第5話ではまた、これまで霧山が事件解決時に「誰にも言いませんよカード」を取り出す場面にずっと立ち会えなかった新米刑事の彩雲(吉岡里帆)は、ついにそのチャンスを得る。だが、肝心のカードを取り出す瞬間、隣りのスタジオにタモリが入るとの声を聞いて飛び出し(彼女は大の「タモリ倶楽部」ファンでもあった)、またしてもふいにしてしまう。ただし今回の事件は、彩雲が霧山に「このヤマ、私のですよね!」と繰り返し言っていたように、もともと彼女がSNSを通じて夏歩(趣里)という女性と出会ったことから捜査が始まった。
趣里が復讐心を抱く女性を好演
夏歩の父親で、「伝説のコント師」と呼ばれたお笑いコンビ・マリリンの片割れだった村瀬ベルギーワッフル(空気階段・水川かたまり)は、絶大な人気を集めていた25年前、ラジオの生放送中に急死していた。死因はそばアレルギーによるアナフィラキシーショック。村瀬は当時相方の栗原くりごはん(空気階段・鈴木もぐら)と関係が最悪の状態だったため、栗原による意図的な犯行も疑われた。しかし、生放送中、スタッフが見守るなかでの犯行は不可能とされ、そのまま未解決のまま時効を迎える。
栗原は村瀬が亡くなったのち、ピン芸人としてあれよあれよという間に大ブレイクし、現在ではワイドショーの人気司会者となっていた。これに対し、村瀬が死亡したとき母が身ごもっていた夏歩は、生まれてからずっと犯人は栗原と言い聞かされて育ち、憎悪の念をふくらませる。それだけに、彩雲が刑事と知るや、すぐに会って栗原が犯人だと証明してくれるよう頼みこむ。
今回のメインゲストの趣里は、そのときどきの感情にあわせて表情がコロコロ変わる、ちょっと不思議な女性を魅力的に演じていた。過去の恨みから復讐をたくらむ役どころは、今春出演した舞台「クラッシャー女中」と重なるが、なぜか妙にハマる。
一方、霧山はいつものように交通課の三日月(麻生久美子)をともない、栗原と会って、村瀬が亡くなった当日に演じていたコントが、栗原がつくったネタだと確認する。その後、マリリンの当時のマネージャーの中村(野間口徹)にも話を聞きに行った。中村によれば、マリリンのネタはもっぱら村瀬がつくっており、栗原は衣裳や小道具を準備する役目だったという。それがなぜ、あの日だけは栗原がネタをつくったのか……。疑惑が頭をもたげるなか霧山は、事件発生時現場に放送作家見習いとして居合わせ、現在は栗原の事務所社長の安田(前野朋哉)にも話を聞き出そうとする。だが、霧山が村瀬のネタ帳が行方不明だと話すと、安田は顔色を変えてその場を立ち去った。
霧山は事件現場となったスタジオの写真をあらためて見直すと、ラジオのカフ(マイクのオンオフを操作する機器)付近にゴム手袋があることに気づく。さらに当時の大勢のスタッフが、番組の本番前にスタジオの床に水がこぼれた染みができていたと証言していたのを思い出す。水は村瀬が本番前にいつもルーティンで一気に飲んでいたというのだが……。村瀬にはまた、スタジオに入る前にはいつもラムネを3粒だけ口に入れるというルーティンがあった。
このあと、のどが渇いた霧山に、三日月が炭酸飲料を買ってきてくれたのだが、渡す際、容器を振りすぎたせいで、ふたを開けると一気に中身が噴き出してしまった。
シリアスな展開のなか、ヘッドホンにキノコって!
