
(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)
連続テレビ小説「スカーレット」
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)
第5週「ときめきは甘く苦く」30回(11月2日・土 放送 演出・佐藤 譲)
「とやあ」とは喜美子(戸田恵梨香)が柔道で使用していた掛け声。
草間(佐藤隆太)が生き別れた奥さん・里子(行平あい佳)と会って話をしていないと知って、
彼女の店に行こうと促すときに「とやあ とやあ とやあ」と発破をかけた。
余談だが、この日、昼の「バラエティー 生活笑百科」(大阪局制作)では、「てい!」という掛け声を出演者がしきりにネタにしていた。
お互いに礼!
草間の弱気に、喜美子は
「草間流柔道の名に恥じるわ」
「柔道で言うたら 草間さん負けてますよ」
「先生に礼 お互いに礼!」
「相手ときちんと向き合ってお互いに礼して礼して…」
と矢継ぎ早に言う。
このへんがまだお子ちゃまである。草間はいい人だし、喜美子との関係性も深いから、聞く耳をもつものの、
中には「うるさい」「ほっとけ」と怒る人もいると思うのだ。
喜美子のこの潔さは、圭介(溝端淳平)との別れにおはぎを渡し、それを受け取ってもらえなかったこととつながっているような気がする。彼女にとっておはぎは、「相手ときちんと向き合ってお互いに礼して礼して…」だったのだろう。
きちんと礼して、潔く負けた。
だからこそ師匠の草間にも、このまま遠くから見つめるだけでいつまでも心に後悔を残してほしくなく、負けるにしても明確に負けてほしかったのだろう。
草間は喜美子の言われるままに里子の店へ向かう。
警察沙汰になるかもしれないような暴力を振るう可能性もあった
お店に入って、ぎくしゃくした感じで、焼き飯を頼む草間と喜美子。
遠慮して離れて座った喜美子は、激しく相手の男を殴るんじゃないかと想像し、顔を覆う(ここも子供らしい)。が、そうはならず、焼き飯が運ばれてくる。
完食した喜美子に、「飴ちゃん食べる? お子さん連れに渡しているんだけど」と里子が飴を渡す。あとからもう一個。
お会計していると、知り合いの客が来て「つわりはどう?」と聞く。
この客は「親子丼」を頼み、喜美子のテーブルのうえのメニューには「他人丼」の文字があった。
喜美子は知らなかったが、離婚届と幸せにと書いた紙を草間は置いて来ていた。
帰りの途で、喜美子はもらった飴を食べ、一個を草間にわたすが、喜美子のかばんに返す草間。
しつこく渡して、しばらく弄んだすえ、草間も飴を口に入れる。このときの佐藤隆太の動きがとても自然で良い。
商店街には、お正月の繭玉みたいな飾り。29回のツリーの灯りといい、ピンクや白の小さい玉の飾りといい、
可愛いものはどうしてこんなに哀しいのだろう。
別れ際、
「先生に礼
お互いに礼
ありがとうございました」
でふたりは別々の道に帰っていく。
この明るさが涙腺を刺激する。
ああ、またしても土曜日は噛み締めて見られる回だった。
第5週はずっとしんみり。とてもきれいにまとまっていて、あとで、「スカーレット」ベスト週を振り返ったときには、まっさきに挙がりそう。
戦争が愛する者を引き離す
「ひよっこ」の頃から「ひまわり」という名画について、何度もレビューで書いている。戦争が愛する者を引き離す
悲劇の最高に美しく哀しい名作。テーマ曲が泣かせる。
「ひよっこ」は高度成長期にもまだそれがあったことを書き、「なつぞら」ではそうなりかねなかったきょうだいが長い年月を経て再会し家族を再生する希望を書いた。「スカーレット」は哀しい別れそのものだった。
ただ、里子は、喜美子を見て、どう思ったのだろうか。
里子と別れて早くにできた子供? ってこともないだろうし、
演じているのがどんなに幼く見せていても十分大人な戸田恵梨香であることで、妻とか恋人に見えてしまいかねなくて、へんな誤解して里子も動揺したんじゃないかという気もしないでない。それならそうで、結婚したことに罪悪感なく済んで良かったかもしれないなあなどと、つい余計なことを考えてしまうのは、きっと「草間流柔道の名に恥じるわ」。
とやあ!
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)
登場人物のまとめとあらすじ (週の終わりに更新していきます)
●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空 主人公。空襲のとき妹の手を離してトラウマにしてしまったことを引きずっている。 絵がうまく金賞をとるほどの腕前。勉強もできる。
川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。運送業を営んでいる。家に泥棒が入り、
喜美子の給料を前借りに行く。
川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。
川原百合子…福田麻由子 幼少期 稲垣来泉
●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。婦人警官になりたかったが諦めた。高校生になっても友達がいないが、楽しげな様子を書いた手紙を大量に喜美子に送っている。喜美子とは幼いときキスした仲。
熊谷秀男…阪田マサノブ 信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母
●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の同級生 体が弱い。高校で友達は照子だけだったが、ラブレターをもらう。
大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。
●滋賀で出会った人たち
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を「ゴミ」扱いされる。
草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいた。帰国の際、離れ離れになってしまった妻・里子の行方を探している。喜美子に柔道を教える。大阪に通訳の仕事で来たとき喜美子と再会。
工藤…福田転球 大阪から来た借金取り。 幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。
保…中川元喜 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
博之…請園裕太 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
●大阪 荒木荘
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対するが、辛抱して彼女を一人前に鍛え上げたすえ、引退し娘の住む地へ引っ越す。女中の月給が安いのでストッキングの繕い物の内職をさせる。
酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。妹を原因不明の病で亡くしている。喜美子に密かに恋されるが、あき子に一目惚れして、交際のすえ、荒木荘を出る。
庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者で不規則な生活をしていて、部屋も散らかっている。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて俳優を目指すが、デビュー作「大阪ここにあり」以降、出演作がない。
静 マスター…オール阪神 喫茶店のマスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。
平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ 喜美子の働きを気に入って、引き抜こうとする。
不況になって大手新聞社に引き抜かれた。
石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。
泉田工業の会長・泉田庄一郎…芦屋雁三郎 あき子の父。荒木荘の前を犬のゴンを散歩させていた。
泉田あき子 …佐津川愛美 圭介に一目惚れされて交際をはじめる。
ジョージ富士川…西川貴教 「自由は不自由だ」がキメ台詞の人気芸術家。喜美子が通おうと思っている美術学校の特別講師。
草間里子…行平あい佳 草間と満州からの帰り生き別れ、別の男と大阪で飯屋を営んでいる。妊娠もしている。
あらすじ
第一週 昭和22年 喜美子9歳 家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
第二週 昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。
第三週 昭和28年 喜美子15歳 大阪の荒木荘で女中見習い。初任給1000円を仕送りする。
第四週 昭和30年 喜美子18歳 女中として一人前になり荒木荘を切り盛りする。
第五週 昭和30年秋から暮にかけて。喜美子、初恋と失恋。美術学校に行くことを決める。
脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき