三浦貴大、夏帆主演のドラマ25「「ひとりキャンプで食って寝る」(テレビ東京・金曜深夜0時52分~)が最終回を迎えた。

奇数回は缶詰男子の三浦貴大が主役を務め、偶数回は「獲って食べる」女子の夏帆が主役を務めてきたが、ラストはそれぞれの最終回となる11話と12話を一気に放送するという力技。
最終回で2人が出会うんじゃないかという説もあったりなかったりしたが、結局出会うことはなかった。
三浦貴大&夏帆「ひとりキャンプで食って寝る」最終回。趣味さえあれば人は一人でも十分楽しいんだ
イラスト/まつもとりえこ

恋人と別れても缶詰を食べれば幸せ


「君だって一人で山に来る理由(わけ)があるだろう?」

第11話は、健人(三浦貴大)が大きなリュックを持った老人・剛田(仲本工事)と出会う話。健人と同じく缶詰を愛する剛田は、山が好きで缶詰の美味しさを教えてくれた妻に先立たれていた。山頂のキャンプ場についた剛田は、用意してきた小さな花束を投げる。

「ありがとう。ありがとね! ありがとうー!」

ソロキャンプをする剛田は「一人になってしまった」男だった。恋人の理恵子に去られてしまった健人も同じ。健人と剛田は非常によく似ている。

「君は、いい若者だよ。俺の若い頃にそっくりだ」
「剛田さんも俺にそっくりです」

完全に理解し合っている二人だが、「そろそろお互いの時間を過ごそう」という剛田の一言で別れることになる。そこで剛田が続けて言ったのが、冒頭に掲げた「君だって一人で山に来る理由(わけ)があるだろう?」という言葉だ。そう、健人にも一人になりたい理由があった。

健人は別れた恋人・理恵子からの手紙を持ってきていた。
たっぷり缶詰料理を堪能した後、健人は手紙を開く。そこにはたった一文、こう書かれていた。

「健人へ あなたには私が決して踏み込めない宇宙があった さようなら」

第5話で健人は「テントの中は俺の小宇宙だ。何人たりとも踏み入れられない、俺だけの宇宙」と独り言を言っていた。他人に愛想良く振る舞うこともできるが、本当は心の中に誰も踏み込ませない。それが健人という男なのだろう。テントも缶詰も独立した小宇宙のようだ。健人は手紙を火にくべる。高い山の上は、思い出を灰にして空に帰すのにちょうどいい。

たき火を見つめながら健人が口ずさむのは「見上げてごらん夜の星を」。人々の生活の中にある「ささやかな幸せ」を祈る歌だ。翌朝、健人は炊きたてのごはんにさんまの蒲焼の缶詰を乗っけて頬張る(美味そう!)。
そこには本当にささやかで小さな幸せがある。
三浦貴大&夏帆「ひとりキャンプで食って寝る」最終回。趣味さえあれば人は一人でも十分楽しいんだ
イラスト/まつもとりえこ

鰻を逃しても野草を食べて幸せ


第12話では、獲って食べることを愛する七子(夏帆)が渓流で鮎と鰻を釣ろうとするお話。タックルベストにチェストハイウェーダー(川の中にズカズカと入っていける防水服)を身につけ、頭には菅笠を乗せている七子はどう見てもいっぱしの釣り人。彼女はどうやら形から入る人のようだ。

川でずっと独り言を言いながら釣りをしている七子は、「一人でいても平気な」女だ。もともとは友達の宏美(朝倉あき)とキャンプに来ていたのに、宏美が先に帰ってしまったからソロキャンプをするようになったという経緯があった。自分が一人でも平気だと気がついた七子は、それ以降、しょっちゅうソロキャンプをするようになった。

鮎が釣れなかった七子は、野草を採ってうどんに入れて食べ、満面の笑みを浮かべる。転んでもタダでは起きない。予期せぬハプニングを楽しむことができる人なのだ。

しかし、宏美から鰻の写真を送られてきて、カッときた七子は猛然と鰻を釣る仕掛けを作り始める。これは「ペットボトル釣法」と呼ばれる仕掛けで、鰻釣りの世界では有名なものらしい。なぜ七子がこんなマニアックなことを知っていたのかは謎。


翌朝、ペットボトル釣法は大成功するが、4話に登場した久丸(坂東龍汰)がやってきて見事に釣り上げた鰻を逃してしまう。天然鰻……もったいない……。

その後、ナマズを釣り上げた七子だがそのまま逃してやり、摘んだヨモギを使ったバームクーヘンを焼く。鰻とバームクーヘンの落差がすごい。遊びに来た宏美と一緒に仲良くバームクーヘンを食べる七子。よく見ると七子の着ているカットソーは草花の柄だった。今日は草花しか食べられない日だったのかもね、七子。

都会で仕事中、かかってきた電話を放っておいて公園に自生している野生の実を嬉しそうに頬張る七子の姿がラストシーンだった。どんどん野性味が増してきている?
三浦貴大&夏帆「ひとりキャンプで食って寝る」最終回。趣味さえあれば人は一人でも十分楽しいんだ
イラスト/まつもとりえこ

趣味さえあれば人は一人でも楽しい


どれだけ意図的だったのかはわからないが、奇数話と偶数話は見事に対照的だった。

缶詰のように内にこもる健人と、獲物を求めてどんどん外に向かっていく七子。安心安全なおなじみの味を頬張る健人と、予想外に獲ってしまったものもどんどん調理する七子。別れた恋人との思い出に浸り続ける健人と、何も考えずにひたすら目の前の獲物を追いかける七子。


男と女の性質が表れていて……なんて言いたい気持ちはミリもない。ただ、そういう男とそういう女がいたというだけのことである。

二人がやっているのは「ソロキャンプ」という同じものなのに、何もかも違うのが面白い。どっちも楽しいし、どっちも幸せ。どっちもそれぞれ肯定しているのが「ひとりキャンプで食って寝る」というドラマである。

もし本当に健人と七子がキャンプ場で出会ったら、「こんにちは」「あ、はい」とぎこちなく挨拶を交わして一瞬ですれ違っていくだろう。だけど、二人ともその日はちゃんと楽しかったはずだ。

人は誰かと出会えば楽しいが、誰かに出会えなくても楽しい。「ひとりキャンプで食って寝る」は、趣味さえあれば人は一人でも十分に楽しくて幸せになれるという物語だった。
(大山くまお)

作品情報
ドラマ25「ひとりキャンプで食って寝る」
監督:横浜聡子(奇数話)、冨永昌敬(偶数話)
脚本:冨永昌敬、保坂大輔、飯塚花笑
音楽:荘子it(Dos Monos)
出演:三浦貴大、夏帆
主題歌:Yogee New Waves「to the moon」
プロデューサー:大和健太郎、滝山直史、横山蘭平
制作:テレビ東京、東京テアトル
※動画配信サービスひかりTV、Paraviで放送1週間前から先行配信
※放送後にTVerで配信中
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