけど(苦笑)。監督は「すごくいいものが撮れてるから大丈夫です」って、ずっとニコニコされていて、質問をしても「大丈夫です」っておっしゃるだけで。だからそれを信じるしかないな、って思ってやっていました。でも出来上がったものを観たときに、監督の意図していたことがすごくよくわかって。逆に何も言わずにいてくださってありがとうございました、って思いましたね。


――監督は前田さんがものすごい集中力で演じてくれたとコメントされていました。
前田:最初は監督が何も言ってくださらないことに戸惑ったんですけど、逆に自分を信用してくださっているんだって、いい風に考えるしかないとも思って。ほかのキャストの方々も信じるものは自分だけという思いで闘っていたと思います。でもそういう演出を受けることの方が少ないので、すごくいい経験でした。監督もいつもそういう演出をされているわけではないと思うんですよ。今回はずっと川端さんが俯瞰から見ているかのように撮りたかったからとおっしゃっていて、敢えて客観的にいらっしゃったみたいで。
あとから言われたことなんですけど、その意図を言ってしまうと、みんながそれを意識して、違うものに変わってしまうのが嫌だった、って。なので違う作品だったらどんな演出をされるのかが気になりますね。ぜひまたお仕事をご一緒したいなと思っています。
――先ほど脚本の時点から面白かった、とおっしゃっていましたが、どの辺りがそのポイントでしたか?
前田:ファンタジーなのに、それぞれの登場人物がすごく人間らしかったり。言葉のキャッチボールが多いんですけど、それが自然だったり。脚本を読んだときは私には子供はいなかったんですけど、母子の関係ってきっとこうなんだろうなって、想像ができたり。
それでいて夢のシーンとかは、どこから夢でどこから現実かわからないような心地よさがあったり。不思議な脚本だなって思いました。それから、(豊川役を)高良さんがやってくださるっていうもわりとすぐに決まったので、高良さんで想像するとさらに面白いな、って。今回の高良さん、私、すごく好きなんです。純粋でピュアでかわいいですよね(笑)。それはお芝居をしていてもそうでしたけど、脚本の時点から想像できました。
初めての人のお芝居って素敵 親子の関係は自然と


――雪子を演じる上で意識していたことはありますか?
前田:雪子は28歳で、私と同年代の女の子ですけど、経験はいろいろしていて。それをひとりで頑張って乗り越えてきただろうに、今またひとつ、自分の大切なものと向き合わないといけない場面に来ている。だから同窓会の雰囲気で、みんな楽しくっていうなかでも違う感じがあって。
ただ、それがいろんなことを抱えていることからなんだっていうのが観ている方に伝わらないと、単にふてくされてるだけの人になってしまうから。そこは意識していました。みんなと話がしたいっていう気持ちもあるけど、それよりも考えて整理しなくちゃいけないことの方が多かっただろうし、その距離感が画面を通してどう映るかは心配でもありました。最後にいろんなことがわかって、観ている方が「それはそうだよね」って、腑に落ちるようでないと。ただ、息子とのシーンは、さっきも言ったように私が考えたり、心配する必要がまったくないくらい自然体な子だったので。むしろ私のセリフも全部覚えていてくれたくらいで。
――それはまたすごいですね。
前田:ずっと私の楽屋にいるから、「次のシーンの長セリフ大丈夫?」とかって聞くと、「覚えてるから大丈夫!」って言って、それがホントに覚えてるんですよ。台本一冊覚えてるって言ってて、私が「次、何だっけ?」って聞くと、教えてくれるくらい完璧(笑)。ホントに天才だと思います。これからが楽しみですね。
――雪子とあきおは単なる仲良し親子っていう感じではなくて、いろいろ微妙な関係性でもありましたよね。
前田:親子って言っても人と人だよなって。自分が子供のときのことを考えても、それなりにいろいろ理解もしてたし。それに子供ってすごく純粋で真っすぐじゃないですか。だからこそわかってしまっているんだろうな、っていう感覚もありましたね。
――それを照太くんとやるのはどうでしたか?
前田:照太くんはモデルはやってたみたいなんですけど、お芝居は今回が初めてで。初めての人のお芝居ってホント素敵なんですよね。私たちにはないすごいものが出てきたりするんです。何でも真っすぐ向かってきてくれるので、それに応えるだけでよかったですね。


