
いまや日本のコンテンツ市場を席巻する一大タイトルとなった『Fate』シリーズ。続々とメディアミックスを実現させ、劇場版も含めればおよそ20のアニメ作品が公開された。
2011-2012年に放映されたアニメ『Fate/Zero』では、あおきえいが監督、碇谷敦が総作画監督を務めた。そして今回、完全オリジナルのアニメ『ID:INVADED』で、2人が再びタッグを組む。脚本を担当したのは、三島由紀夫賞作家でもある舞城王太郎だ。
豪華なのはスタッフ陣だけではない。メインキャストには津田健次郎、細谷佳正をはじめとする錚々たる声優陣を迎え、オープニングにはネットシンガーカルチャーを牽引する歌い手・Sou、エンディングには海外にも広くその名を轟かせるロックミュージシャン・MIYAVIを起用。
2020年1月の『ID:INVADED』放送に先駆けて、エキサイトニュースではあおき・碇谷の対談を実施。構想実に7年、たっぷりと時間をかけて制作し、放映開始前にしてほぼ全ての映像が出来上がっているという。彼らの会話からは、テレビアニメとしては異色とも言えるまでの、制作に対する力の入れようが見えてきた。
あおきさんとは非常に合うなというのを、『Fate/Zero』で実感していた

あおきえい(以下、あおき):碇谷さんと最初にご一緒したのって、『コヨーテ ラグタイムショー』(2006年)とか『空の境界』(2007年)あたりでしたっけ。
碇谷敦(以下、碇谷):ですかね。でもその頃はお話するような機会はまったくなくて……、お互いしっかり存在を認識したのは『Fate/Zero』ですよね。あおきさんが監督で、僕がキャラクターデザイン&総作画監督。
あおき:あのときの碇谷さんは、撮影とよくケンカしてましたよね(笑)。
碇谷:してましたね(笑)。例えば作画で風のエフェクトを描いたとして、本来撮影ではそのエフェクトを活かす形でブラッシュアップしていくんですけど、当時は作画素材を全部捨てて、撮影側でイチから作り直されてしまうこともあったから。
あおき:どちらが正しい・悪いという話ではないんですよね。結局、お互いがお互いのやり方で「いい映像を作る」というゴールを目指していて、その方法がかち合わないというだけなので。作画は「あった方がいい」と思って作っていて、撮影は「ない方がいい」と思って消している。
碇谷:今思えば、あおきさんの立場も大変でしたよね。僕も演出をやるようになって、作画さんと撮影さんがぶつかるのをたまに見るんですけど、あおきさんの苦労がわかりましたよ。
あおき:僕はそういうときはもう、無の心で(笑)。

碇谷:僕、演出をやりだしてから、正直作画監督とかキャラクターデザインとか、もうやめようと思っていたんです。いただく仕事も結構断っていて。そんななかで、今回の『ID:INVADED』のお話をいただいて、監督があおきさんだったから引き受けたんですよ。あおきさんじゃなかったら受けなかったと思います。
僕は映画のようなリアルな映像演出が好きで、そういう部分があおきさんとは非常に合うなというのを、『Fate/Zero』で実感していたんです。どうしてもこだわりの部分で合う・合わないはありますから。
あおき:嬉しいですね。監督もそうですが、演出側の立場ってどうしても作画とぶつかる部分があるんですよ。さっきの撮影の話と一緒で、「演出としてはこうしたい、作画としてはこっちがいいんだ」、となりがちで。それこそ僕は、作画班からは常に嫌われていると思ってるんです(笑)。だからそれを聞いてすごく嬉しい。『Fate/Zero』やっといてよかった(笑)。

僕は、小玉(有起/キャラクター原案)さんの絵に対して、碇谷さんはぴったりだと思っていたんです。2人は絵柄が似ているというか、線の描き方や好みの方向性みたいなものがハマる気がするな、と。
碇谷:小玉さんの絵を見たとき、素直に「真似したい!」と思ったんですよ。今までそんな風に思ったことはあまりなかったんですけど。絵柄を合わせる上でまったくストレスなくできました。
一般的なアニメの制作現場ではやらない絵コンテ後の“打ち合わせ”

あおき:元々このアニメは、『ID:INVADED』というタイトルになる前、それこそ7~8年くらい前から須田泰雄さん(NAZ代表)と練ってきた企画なんですよ。その頃からずっと2人で「かっこいい大人が主人公の、ダークヒーローの物語が作りたいね」と話していて。そして、物語そのものは小説家の舞城王太郎さんが描いてくださいました。
シナリオ作成は、実は2周してるんです。一度最終回まで進んだところで「もう1回頭から洗い直そうか」って話になって。ストーリーはもちろん、主人公のバックボーンに関する情報の出し方も、そのときにだいぶ整理された感じがします。
碇谷:舞城さん、小玉さん、あとスタッフとかで何回か飲みにも行きましたね。お2人ともすごく良い方で、フットワークが軽くて。
あおき:舞城さんや小玉さんは、現場にも積極的に関わってきてくれてすごくありがたいんです。脚本家やキャラ原案って、自分の仕事が済んだらもう作業は終わりじゃないですか。それなのにアフレコやダビングにも参加してくれる。

