「今日も缶詰食って、酒飲んで、焚き火して、無になって」

三浦貴大、夏帆主演のドラマ25「ひとりキャンプで食って寝る」
(テレビ東京・金曜深夜0時52分~)。ゆるい「ソロキャンプ」をテーマにした趣味ドラマだ。


先週放送された第9話は、缶詰大好きなソロキャンプ男・健人(三浦貴大)が主役の回。ソロキャンプ先で、やはりソロキャンプにやってきた苦手な課長(田口トモロヲ)と鉢合わせてしまう。

後半にさしかかり、人がひとりでいることをテーマにしたドラマ部分が色濃くなってきたような気がする。監督は田口トモロヲも出演した「バイプレイヤーズ 〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜」の横浜聡子。

冒頭のセリフは、キャンプ場にやってきた健人の気持ちのこもった呟き。彼の考えるソロキャンプの楽しみがこの独り言に凝縮されている。
ややこしい人間関係から切り離され、ゆらゆら揺れる火を見ながら「無」になることができるのがソロキャンプの醍醐味なのだろう。

よかれと思ってやったのに


休日出勤をこなした後、木更津のキャンプイベントにやってきた健人。謎の踊りをしている集団に目をやると、踊りの輪に外で入りたそうにしている課長の姿を見つけてしまう。あわてて身を隠そうとするが、あえなく見つかる健人。これでは到底、「無」になんてなれそうもない。缶ビールで乾杯するときの缶の位置と手の伸ばし具合だけで、2人の人間関係がわかってしまう。

並んでビールをあおりながら、健人の最近の忙しさについて申し訳無さそうな表情を見せる課長。
健人は「この人、会社でこんな顔したことないよ」と心の中でつぶやく。きっと会社ではかなり厳しい上司なのだろう(健人は凡ミスで叱責されたばかり)。

その後、課長はスパイスカレーを作り始めるのだが、健人への指示も段取りもかなり細かい。リラックスしたキャンプの場でこうなんだから、仕事ではもっと細かいはずだ。だが、細かいだけでなく、相手の思っていることを読んで答えを先に伝えたり、部下の作業を後ろからそっと見守っていたりする。上司としてはデキる男なのだと思う。


カイエンペッパー(唐辛子)をたっぷり入れた真っ赤なスパイスカレーが完成する。カレーをよそい、パクチーを乗せ、「さ、食えよ」と勧めるが、課長は健人に唐辛子を入れる量も聞かず、好き嫌いの激しいパクチーを乗せるかどうかも聞かなかった。よかれと思ってやっていろいろやっているが、結局、相手の気持ちを考えていない。あまりの辛さに健人は目を剥くが、嬉しそうにしている課長に「辛すぎる」と伝えることができない。

ピンクのシャツの男が2人


「家族が好きでさ、チキンカレー。2人が喜ぶ顔を見たくて、いろいろ研究して。でも、家じゃ甘口と辛口、両方作らされたけどな」
「そうだったんですか」
「ま、2人とも出て行っちゃったけど」

並んで小枝を削っている(ブッシュクラフトと言うらしい)健人と課長。
課長は家族のためにカレーを作るようになったこと、それなのに妻と子が出ていってしまったことを語る。話を健人はそれほど驚かない。どこか課長の振る舞いから予想がついていたのかもしれない。

「こうやってキャンプに来て、一人で辛いカレー食って、木削ってな。そうすると、会社の嫌なこととか、家のこととか、忘れられるんだよ」
「わかります……」

言っていることは、冒頭に挙げた健人の言葉と完全に同じだ。そりゃ共感もするだろう。
2人にはもうひとつ共通点がある。それは大好きだった人と一緒にキャンプに来ていたことだ。健人はよく別れた恋人の理恵子とキャンプに来ていたし、課長が見せてくれた写真は親子3人で仲良くキャンプに来ているものだった。

ひとりになってしまった男が、ひとりになるためにソロキャンプに来る。思い出の残るキャンプに、すべてを忘れるために来る。どちらも矛盾だらけだが、矛盾があるのが人間だ。
このドラマはそういう矛盾をまるごと肯定している。ダメな男に優しい。

そういえば、この2人はピンクのシャツにネイビーの帽子というファッションもまったく一緒だった。親子でもこうは似ないよね。

課長はせっかく作ったのに鳴らなかった笛を投げ捨てて泣き出してしまう。この年になって、ひとりきりになるのは辛い。何もかもうまくいかない彼に寄り添うのは、謎のダンス集団で笛を吹いていた中年男だった。あの集団はダンスセラピーなのだろうか。「恋ダンス」の「夫婦を超えてゆけ」の部分をやっているようにも見えるので、離婚した人たちのセラピーだったりして。
田口トモロヲの真っ赤なスパイスカレー「ひとりキャンプで食って寝る」ひとりきりの男が何故キャンプ9話
イラスト/まつもとりえこ

日本映画の濃い部分


「課長さんさぁ、さみしいんだろうねぇ。優しい人なんだろうなぁ」

課長が去って一息つく健人。部下にこんなことを言ってもらえるのもキャンプがあったからこそ。

落ち着いた健人が作りはじめたのは、100円で買えるいなばのタイカレー缶をベースにした焼きそば。缶詰博士・黒川勇人氏のレシピが元になっており、作り方は超缶単。ぜひ今度、試してみたい。

踊る中年男を演じる守屋文雄は、まんが家たちが孤島で暮らす映画「まんが島」の監督。数多くのピンク映画にも出演している。守屋の最新作は8話に出演していた柳英里紗が主演で、「ひとりキャンプ」のもう一人の監督・冨永昌敬の「ローリング」は三浦貴大、柳英里紗、川瀬陽太が出演している。川瀬は8話にも「まんが島」にも重要な役で出演していた。「ひとりキャンプ」は日本映画のかなり濃い部分をすくいあげて作られたドラマだということがわかる。

本日放送の10話は、もう一人のソロキャンパー、山下リオが登場。ソロキャンパーがどんどん増殖中だ。「花子とアン」で仲間由紀恵と駆け落ちしていた中島歩も出るよ。今夜0時52分から。
(大山くまお)

作品情報
ドラマ25「ひとりキャンプで食って寝る」
監督:横浜聡子(奇数話)、冨永昌敬(偶数話)
脚本:冨永昌敬、保坂大輔、飯塚花笑
音楽:荘子it(Dos Monos)
出演:三浦貴大、夏帆
主題歌:Yogee New Waves「to the moon」
プロデューサー:大和健太郎、滝山直史、横山蘭平
制作:テレビ東京、東京テアトル
※動画配信サービスひかりTV、Paraviで放送1週間前から先行配信
※放送後にTVerで配信中