――高良さんとはこれまで共演もありますが、今回はいかがでしたか?
前田:今回、高良さんはすごく現場を引っ張ってくださいました。もともと真面目な方だとは思っていたんですけど、いろいろ考えて、それをみんなに投げてくれるし、引っ張ってもくれる。頼りがいがありました。役者としてカッコイイ方だなって改めて思いましたね。お芝居をする上でも、高良さんってすごくシンプルに役と向き合われているイメージがあるんですけど、今回もまさにそうで。純粋でピュアな役を、ホントに純粋にやられてました。
――前田さんは日本の古い映画もお好きですが、往年の名女優である有馬稲子さんとの共演はいかがでしたか?
前田:いろいろお話もしてくださったんですけど、緊張しすぎて覚えてないんです(笑)。幻かなって思ってしまうくらい感動しました。もうすべてがキレイで。お芝居も、見た目も、しゃべり方も、何もかも。現場での居方も間近で見学させていただいたんですけど、作り込むこともなく、その場の状況に柔軟に対応されていて。本当に素敵でした。
女子トーク解禁! 部室シーンは楽しんで

――撮影をしていて印象に残っているシーンはありますか?
前田:大変だったのは、雪子とあきおのアパートでのシーンですね。撮影は昨年の夏だったんですけど、冷房がない狭い室内で、スタッフさんとぎゅうぎゅうになりながら撮ったので(苦笑)。で、楽しかったのは、部室のシーン。ほぼ2日間で全部撮ったんですけど、セリフの掛け合いが多くて、そのやり取りが楽しかったです。確かに、セリフ量は多いし、大体が一連で撮ったので、覚えるのは切羽詰まりましたけど(笑)。あとは夢の中のシーンも印象に残ってます。現実離れしているのに、なんかそれを淡々と、当たり前のように撮っていて。今思えば不思議だなって思いますし、出来上がったものを観てもどこから夢で、どこから現実かわからないところが面白いな、って思いました。
――同級生が集まるシーンはどうでしたか? 意外と実際の歳の差はあったりしますよね。
前田:みんな仲良くやってましたよ。特に(緒方慎吾役の)尾上(寛之)さんは茨木市の出身なので、男子チームはよく一緒にご飯に行ったり、銭湯にも行ったりしてました。私はそんな時間が全くなかったので、楽しそうでうらやましかったです。あとは、わりと私はあきおか、高良さんか(吉田創役の)白洲(迅)くんっていう、男子に囲まれての撮影が多かったので、同級生の女子たちが集まるシーンは嬉しかったです。女子トークができる~って(笑)。教室が控室だったんですけど、そこに集まっておしゃべりしたりして楽しかったですね。


――今作は全編、茨木市で撮影されたそうですが、思い出に残る場所などはありますか?
前田:私、泊まっていた場所と撮影場所の往復だけでほとんど街に行けてないんです。なので場所というと難しいんですけど、街の皆さんにはすごく撮影に協力していただいて、それは思い出に残ってます。土地柄かしゃべり方も少し京都弁っぽい雰囲気があって、物腰も柔らかくて、優しい方ばかりでした。場所も快く貸してくださいましたし、エキストラもすぐに集まってくださいましたし、なんのトラブルもなく撮影ができたのは、街の方たちの優しさのおかげだと思います。強いて場所を挙げるなら、太陽の塔なんですけど、茨木じゃない(住所は吹田市)んですよね(笑)。ちょうど私の通勤途中にあって、それを行きも帰りも眺めてました。ただ、最近になって、夜になると目の部分が光るって知って。毎日見てたのにそれには気づいてなかった(笑)。
――主演として意識したことはありましたか? ここ最近、脇役として作品に関わることも多かったので、それを経て思うところがあったりもするのかな?とも。
前田:そこはあまり関係ないというか。相変わらずいろんな役をやらせていただいてるだけなんですけど、主演だからこうしなきゃ、みたいなのは、逆に必要ないのかなって思っているんです。ただ、やはりセリフの量は多くなるので、それをちゃんと覚えるのは使命だなと(笑)。役に対する柔軟性はどのポジションでも必要だと思いますし、もしかしたら少ししか出番がない役の方が柔軟性は必要なのかもしれないし。 それから、主役は物語の軸にならなきゃいけないな、とは思うので、その違いはあるかもしれませんね。あとは監督に一番ついていかなきゃいけないのが主役なのかな。監督に寄り添える、一番近い存在でないといけないな、とは思います。
子育てと映画鑑賞は両立中!