毎話、絵コンテが終わった段階で、舞城さんや小玉さんも含めて、みんなで打ち合わせをしてるんですよね。舞城さんが描いたミステリの文脈から逸脱していないかとか、僕が解釈違いをしていないかを確認するための。
碇谷:一般的なアニメではこういうことはやらないですよね。
あおき:自分も初めての試みです。絵コンテに対して、いろんな人の意見が欲しかったんです。作画としての碇谷さんの意見もあるでしょうし、キャラ原案としての小玉さんの意見もあるでしょうし。
碇谷:最初に、舞城さんのシナリオの全話分を現場スタッフみんなに読ませたんですよ。さっきのシナリオ修正の話じゃないですけど、全体をわかってると、それを踏まえた上で目の前の作業に戻ってこられるので。それもなかなかないケースだと思います、そもそも僕自身、シナリオを見せてもらうことがあんまりない。アニメ業界って本当に分業なので。
あおき:『イド』(=ID:INVADED)は関わってる人たちの熱量が本当に高いですよね。アフレコでの声優さんの演技に合わせて、映像の方を直したりもして。やっぱりリテイクって、嫌なものじゃないですか。今回は十分な制作期間をもらえていたおかげもあるんですが、現場のみんなが「面白くなるならやります」って引き受けてくれてありがたかったです。

碇谷:僕は、アニメで描かれる感情表現とかリアクションって、どうしてもテンプレ化していると思っていて。驚いたときは、当然ですけど、驚いている顔をするとか。そういうのではなくて、絵では決して悲しい顔をしていないのに、声優さんが悲しそうな芝居をすると、よりリアルで人間らしく見える、みたいなことがある。感情表現は声優さんの芝居に合わせた方がうまくいくと思うんです。
あおき:「そこでブレス打つか!」ってところで打ってくるとかね。
碇谷:そうそう!(笑)
それと、僕がこのスタジオに来たときって、スタッフが誰もいない状態だったんですよ。作画もそうだし、制作も。で、イチから座組みを練っていったんです。本当に信頼できる人を、僕からお声がけさせてもらって。そうやってできたチームだったのも良かったのかもしれません。
あおき:今回の碇谷さんは、まさに作画チームの“座長”感がありましたよね。今までそういう役目を果たしてくれる人とやったことがなかったので、すごく心強かったです。『Fate/Zero』の頃は超まじめで仕事に厳しい印象で……だからこそお願いしたいとも思っていたんですけど。仕事に対して真摯な所は当時から変わっていませんが、『イド』ではすごく柔らかくなって、面倒見が良くなりましたよね。

碇谷:優しくしないと付いてきてくれないんですよ、今は。昔はなんというか「しろ!」みたいに言うこともありましたけど、今は優しく「して」でないと他に行ってしまう。特に腕の良い人は引く手数多ですし。
あおき:作画もみんな昼型だし、健康的な現場になってますよね。
碇谷:僕はだいたい午前中からいて、夜は子どもが寝る前に帰る。むしろ一番に帰るようにしてます。僕が帰らないとみんな帰れないと思うので、徹夜とか絶対したくない(笑)。
あおき:世の中的には、アニメーターって夜仕事してるイメージが強いじゃないですか。実際そういう現場も多いんですけど、別に朝から夜遅くまでずっと働いてるわけじゃないんですよね。夕方とかに出社して、単純に就労時間が後ろにずれてるだけ。
碇谷:晩飯に行って2時間くらい帰ってこなかったりね(笑)。

あおき:そうそう(笑)。そうすることで“すごい働いてる感”を出してる人がたまにいるんですよね。それで昼からちゃんと働いてる制作の子を、夜中まで付き合わせたりする。「俺はここまで働いてるから、お前もこの時間までいろよ」とか、そういうよくわからないパワハラがまだ残ってる、古いタイプの会社も多くて。本当に良くないなって思いますね。
そのシーンでしか使わない曲を、そのシーンのために作る

