彩雲の趣味から事件捜査へ
「時効警察」の旧シリーズでは、事件の捜査をするのはずっと霧山修一朗(オダギリジョー)と三日月しずか(麻生久美子)だった。そこへ今回のシリーズからは彩雲が加わった。彩雲は捜査に同行するだけでなく、回が進むにつれて事件を提供する立場を担うまでになっている。第5話ではSNSで知り合った女性の依頼を受けて、「私のヤマ」として捜査に取り組んだ。さらに先週放送の第6話では、彩雲がプロレスにハマったという話から、25年前に丸山真剣(佐々木大輔)というプロレスラーが、タイトルマッチでベルトを奪取した直後、リング場で文字どおり立ち往生した事件を捜査することになった。遺体を検死したところ、丸山の頭部には奇妙な形の傷跡があったため、本件は殺人事件と扱われたものの、結局、解決にいたらないまま時効を迎えていた。
死んだ丸山は、彩雲が熱烈に応援する「気合プロレス」の看板レスラー・高原本気(HARASHIMA)の師匠とあって、彼女は本件の捜査にがぜん張り切る。このあと高原がベビーフェイス(善玉)がヒールレスラーに転向しようとしていたのに衝撃を受けつつ、霧山と三日月とともに一般練習生となって「気合プロレス」内部に潜入し、人間関係を探ろうとした。だが、今回もいつものように、上司の十文字(豊原功補)に連行され、別の事件の捜査へ駆り出されてしまう。
それでも彩雲は、十文字からどうにか逃げ出し、怒りを一気に爆発させる。自分は霧山が「誰にも言いませんよカード」を真犯人に渡す瞬間を見たいだけなのに、なぜいつも阻まれるのか。そこで彼女は、高原にヒール転向の理由を訊くと返ってきた「悪の道はときには必要だ」との言葉を思い出し、覚醒する。「真面目にしてても何の得もありゃしねえ!」そう叫ぶと、雨のなか、水たまりの泥を顔に塗りたくって走り出したのだ。
そこまでしたのにかかわらず、彩雲は今回も「誰にも言いませんよカード」を渡す瞬間を見られなかった。それというのも、勢い込むがあまり、霧山がカードを取り出そうとするのをさえぎって、自ら真犯人である「気合プロレス」CEOの枕木葵(寺島しのぶ)相手にマイクパフォーマンスを行なったかと思うと、何と段ボールに「誰にも言いませんよ」と殴り書きした手製のカードを手渡そうとしたからだ。すっかりダークサイドに落ちた彼女は、「これからは私が『誰にもいいませんよカード』の支配者だ!」とわけのわからないことを叫ぶが、三日月に阻止される。三日月は勤務中も猛練習してきた卍固めで彩雲を押さえつけると、そのあいだに霧山が本物の「誰にも言いませんよカード」を枕木に渡して一件落着。彩雲はすぐ近くにいながら、頭を押さえられ、その瞬間を見逃してしまったのだった。
ドラマにおける彩雲の役割とは?
こうして振り返ってみると、自分の話がきっかけで捜査を始めた事件なのに、結局、おいしい場面を見させてもらえなかった彩雲の運命は、たしかに理不尽ではある。ただ、自業自得という面も多分にある。今回は自分で勝手に「誰にも言いませんよカード」をつくって渡そうとしたのが、それだ。前回もテレビ局内で霧山がカードを渡そうという場面で、隣りのスタジオにタモリが入ると聞くや現場から飛び出して、やはり肝心の瞬間を見逃していた。
それもこれも、どうも原因は彩雲の移り気な性格にありそうだ。
「時効警察」を旧シリーズから見ているファンのなかには、そんな移り気で、落ち着きのない彩雲を、うっとうしく思っている人も結構いるかもしれない。そんな人たちにとって彩雲は、レギュラーメンバーが楽しくやっているところにしゃしゃり出ては、場を掻き乱す存在にしか見えないだろう。しかし、むしろ彼女はそのためにこそいるのではないか。ずっとレギュラーメンバーだけでやっていては、予定調和になってしまいがちだ。そうならないために、彩雲はいつも霧山の捜査にかかわろうとし、ときに解決のためヒントを与えたり、一方でいらんことをしたり、三日月から恋敵として憎まれたりしながら物語を掻きまわす役割を担っているのではないか。いわばトリックスター的な存在というわけである。それに加えて、果たして彼女はいつカードを渡す瞬間を見られるのかと、視聴者を毎回ドラマに惹きつけるという意味でも、彩雲は重要な役どころといえる。
そんな彩雲を演じるのが吉岡里帆というのも絶妙なキャスティングだ。天真爛漫のようでいて、どこかあざとさが垣間見え、ちょっとイラッとさせる。いまそんなキャラを演じさせれば、おそらく吉岡の右に出る者はいまい。
「時効警察はじめました」も今夜放送の第7話でいよいよ最終章に入るが、彩雲が「誰にも言いませんよカード」を渡す場面を見られる日もそろそろ来るのだろうか。私としては、その日が来るのを願いつつも、他方では、こうなったら最後までその機会が訪れないほうがむしろドラマが盛り上がっていいかも……と思わないでもない。(近藤正高)