倉本聰・脚本「やすらぎの刻~道」(テレビ朝日系・月~金11時30分~)第38週。

シニアに向けたドラマということで、やたらと老人に優しい若い娘や、老人に優しい孫たちが登場しがちなドラマではあるが、今週は老人たちをきもちよ~くさせてくれる孫ポルノの極み! 全じーちゃんばーちゃん号泣モノの展開だった。

「やすらぎの刻~道」第38週。孫ポルノ! 橋爪功のために孫全員協力で思い出の鐘を鳴らす…なんか感動
イラストと文/北村ヂン

じーちゃんのために孫全員が結束!


根来翔(菅谷哲也)が、かわいい従兄弟(清野菜名)&彼女(渡辺早織)との同居生活をスタート。あだち充の漫画っぽいドキドキ三角関係が展開されるかと思いきや、彼女の怖〜い親父が迎えに来てアッサリ終了。

再び、じーちゃんばーちゃんを喜ばせるための孫エピソードがはじまった。

この「道」パートの原点とも言うべき、小野ヶ沢から町へと続く道。あの道が舗装され、さらに高速道路が通る計画があるという。

若者連中は村が便利になることを歓迎していたが、根来公平(橋爪功)たちは複雑な気持ちを抱いていた。

「便利になるのは良いとも言えたが、昔からのふるさとが変わってしまうのは、ひどく寂しいことにも思えた」

老人たちがもうひとつ、寂しく思っていたのが祥恩寺の鐘。

ドラマ内も大晦日が近づいていたが、小野ヶ沢ではかつて、祥恩寺の鐘とともに年を越すのが恒例となっていた。

しかし、戦時中の金属供出で鐘を持って行かれてしまい、それ以来、元に戻らないまま平成になっていたのだ。

「あの音が聞けんのはまったく寂しかった。戦争前の小野ヶ沢の大晦日には、いつもあの祥恩寺の鐘の音が谷一帯に流れとったんじゃ」

戦後すぐ、ハゲやニキビたちが満州から帰ってきた直後の大晦日にも、鐘の音が鳴らないことを寂しがり、みんなでゴーンゴーンとボイパならぬボイ鐘を鳴らしていたが、あれから40年以上経っているのに、鐘を復活させようという話にはならなかったのか……。

この話を聞きつけた、老人たちにとって理想の孫こと翔は、他の孫たちと力を合わせて、公平のために鐘をプレゼントする計画を立てる。

もちろん鐘を買えるわけはないので、村の広報無線のスピーカーをジャックして、そこから鐘の音を鳴らそうというのだ。


若者たちが協力し合って大人たちに内緒の計画を進めるエピソードは、それだけでたまらないワクワク感があるが、それが「おじいちゃんおばあちゃんを喜ばせるための計画」ときたら、早くもシニア視聴者は感涙しそうだ。

変で地味な映像なのに、どうしてこんなに感動させられるのか


電気を盗み、スピーカーの本線を切って、別のラインを割り込ませ……。鐘を鳴らすための計画を進める翔たち理想の孫チーム。

そんな、法律的にアウトなことまでしなくても、普通に孫たちが集まってくれるだけで、じいちゃんばあちゃんは大喜びだと思うが。

時代設定は平成4年末のようだが、もはや大晦日に集まってみんなで餅つきをして大盛り上がりする孫というだけでも相当にファンタジーだ。

「久しぶりに楽しい夜じゃった。本当に何年ぶりじゃろうか、一族がこれだけ集まるのは」

公平、早くも感無量状態になっているようだけど、この後、もっと喜ばされちゃうんだよ!

根来家の初詣は23時半に家を出て、鎮守様にお参りをし、祥恩寺の住職にあいさつをし、墓参りに行くというルート。

例の鐘は24時ちょうどに鳴るようにセッティングしてあり、翔たちはチラチラと時計を気にしている。

夜の23時過ぎという設定ながら、どう考えても日中に撮影して明るさを調整したとした思えない謎の映像ではあったが、刻々とおじいちゃん大喜びタイムが近づいてくると思うと、謎映像も気にならないくらいグッと画面に引き込まれてしまった。

墓参りをしながら、ここに眠っている浩次や三平が戦争で死んだの、戦争がイヤで自殺したのと語る公平。

その顔に、タイマーの映像がはさみこまれるという、時限爆弾でも爆発しそうな仰々しいカウントダウン演出。そしてゴーンと鐘の音!

カウントダウンが終わり、鐘の音が鳴るだけという、ビジュアル的にはものすごく地味な映像なのだが、これだけ感情を盛り上てくれる演出力はスゴイ。

戦前にはみんなで突きに行き、戦時中に金属供出で持って行かれ、戦後すぐに生還した仲間たちとゴーンゴーンとボイ鐘を鳴らした……と、40年越しの伏線回収に否応なく感動させられる。


変な夜の映像にSEを乗っけるだけと、明らかにお金はかかってなさそうなのに!

若者向けドラマだったら、盗電&広報無線ジャックして作戦は成功したものの、孫たちは警察に……みたいな波乱含みの展開もありそうなところだが、お年寄りを喜ばせるためのこのドラマにはそんな展開はナシ。

鐘の音を聴きながら、涙を流して寄り添う公平としの(風吹ジュン)の表情で、孫ポルノの極みを感じるのだった。

「その大晦日は一生忘れん!」

梅宮辰夫、まだ出てくるみたいだぞ


今年の4月にスタートし、1年間続く大巨篇ドラマ「やすらぎの刻~道」も、年が明ければ残すところ1クール。

「やすらぎの刻」パートも「道」パートも、どこに着地しようとしているのかまったく見えないが、ひとまず予告編によると、梅宮辰夫がまだ出てくる模様。生前に撮影してたシーンが残ってたんですねぇ。
(イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻〜道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」「終り初物」「観音橋」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日
編集部おすすめ