霧山はあらためて栗原と面会すると、自らの推理を語り始める(このとき、三日月のほか、夏歩と彩雲、そして安田もその場に居合わせた)。犯人はやはり栗原だった。自分の書いたネタを村瀬に一蹴された栗原は、怒りを覚えて相方の殺害を計画。どうせなら生放送中に殺して、話題づくりを狙った。その日にかぎって栗原のネタに村瀬がつき合ったのは、リスナーがつまらないと反応すれば、栗原も観念して自分のやり方に従うと考えたからだろう。
栗原は、村瀬がいつも本番前にラムネを飲むことを知っていたので、そば粉を丸めてラムネでコーティングしたものを容器に入れ、彼が着る舞台衣装(ラジオでネタをやるときも彼らはいつもシチュエーションに合わせた衣装を着ていた)に忍ばせる。捜査で押収されたラムネの容器は村瀬が私服に入れていたものだったので、そばは検出されなかった。
そばアレルギーなら、それを口にすればすぐに発症するはずだが、村瀬にはラムネを丸呑みする癖があった(夏歩も同じ!)。栗原もそれを知っていたので、放送中に村瀬が確実に死ぬよう、村瀬が本番前に飲む水を炭酸水にすり替えた。ラムネが炭酸水に入れると噴き出す性質を利用すれば、胃のなかでラムネが溶けてそばがむき出しになり、村瀬はアナフィラキシーショックを起こすと考えたのだ。果たして彼はその術中にまんまとハマり、死んでしまった。
霧山はここまで話したところで、いつも容疑者たちにそうしているように、栗原にも自白を求める。だが、ここで番狂わせが起こる。栗原はうろたえるどころか怒り出してしまい、安田に霧山たちを追い出すよう命じたのだ。しかし安田は反発し、ここぞとばかりに、事件直前、スタジオで栗原が炭酸水がより泡立つよう容器を振っていたことや(床の染みは炭酸水をコップに注ぐときにこぼれてできた)、さらに村瀬の死亡後、彼のネタ帳を栗原から渡され、そこからネタを取りながらお笑い界をのしあがっていたことを、洗いざらいぶちまける。
霧山も、村瀬が操作するカフ近くにゴム手袋があったのは、彼がゴムアレルギーでもあったことから栗原が念には念を入れて置いたのではないかとさらに指摘(夏歩がゴムサンダルに足が触れてかゆみを訴えていたのも、父から遺伝したかららしい)。さらにキノコアレルギーでもあった村瀬のヘッドホンの片耳にはしいたけまで仕込まれていた。……って、ラムネに炭酸水、カフにゴム手袋まではわかるが、ヘッドホンにしいたけって! しかもそれが娘の夏歩にも遺伝したのか、テレビ局に行ったとき、キノコの弁当を食べていた木能古という名のAD(髪型もキノコカット)とすれ違っただけでアレルギー反応を起こしたというのだから、いかにも無理やりである。シリアスな展開になっていたところへ、こうした無茶なトリックが出てくるのはいかにも「時効警察」らしい。
番狂わせに次ぐ番狂わせ
ともあれ、安田は村瀬のネタ帳を霧山に差し出すと、霧山はそれを即座に夏歩に渡す。安田にうながされ、ようやく栗原も心中を打ち明けたあと、お待ちかねの「誰にも言いませんよ」カードが登場。今回はハイブリッドと称し、全体的にハガキのデザインにラジオが仕込まれたものだった。しかしここでも番狂わせが。
あくまで復讐を果たそうとする夏歩だったが、そこへ父・村瀬の幻影が現れる。父は娘に向かって、ピースにした手で口角を上げるよううながす。夏歩はそのとおりにして、涙ぐみながらも笑顔を見せると、ようやく栗原を許す気になり、奪ったカードを霧山に戻す。霧山はそれにハンコを押すと、栗原に受け取ってもらった。一気に場の空気がなごみ、夏歩が「やばい、初めてあんたが面白い」と口にする。そう言われたときの栗原の顔が何ともいえない。
マリリンの二人を演じたお笑いコンビ・空気階段は、おそらく今回が初めての本格的なドラマ出演だったはずだが、コンビの微妙な関係を見事に演じていた。このほか、ダンディ坂野とユリオカ超特Qがカメオ出演したり、エキレビ!でも連載中の岡野陽一がほんの一瞬ながら、テレビ局に出前を届けるラーメン屋店員として2度ほど出てきたりと、お笑い芸人が多数登場する楽しい回だった。なお、岡野は本シリーズのスピンオフで、きょう深夜より配信開始予定の「時効警察とくべつへん 刑事課・彩雲真空」(AbemaTVとビデオパスで配信)にも出演している。
第5話で脚本・監督を務めた大九明子は、登場人物のルーティンを事件の鍵にしながら、ドラマ自体のルーティンはあえて外して独自性を示した。