この記事はテレビ朝日系の金曜ナイトドラマ「時効警察はじめました」(一部地域を除き金曜よる11時15分〜)のレビューなのだが、今回はまず、他局の、それもドラマではなくバラエティ番組の話から始めたい。

いまさら「吊り橋理論」って効果ある?


今週放送の「水曜日のダウンタウン」(TBS系)では、安田大サーカスのクロちゃんがアイドルグループをプロデュースするという新企画「モンスターアイドル」が始まった。初回からいきなり、集まったアイドル志望の女の子16人を半数の8人にまで絞りこむことになったクロちゃん。
歌唱審査などを経て、メンバー候補を順々に選んでいくのだが、なぜか一番お気に入りだったはずの女の子は最後の最後、8番目にようやく選んだ。収録後、その理由をスタッフが訊けば、彼女の涙を見たかったので、最後に選ぶまでは、つれない態度をとってきたのだという。人の心をもてあそぶクロちゃんのやり口には、肌が粟立つものがあった。

これにくらべたら、先々週10月25日放送の「時効警察はじめました」第3話で、ゲストの中山美穂演じる婚活アドバイザーの琴吹町子が、相手の心を捕えるテクニックとしてあげていた「吊り橋理論」などはかわいいものだと思った。

「吊り橋理論」とは、意中の相手を吊り橋に誘い、わざと揺らして告白すれば、相手は怖さによるドキドキを恋によるドキドキと錯覚してOKする可能性が高くなる──というもの。もっとも、これは昔からよく知られる理論で、いまさら婚活アドバイザーがとりあげるものだろうか(一応、心理学者が実験で検証のうえ提唱したものとはいえ)。というか、そもそも効果あるのかよ! と思わずツッコみたくなるものの、そこは旧シリーズよりベタと反則スレスレのトリックでおなじみの「時効警察」のこと、野暮は言いませんよ。
「時効警察はじめました」中山美穂に誘惑される霧山は熟女キラーと言っても過言ではないのだ3話
イラスト/たけだあや

熟女キラー・霧山修一朗、再び


今回の事件は、いまから25年前、町子が主宰する婚活セミナーで、結婚の決まった会員たちを祝うバーベキューパーティを開催中、会員のひとり後藤紗良(安藤聖)が殺害されたというもの。紗良は刺されて死ぬまぎわ、ケチャップで「MISTAKE」というダイイングメッセージを書き残していた。メッセージが英語なのは、帰国子女の彼女は、英語交じりで話す癖があったためと解釈されるも、「S」の字だけ太いのがどうにも不自然だった。凶器も、紗良の婚約者だった城崎公彦(別所哲也)が持参したナイフセットのうち、なぜか殺傷能力の低いハサミと小型ナイフが使われていた。事件の起こる直前、公彦が紗良に罵られていたとの目撃談もあったため、公彦に疑惑の目が向けられるも、町子が彼は事件発生時自分と二人きりで話していたとアリバイを証言する。それもあって事件は解決にいたらないまま、時効を迎えた。


霧山修一朗(オダギリジョー)がこの事件の捜査を始めたのは、バツイチの三日月しずか(麻生久美子)が、ふと「再婚」と口にするのを聞いて、時効管理課の熊本課長(岩松了)が町子のことを話したのがきっかけだった。たまたま同僚たちとテレビを見ていたところ、町子は事件後に公彦と結婚していたことが判明、霧山は二人のあいだに何かあると感づく。

最初の聞き込みで、町子がウソをついていると察した霧山は(人はウソをつくと体温が上がるという毎度おなじみのこの設定、今回は旅行先を沖縄か北海道にするかで迷っていた町子が、霧山から事件について訊かれたあと、北海道を選んだのが根拠になっていた)、さらに話を聞き出すべく、三日月を婚活セミナーのプレミアム会員にさせようと潜り込ませる。結局、三日月はプレミアム会員になるための試験に落ちてしまうが、町子のほうが逆に霧山を気に入り、テニスに誘ってモーションをかけてくる。

霧山が女性にさほど興味がないようでいて、熟女にはなぜか弱いことは、12年前の「帰ってきた時効警察」の第3話で杉本彩演じるキャラクター作家に誘惑されたときにすでに証明済みだが(そういえば霧山が町子にテニスに誘われたときのBGMは、「帰ってきた〜」第3話に出てきたゆるキャラアニメ「プクーちゃん」の主題歌をアレンジしたものではなかったか)、今回も町子に誘われるがままに、趣味を時効事件の捜査からテニスに替えてしまう。それでも霧山は、町子のスコートに出身大学の名の入ったタグがついているのを見逃さなかった。それは、公彦の出身大学と同じだった。

「MISTAKE」というダイイングメッセージの真意は?


