このドラマ、余計な描写をせず視聴者に行間を読ませる演出が功を奏すケースと、説明がなさすぎて観ている側の感情が淡白になってしまう場面の両極が存在している。
四宮が春田への想いを緋夏に伝えた理由
“仕事”についての授業を依頼された四宮要(戸次重幸)は、アシスタントに春田創一(田中圭)を指名して20年以上ぶりに母校を訪れた。春田がトイレに行ってる間、音楽室に入った四宮はピアノを弾き始めた。回想シーンでは、先生が高校時代の四宮の肩に手を置きながら優しく指導をしていた。
春田 「凄っげえ……! シノさん、ピアノ弾けたんですね」
四宮 「まあ、何の曲かはわかんないんだけどな。音楽の先生に教えてもらったんだよ、放課後に」
曲の題名を知らないというのがいい。要するに、四宮は音楽にもピアノにも興味を抱いていなかった。なのに、こんなに上達した。ただただ、彼は先生に会いたかっただけ。その口実としてあったのは、題名も知らない曲とピアノ。20年前の四宮は音楽の先生に恋をしていた。彼が同性愛に目覚めたのは、この恋がきっかけだったのかもしれない。
四宮は今、春田に恋をしている。
自分の誕生日に、雨の中で抱き合う春田と成瀬竜(千葉雄大)を四宮は見てしまった。「俺よりも緋夏と付き合うほうが春田は幸せ」と身を引いていた四宮は呆然となり、びしょ濡れのまま寮へ戻った。四宮を見た橘緋夏(佐津川愛美)が差し出す傘を突き返し、四宮は言った。
「ごめん。春田が……好きだ。俺は……春田が好きなんだ」
ノンケの春田だから緋夏がふさわしいと思っていたのに、成瀬と抱き合っているのを見て、四宮の想いは決壊する。これ以上、もう嘘はつけない。緋夏のことを応援してやれない。
緋夏の立場も辛い。父・黒澤武蔵(吉田鋼太郎)は春田に恋をし、自分をライバル視している。事あるごとに相談をし、自分の恋を応援していた年上の理解者は同じ人のことが好きだった。全てを知ったら、現実を受け止めきれないのではないか?
緋夏は、春田がある人(武蔵)から「好きになってもいいですか?」と告白を受けたと知らされた。もしかしたら彼女は、四宮が告白したと勘違いするかもしれない。人間不信にならないだろうか?
春田が雨の中、成瀬を探し回った理由
成瀬の妹・胡桃(榊原有那)から「父が危篤で間に合わないかもしれない」と連絡を受けた春田は、成瀬を探し回る。なぜ、そんなにも躍起に? それは、春田には罪悪感があるから。
胡桃との会話から察するに、成瀬は父親と確執がある。だから病床にいる父に会いに行かず、父が危篤になってもフライトを優先した。でも、急げばもしかしたら間に合うかもしれない。

他者を寄せ付けず誤解を受けやすい成瀬も、武蔵には尊敬の念を隠さない。仕事で認める相手に敬意を表するのは彼らしい。ただ、武蔵への態度の理由はそれだけじゃない気がする。父親との別れ、亀裂が武蔵への忠誠心に変換されたのではないか。成瀬が父親と疎遠になった理由は、今後明らかになっていくはずである。
せっかくのハグに感情入できない
ここまでは、行間を読ます手法が功を奏したケースを取り上げてきた。
雨の中、春田は成瀬を追いかけた。その理由はわかった。そもそも、春田は大切な人(単発版ではハセ、前シリーズでは牧)のためによく走り回る。じゃあ、なぜ成瀬は春田の“大切な人”になったのか? 春田を見ていると、もう恋が始まっているようにさえ見える。そこまでに至る描写が、このドラマは圧倒的に足りない。いつもひどい態度で接してくる成瀬に対し、無自覚な片想いが始まった理由ときっかけがわからないのだ。だから、観ていて理解が追いつかない。
この問題は春田→成瀬に限らない。なぜ、武蔵は春田に恋い焦がれているのだろう? なんで、四宮は春田が好きなのか? 未だ、それらは描かれていないし、行間を読んでも明確な説にたどり着けずにいる。
今後描かれるかもしれないし、「まだ3話だから」と言われるかもしれない。いや、全8話の内もう3話なのだ。
3話で言えば、春田と成瀬のハグだ。このシーン、制作陣は明らかに“決め”にきていたはず。でも、我々は成瀬と父親の関係性について何も知らない。急に「今さっき、父が亡くなりました」と成瀬が泣き出しても、どうしたって悲しみを共有できないのだ。役者が体をずぶ濡れにし、父を殺してまで決めにきたハグなのに、唐突すぎて2人に感情移入ができなかった。
このドラマは、各シーンが線ではなく点と点になっている。突然、ハグやキスが挟み込まれても「こういうのが欲しいんでしょ?」と餌を撒かれたように感じるのだ。餌を撒くのはいい。ならば、そこに至るまでの過程を丁寧に描いてほしい。シーンありきのストーリーに感じることが多い。
「おっさんずラブ-in the sky-」を、応援しようと思って観ている。なのに、なかなかしんどい。「そろそろ面白くなりそう」という予兆もあまり感じられない。前シリーズを知っているがゆえ、過度な期待をしすぎただろうか? 「なら、観るな」と言われそうだが、こちらだって思い入れがある。まだ、これからも観続けていきたいと思っている。
(寺西ジャジューカ)
土曜ナイトドラマ「おっさんずラブ-in the sky-」
脚本:徳尾浩司
演出:瑠東東一郎、山本大輔、Yuki Saito
音楽:河野伸
主題歌;sumika『願い』(ソニー・ミュージックレーベルズ)
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、神馬由季(アズバーズ)、松野千鶴子(アズバーズ)
制作著作:テレビ朝日
制作協力:アズバーズ
※各話、放送後にビデオパスにて配信中