――インスタグラムで今作について「色々な想いが詰まりに詰まってます。でもあのときと今、また違うんです」とコメントをされていたのですが、それってやはりご自身が母親になられたということが大きいのでしょうか。
前田:私にとってちょうどいろいろな変化があったときの節目の作品になったので。初めての母親役を母になる前にやって、それが母になってから公開される、こんな運命ってあるのかなっていう。母親になっていろいろ考えも変わったので、完成したものを観たときはまた違った感情がありました。自分が出ている作品なのにすごく感動して。それは母親目線で観てるからなんだろうな、って。そんな自分にびっくりしました。
――それから、この物語はファンタジーなんですけど、現実的な部分もしっかり描かれていて、そのギャップがまた切なさを際立たせるような気がしました。
前田:みんなそれぞれに切なさはあるけど、特に雪子は切ないですよね。ただ観ていて思ったのが、創って本人はしゃべらないから背景は全く描かれていないのに、みんなが彼を思い出してする会話で、すごくいい人だったんだなっていうのがわかるじゃないですか。だから雪子はいい人と付き合っていたんだな、って思って、そういう意味ではちょっと優越感に浸れました(笑)。
――確かに男性の豊川でさえ、恋しちゃってるのかな? っていうくらいの勢いで好きでしたもんね。
前田:ライバルが男女関係なく(笑)。現実は厳しいかもしれないですけど、雪子はホントいい人と一緒にいられたんだ、っていうのは良かったですね。


――今、前田さんは雪子と同じように母親になられて、さらに精力的にお仕事もこなされているイメージがあるのですが、自分の時間ってあったりするんですか?
前田:それが意外とあるんです(笑)。寝るのはすごく早くなりましたけど、夜はほとんど自分の時間です。子供が産まれてから時間の使い方にメリハリができて、仕事に行ってる間は仕事、家に帰ってきたら子育てって、集中してるから全部がいい感じなんです。その中でもこの時間は私がいなくても大丈夫ってときは、ジムや整体に行ったりもしてメンテナンスもできているし。ラッキーな環境だなとは思ってます。
――では、大好きな映画を観る時間も残されてはいるんですね。
前田:あるんですよ。子供が大体夜の6時半~7時くらいには寝てくれて、最近は2食しっかり食べるので、おなかもいっぱいみたいで夜中も起きないんです。なので、ずっと隣にはいますけど、配信系の動画サービスとかだと携帯でも観れちゃうので、イヤホンをつけて、光を一番暗くして2時間くらい観て寝るっていうのもやってます。それが楽しいですね。

――最後に完成作を観て、改めて感じたことを教えてください。
前田:何があっても前向きでいたいですよね。向かう先はそこがいいです。大切な人との別れは誰にでもあって、それが若いうちに来る人もいれば、これから先の人生で経験する人もいるけど、みんな同じようにあることだと思うんです。だからそんなときに、何があっても目の前にある幸せをちゃんと見ておきたいな、って。この作品はそこがきちんと描かれているので、私は好きだなって思いました。自分にとって大切な人って両手いっぱい(10人)で、なくなったらまた増えていくものだっていう話を聞いたことがあるのですが、まさにこの作品はそういうものが感じられると思います。
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作品情報

映画『葬式の名人』
全国公開中
出演:前田敦子、高良健吾、白洲迅、尾上寛之、中西美帆、奥野瑛太、佐藤都輝子、樋井明日香/有馬稲子
監督:樋口尚文
原案:川端康成
脚本・プロデューサー:大野裕之
(c)2018 “The Master of Funerals” Film partners
公式サイト:http://soushikinomeijin.com/
ストーリー
大阪府茨木市―木造アパートで息子・あきお(阿比留照太)と二人で暮らす28歳・渡辺雪子(前田敦子)。そこに、茨木高校時代の同級生・吉田創(白洲迅)の訃報が届く。野球部で吉田とバッテリーを組んでいた豊川大輔(高良健吾)ら、旧友たちが遺体の安置所に集まると、進学校を卒業した同級生たちはそれぞれ自分の道を歩んでいて、工場勤めシングルマザーで、家賃の支払いにも窮する雪子は肩身が狭い。
そんな中、高校時代、ピッチャーだった吉田がケガで野球を断念した無念を知る豊川は、「吉田をもう一度、母校・茨高(いばこう)へ連れて行ってやりたい」と提案。吉田の棺桶をかついで茨木の街を練り歩き、久しぶりに母校を訪れ、思い出話で盛り上がる。と、ここで熱血漢の豊川がささいなことで葬儀屋と喧嘩をしてしまい、彼らは母校の中で、吉田のお通夜を行うはめになってしまう。
プロフィール
前田敦子(マエダアツコ)
1991年7月10日生まれ、千葉県出身。2005年よりAKB48のメンバーとして活躍し、2012年に卒業。2007年『あしたの私の作り方』で映画デビュー。AKB48在籍中から俳優業も積極的に行い、2010年には大河ドラマ『龍馬伝』(NHK)にも出演。その後も数々のドラマ、映画で主演を含む、出演作を重ねる。2019年は『マスカレード・ホテル』『コンフィデンスマンJP -ロマンス編-』『町田くんの世界』『旅のおわり世界のはじまり』(主演)と、今作を含む5本の映画に出演。