気を取り直し、捜査を再開した霧山は、町子が学生時代、公彦の後輩だったと突き止める。さらに当時の公彦の指導教官を訪ねると、町子はあきらかに公彦に好意を抱いていたことが判明。このあと、刑事課の彩雲(吉岡里帆)から、町子の結婚前の旧姓は「武田」であると教えられ、何かに気づいた霧山は「バフーンッ!」と叫んで立ち上がる(これまたお約束)。

霧山は再び町子と会うと(その際、彼女に指定された場所は吊り橋……ってあからさま!)、毎度のごとく自分の推理を語り出す。町子は、紗良が婚約者として連れてきた公彦と再会、再燃する恋心を必死に抑え込むも、研究のため一流企業をやめた公彦を紗良が罵っているのを目撃してしまう。紗良は、公彦が一流企業の社員でカネを持っているから婚約したにすぎなかった。
それに気づいた町子は、思い余って紗良をハサミと小型ナイフで刺してしまう。ナイフセットからこの二つを選んだのは、たまたまナイフの列の両端にあったからだ。マナーにうるさい町子には、並べられたナイフやフォークは両端から取るものというマナーが染みついており、このときも律儀にそれを守ったのである。

殺された紗良は、自分を刺したのが町子だと示すため「MISS TAKEDA」と書こうとしたものの、途中で力尽きてしまう。ここで、ダイイングメッセージの名前にわざわざ「MISS」とつけるかねと疑問が湧くが、紗良は、町子が独身なのにそれを隠して婚活アドバイザーをしている事実をも暴くべくそうしたと説明されたら、納得せざるをえない。紗良のダイイングメッセージの真意に気づいた町子は、ケチャップで書かれた「MISS」の二つのSを、とっさに一つながりにして「MISTAKE」と書き替えたのだった。

回想シーンで「婚活」の語……おや、MISTAKE?


このように、一見無理やりに思えるトリックも、それなりに裏付けを用意しているのが「時効警察」の真骨頂である。町子がアラフィフになったいまも大学時代のスコートを履いていたのも、一見すると不自然に思えたが、高校生の息子の「母はケチ」との証言からその理由はおのずとあきらかになった。

ただし、一つだけツッコんでおくと、事件発生時の回想シーン中、紗良が「婚活アドバイザー」と口にしていたが、事件の起こった1994年当時には、まだ「婚活」という言葉はなかったはず(この言葉は、2008年に刊行された『「婚活」時代』という本がきっかけで世に広まったとされる)。そもそもドラマの冒頭では、熊本課長が町子について「婚活って言葉がない時代から第一線にいた腕利きの婚活アドバイザー」とはっきり紹介していたのに。こちらもきちんと整合つけてほしかった。

ともあれ、霧山が推理を語り終えたあと、町子は我に返り、公彦を本気で愛していたことに気づいて、一件落着。
霧山は、遅れてやって来た三日月が吊り橋を揺らしたせいで川へ落下してしまうも、今回持参した「誰にも言いませんよカード」は完全防水加工をほどこしたダイバー仕様だったおかげで濡れずに済んだ。

今回、霧山の事件解決の場面には、かねてよりそれに立ち会うことを望んでいた彩雲もようやく上司の十文字(豊原功補)から許可が下り、喜び勇んで出かけたのだが、途中で道に迷ってチャンスを逃してしまった。今夜放送の第4話で挽回なるか。ゲストが歌手の中島美嘉というのも、いかにもこのドラマにふさわしい絶妙のキャスティングではなかろうか。

ところで、第3話のラストで霧山と十文字が思わず見つめ合い、一瞬、怪しい雰囲気になったのは、ひょっとすると「おっさんずラブ」の新シリーズも見てねというテレ朝の陰謀ではないかと、ふと思ったのですが……違いますね、たぶん……。(近藤正高)

※「時効警察はじめました」の最新回は放送後、TVerで期間限定で無料配信中。それ以前の回もテレ朝動画で有料配信中
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