12月21日に放送された『おっさんずラブ-in the sky-』(テレビ朝日系)は、全く予想外の結末に着陸した。

成瀬竜&四宮要


春田 「今度、シノさんのチーズハンバーグが食べたいです」
四宮 「残念。お前のリクエストはもう聞かん」

今まで四宮要(戸次重幸)は、春田創一(田中圭)への恋心から料理を作っていた。
料理を通じ、相手の望む姿になろうとしてきた。最終話には、そんな自分を卒業した四宮がいた。

その直後、成瀬竜(千葉雄大)が春田をコンビニに誘った。
「あのね。今までの俺だったら何も考えずに春田さんとも軽く付き合ってたと思うんです。でも……でもね、俺にとって春田さんは大切な人だから、それはできない。誰かを大事にしたいとか、本当に好きだって思う気持ちとか、逃げないで向き合うカッコ良さとか、そういうのいっぱい教えてくれたのはあなたです。だから……春田さんのこと、尊敬してます。ありがとうございます」(成瀬)

真摯に自分の気持ちを伝え、ケジメを付けた成瀬。ニンジンを食べられるようになった彼はいいかげんに恋愛することをやめ、ちゃんと春田をふった。いつしか、周りから「変わった」と言われるようになった成瀬。In the skyは成瀬の成長を見る物語でもあった。


「おっさんずラブ」は、春田のモテモテストーリーが描かれがちだった。黒澤武蔵(吉田鋼太郎)にも四宮にも、いつもふる側の春田がボロボロ泣いていた。でも、今度は春田がふられる側に立ち、「泣いてんじゃねえよ」と成瀬の涙を拭っている。成瀬だけでなく、春田も成長をしていた。

四宮と成瀬は一緒にグラタンを作った。春田に「お前のリクエストは聞かん」とつれない態度だった四宮が成瀬を気にし始めているということ。そして、四宮は思わず成瀬にキスしそうになる。
正直、心理描写は足りない。あれだけ春田に一途で、成瀬の恋心をあれだけ拒否していた四宮なのに。ただ、ここは千葉雄大のキャスティングが効いていたと思うのだ。あまりに成瀬が可愛らし過ぎるから、四宮が理性を越えてしまったと捉えたい。
初回で春田の気持ちを考えずにキスした成瀬が、最終話では四宮の衝動と葛藤を汲んでキスをした。
春田へのキスと四宮へのキスのコントラスト。「あんた(四宮)以外とはキスしたくない」という言葉を、成瀬は頑なに守り抜いた。

春田創一&黒澤武蔵


「押してもダメなら引いてみな」というか「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」というか。In the skyは、まさかの武蔵エンドに終わった。正直、伏線らしいものはほとんど見つからない。前回、クレーマーとして現れた客(今野浩喜)に振り払われた武蔵へ「なんであんな無茶するんですか!」と春田が駆け寄り、それを見た橘緋夏(佐津川愛美)が何か気付いた表情をしていたくらいか。それを受けての「お父さんの第2の人生全力で応援する!」(緋夏)という言葉だったのかもしれない、今思うと。
「おっさんずラブin the sky」は武蔵が創ったパラレルワールド?遂に春田と結ばれシリーズ完結か
イラスト/サイレントT

さらに考察すると、シーズン1の春田はルームシェアをやめて出ていこうとする牧凌太(林遣都)を追い、LOVEかLIKEか曖昧な状態のまま「出ていかれるのは嫌」という感情で恋をスタートさせた。パイロットを辞める武蔵にも同様の感情が働いたのか?(ならば、寮から出ていった四宮にもそうならないとおかしくなるが……)

言ってしまえば、今まで武蔵は一番蚊帳の外だった。武蔵エンドにするならば、武蔵にもっと尺をかける必要がある。春田→武蔵の流れがいくら何でも急過ぎなのだ。だから、見ていて理解が追い付かない。
何より、当の武蔵が「嘘だー!」と叫んでいるし。全8話で描かれた出来事の大半は、春田と成瀬の日々。雨の中でハグをしたり、テラスで無理矢理キスしたり、ポケットの中で手をつないだり。今思うと、「あれは何だったの!?」という心境になってしまうのだ。

初回から武蔵の想いは春田に受け入れられなかった。序盤どころか7話でも春田は泣きながら武蔵のファイナルアプローチを断っており、彼が武蔵に向き合ったのはそれより後ということになる。以降、春田が心変わりを匂わせていたのは武蔵が機長を辞めると知ったときにフリーズしたくらいだ。
自分の想いが受け入れられない事実をどう乗り越えていくか? これこそが、ラブストーリーである。武蔵→春田には、その描写が圧倒的に足りない。もっと我々に武蔵を応援させてほしいし、武蔵を好きになる春田の心の声がもっと聞きたかった。愛が唐突に生まれ過ぎなのだ。

武蔵は春田と抱き合い、声に出してつぶやいた。

「はるたん……」
in the skyは報われなかった武蔵が春田を諦め切れずに創出したパラレルワールド。そういうことになるだろうか。単発版、天空不動産編を経て、3年越しに報われた武蔵。今シリーズで武蔵が春田を「春田」と呼んでいたこと自体、実は最大の伏線だった。

in the skyのオープニングは登場人物が順繰りにハグリレーをし、最後は春田と武蔵のハグに終わる。あの順番に意味があるとすれば、物語は滞りなく予定通りに着陸した。新たな世界線で、主人公とヒロインは3年越しに遂に結ばれたのだ。
これまでの2度のパラレルワールドは、武蔵が春田と結ばれなかったから生まれたドラマ。だとしたら、「おっさんずラブ」はこれで完結と考えられる。
(寺西ジャジューカ)

土曜ナイトドラマ『おっさんずラブ-in the sky-』
脚本:徳尾浩司
演出:瑠東東一郎、山本大輔、Yuki Saito
音楽:河野伸
主題歌:sumika『願い』(ソニー・ミュージックレーベルズ)
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、神馬由季(アズバーズ)、松野千鶴子(アズバーズ)
制作著作:テレビ朝日
制作協力:アズバーズ
※各話、放送後にビデオパスにて配信中
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