碇谷:『イド』では、音楽もすごく贅沢な使い方をしていると思うんですが、挿入歌は監督ご自身で編集して入れてましたよね。
あおき:今回挿入歌が8曲、劇伴がそれと別に50曲ぐらいあって。スタジオに行って、目の前で作家さんにピアノを弾いてもらいながら「このシーンにこういう曲がほしい」みたいな相談をしていました。携わっていただいた作家陣は水曜日のカンパネラのケンモチヒデフミさんとか、グラミー賞にノミネートされたstarRoさんとか、あとは湘南乃風などのプロデュースをしたsoundbreakersさんとか……。
僕自身はあまりアーティストさんに詳しくないので、人選の部分は須田さんにやっていただいたんです。最初に「だいたいこんな感じの曲」みたいなふわっとしたオーダーを投げると、須田さんが、どこからかすげえぴったりの人を連れてくる(笑)。
碇谷:曲数が多いこともそうですけど、アニメで使う曲をそういう作り方するのって、普通ないですよね?
あおき:普通ないです。基本的にアニメで使う曲って、映像を制作する頃には完成してるんですよ。ただ進めていくうちに「やっぱり追加でこういう曲が欲しい」と思い始めることがある。原則は、追加で発注なんて無理なんですよ。お金もそうだし、スケジュールの問題もあって。でも『イド』はそれが許されていて、その話数でしか使わない曲を、その話数のそのシーンのために作曲してもらえた。
オープニングのSouくん、エンディングのMIYAVIさんも、僕からのリクエストというよりNAZ側がコミュニケーションを取ってくださったんですよね。MIYAVIさんにはもともと、1話の挿入歌を作っていただいてたんです。その頃ちょうど新しいアルバム『NO SLEEP TILL TOKYO』を出すというタイミングで、そのなかの曲も使っていいですよ、と提案してくださって。それで、『Other side』をエンディングに使わせていただくことになりました。

碇谷:Souくんの『ミスターフィクサー』も、PVにすごくハマってましたよね。Souくん本人が詞を書いてくれて。『イド』はどうしても大人なアニメですけど、それと親和性がありつつも若い層との架け橋にもなってくれそうな。
あおき:『ミスターフィクサー』を使ったPVもそうですけど、すでに映像素材がそろってるから、事前のティザー映像をとてもリッチに作れるんですよね。現状(※2019年11月取材時点)で9話くらいまで納品が済んでいるので、そうなると9話分は素材がある。

碇谷:テレビアニメってやっぱり放送日ありきで作っていくので、来年の1月放送だとすると、1話ができるのが早くて12月の半ばくらい。普通は放送1週間前とか、ものによっては放送3日前ぐらいまで作業してるから、なかなか出したくても出せない。
あおき:その点も、『イド』ならではの強みですよね。内容は難しいところもあるアニメだけど、それ以上に次へ次へと惹きつける面白さがあるというのは、実際に映像を見せることで1番伝わると思っています。だから「試写やってくれ」とは、僕、ずっと言ってました。
碇谷:いざ試写イベントで2話まで見せたら、今度は「やっぱり3話も見せたい」って言い始めてましたね。そのうち話数なくなっちゃいますよ(笑)。

プレゼント応募要項

アニメ「ID:INVADED イド:インヴェイデッド」の放送を記念して、津田健次郎さん、細谷佳正さん、あおきえい監督、碇谷総作画監督4名のサイン入り色紙を抽選で1名様にプレゼントいたします。
応募方法は下記の通り。
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(2)下記ツイートをリツイート
応募受付期間:2019年12月11日(水)~12月25日(水)18:00まで
アニメ「ID:INVADED イド:インヴェイデッド」の放送を記念して、#津田健次郎 さん、#細谷佳正 さん、#あおきえい 監督、#碇谷総作画監督 4名のサイン入りポスターを抽選で1名様にプレゼント!
— エキサイトニュース (@ExciteJapan) December 11, 2019
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インタビュー記事はこちらhttps://t.co/TbUKTnxWnW pic.twitter.com/Xpq2rcOxRy
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(エキサイトニュース編集部)
アニメ情報

ID:INVADED イド:インヴェイデッド
2020年1月放送開始
https://id-invaded-anime.com/
キャスト
酒井戸:津田健次郎
百貴:細谷佳正
本堂町:M・A・O
東郷:ブリドカットセーラ恵美
早瀬浦:村治学
白岳:近藤隆
羽二重:岩瀬周平
若鹿:榎木淳弥
国府:加藤渉
西村:落合福嗣
スタッフ
原作:The Detectives United
監督:あおきえい
脚本:舞城王太郎
キャラクター原案:小玉有起
キャラクターデザイン:碇谷敦
美術・世界観設定:曽野由大
メインアニメーター:又賀大介
アニメーション監督。空の境界「俯瞰風景」、Fate/Zero、アルドノア・ゼロ、Re:CREATORS、
等の作品の監督を務める。最新監督作として「ID:INVADED」が2020年1月5日よりO.A開始。
いかりや あつし
演出家、アニメーター。Fate/Zero、ヱヴァンゲリヲン新劇場版、交響詩篇エウレカセブン、
コードギアス反逆のルルーシュ、はたらく魔王さま!等の作品に携わる。最新作として「ID:INVADED」のキャラクターデザイン/総作画監督を務める。