倉本聰・脚本「やすらぎの刻~道」(テレビ朝日系・月~金11時30分~)第26週。

先週はお化けメイクをした老人たちのドタバタが描かれたが、今週は再び菊村栄(石坂浩二)の脳内ドラマ「道」パート。


敗戦直後のドタバタした混乱っぷりが描かれた。
「やすらぎの刻~道」アメリカ兵にタマ抜かれるんじゃないかと心配。こんな敗戦ドラマ見たことない第26週
イラストと文/北村ヂン

バカとシリアスの振り幅で敗戦の混乱を表現


天皇陛下の玉音放送を受けての敗戦。普通のドラマならどう考えてもシリアスにしか描けない場面だ。

戦中も、あれだけマイペースに日常を送っていた「この世界の片隅に」の、すずさんですら玉音放送を聴いた後には号泣し、叫んでいた。

しかし、根来家の人々は玉音放送の内容をまったく理解できず。「堪え難きを堪え、忍び難きを忍び」という言葉を、「みんなで頑張ろうっておっしゃったんだろう」なんて解釈。

当時、玉音放送を聴いても何を言ってるんだかちっとも分からなかったという証言は多いが、このとぼけた感じは、リアルに終戦を経験していないと書きづらいところだろう。

そんな根来家の人々も、敗戦を知らされてからはさすがに大騒ぎしていたが、敗戦の悲しみというよりは、アメリカ兵に襲われるだの、タマを抜かれるだのというデマに踊らされていた面が強い。

「もし(アメリカ兵に)運悪く取り押さえられたら『ノー! ノー!』。そして目下生理中という意味の『メンス』……『メンス』という言葉を叫べ!」

お昼のドラマでなんちゅうことを言うのか。「メンスと叫ぶ」なんていうアメリカ兵撃退法、聞いたことがなかったが、いかにもありそうなデマではある。

「め……メンス!?」と、馴染みのない言葉を聞かされて戸惑う、しの(清野菜名)たち女性陣。しかし中年の女性に対しては「ババアは覚えなくてもいい!」とひどい一言。
倉本聰は、ホントにお年を召した女性に対して厳しい!

一方、根来公平(風間俊介)は、「アメリカ軍がもうじきやって来る。そしたら男は去勢され女はみんな ヤラレちゃう」ということで、村のみんなを救うため、山の主・牝熊のハナコが棲んでいた穴に隠れて暮らすことを提案する。

村の子どもたちを引き連れてほら穴を探索する公平。戦中はだいぶ頼りなかったが、敗戦し、日本がこれからどうなってしまうか分からないという現実に直面して、一気に頼もしくなった。若干、いい年こいた大人がガキ大将をやってる感もあったが。

ほら穴の中で夜を過ごした公平は、アメリカ兵たちから去勢されるという悪夢を見る。

公平の股を開き、巨大なハサミを持つアメリカ兵たちが、明らかに英語ではない謎の言語を話していたのが気になった。字幕で見直してみたところ、こんなことを言っていた。

「チンカリブッチン!」「タマカリブッチン!」

「アメリカ人なのだから日本語はしゃべらないんだろうけど、英語はよく分からない」という当時の日本人が想像するアメリカ人像を表現したのかも知れないが、ひどい下ネタ……。

だいぶバカな映像だったが、悪夢から目覚めると、今度は食料難に備えてヘビやコウモリを食べるという悪夢。

バカとシリアスの振り幅が、敗戦直後の混乱を感じさせる。

浅丘ルリ子と加賀まりこは何歳設定なのか……


「上陸してきたアメリカ兵は想像していた鬼のような連中ではなく、何よりピシッとアイロンのかかったきちんとした制服を着ていた事が僕らを驚かせ、意外に思わせた」

ということで結局、アメリカ兵からタマを抜かれることもなく、ゆるやかに日常生活が戻ってきた小野ケ沢。

日本に残った者たちはそれでよかったのだが、出征していった軍人たちや、満蒙開拓団などで海外に出ていた日本人たちは、敗戦してからの方が地獄だったようだ。


小野ケ沢にも、満州から命からがら帰ってきたモモ(浅丘ルリ子)とウメ(加賀まりこ)という姉妹がやってくる。

「やすらぎの刻」パートで菊村がお嬢(浅丘ルリ子)から満蒙開拓団の話を聞いて構想した幻のシナリオ「機の音」に登場する予定だった姉妹だ。

敗戦が伝わって、日本軍の兵士たちはいち早く満州から逃げ出してしまい、残された姉妹は、なだれ込んできたロシア兵たちに襲われたのだ。恐怖のあまり、ウメは頭がおかしくなってしまっている。

女たちは襲われ、子どもはみんな満州人に売られ、男たちはシベリア送りに……。一獲千金の夢と国策に踊らされ、満州まで行って国に見捨てられた人々。

浅丘ルリ子と加賀まりこの迫真の演技も相まって、グッと胸に迫る重い話だったのだが……どうしても、この姉妹の年齢設定が気になってしまった。

モモとはじめて会った、しのと信子(井上希美)は「キレイな方ね~」なんて言い合っていたので、しのよりちょっと年上くらいの設定なのではないだろうか?

トリプルスコア以上ある清野菜名と浅丘ルリ子の年齢差を考えると、脳内ドラマとはいえさすがに無茶なキャスティングだ。

公平、まだ手を出してなかったんかい!


姉妹の悲惨な話は他人事ではなく、根来家でも徴兵されていった公一兄ちゃん(佐藤祐基)の安否が分からないままだし、満蒙開拓団として満州へ渡っていった親友・ニキビやハゲたちの行方も分からない。

そんな中、チョコレートをもらったことから交流をはじめた幸子(木下愛華)と、アヤシイ日系アメリカ兵・ジョー・ナカジマ(夕輝壽太)との関係も気になるところ。

そして何よりも気になるのが予告での、しのの発言。

「どうして抱いてくれないの? 一度もまだ私を抱いてくれていないわ。
あなた、女に興味がないの?」

こ……公平、お前まだ手を出してなかったんかい! やはり死んだ三平へ気兼ねをしているのか……?
(イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻〜道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日

【配信サイト】
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『やすらぎの刻〜道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日
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