今回のテーマは“才能”。
母親から「やっぱり才能ないねぇ」と辛辣な言葉をぶつけられ、自分の“才能”に対して自信をなくしていた西郡を中心に、才能に振り回される患者たちが描かれた。

諦めなければ才能は開花する?
今回の患者は人気ピアニストで、タレントとしても活躍している景浦祐樹(柿澤勇人)。脳腫瘍を除去する手術が必要だが、聴神経はもちろん、顔面神経の温存も希望しており、かなり難しい手術になることが予想される。
一方、景浦と音大の同期であるにも関わらず“才能”が開花しないままピアノ講師をやっている根岸麻理恵(大西礼芳)は、その仕事も失業寸前ということで、自宅のベランダから飛び降りて東都総合病院に搬送されてきた。
いつもは患者と距離を取っている西郡だが、自分も“才能”への自信が揺らいでいるタイミングということもあり、麻理恵にシンパシーを感じる。
「どこでこんなに差が付いたんだろう、やっぱ才能かな」
「才能はあったんだよ。でもそれ、諦めてるから差が付いたんじゃないの?」
西郡は夜遅くまで何度もイメージトレーニングを繰り返して景浦の手術に備え、麻理恵も自分の“才能”を信じて曲作りを再開した。
努力の甲斐あって、景浦の手術は成功。麻理恵が作った曲もレコード会社に認められてデビューの可能性が見えてくる。
ここまではベタな「才能がなくても努力すれば夢はかなう!」的エピソードなのだが、ここから急展開していく。
景浦の手術が成功して一安心と思いきや、手術中「水も飲まずに心配しながら10時間近く座っていた」景浦のマネージャーがくも膜下出血で倒れてしまったのだ。
通常は4本あるはずの脳への血管が1本しかないという特殊な症例に、西郡は立ち往生するが、“トップナイフ”黒岩が現れ、サクッと手術を成功させてしまう。
「教科書通りに切ることは誰にでもできる。
西郡は、本当に才能のある脳外科医には努力で太刀打ちできないと、自分の“才能”のなさを痛感した。
突然開花した麻理恵の作曲の”才能”も、脳にできた腫瘍による後天的サヴァン症候群のせいだったと判明する。
瞬時に何万桁もの計算ができたり、トランプの札を一瞬で全部覚えたりするなどの症状が出るサヴァン症候群。
麻理恵はチョロッと聴いただけの曲を完璧に記憶してしまうという才能が目覚めてしまい、自分が作曲したと思い込んで無意識に盗作していたのだ。当然、腫瘍を除去すればその才能も消えてしまう。
西郡からこのことを告げられ、「どうやってこれから生きていけばいいの、私」と涙を流す麻理恵。「俺にも分からないよ」と答える西郡。
「努力しても才能ないヤツは天才には勝てない」という身も蓋もない結末となった。
名作回になったはずなのに……!
才能に振り回され、自分に才能がないと思い知ってからも「それでも生きていかなくてはいけない」という展開には考えさせられた今回だが……。
例のごとくエピソードを詰め込み過ぎており、細かい設定がよく分からないままだったのが気になった。
結局、麻理恵が飛び降りた経緯も、「麻理恵が無意識に盗作している」と判明した理由も不明のまま。
深山瑤子(天海祐希)が麻理恵の才能を怪しんで、バイトしているカフェに調べに行かせたら、たまたま元ネタとなった曲が流れていたって、そんな偶然ある!?
景浦の手術中、倒れてしまったマネージャーも、それまでまったく存在感がなかったため、突然メインのエピソードに絡んできたから「アンタ、モブキャラじゃなかったんかい!」とビックリさせられた。
ちなみに、原作の小説版では色々と設定が異なっており、マネージャーに当たるキャラクターは母親になっているため、10時間心配し続けていても違和感がないし、その他のエピソードも、もっと詳細に描かれている。
原作小説は脚本家自身が書いているため、意図に反した改変ということではないのだろうが、ページ数などの制限が少ない小説で思いっきり膨らませた設定を、テレビサイズの脚本に落とし込む段階で無理が出てしまったのではないだろうか。
自分に「才能がない」と認めた西郡と、サヴァン症候群に振り回された麻理恵。ここだけに絞って描いていたら、もっと名作回になっていたと思うのだが……。小机幸子(広瀬アリス)の添い寝エピソードとか必要だった?
ただ、第5話にして分かってきたのは、「1話完結の医療ドラマとして見ない方がいい」ということだろうか。
各回の主要な患者に関しては1話完結でオチがついているものの、医師たちの抱える問題に関してはシリーズ通してのロングスパンで描いていくようだ。
たぶん小机の恋愛エピソードも、ものすごい病気と絡んでくるんだと思う!?
(イラストと文/北村ヂン)
【配信サイト】
・TVer
・Hulu
「トップナイフ─天才脳外科医の条件─」(日本テレビ)
原作:林宏司『トップナイフ』(河出文庫刊)
脚本:林宏司
音楽:横山克、鈴木真人
主題歌:JUJU 「STAYIN' ALIVE」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
医療監修:新村核、岩出康男、谷川緑野、本田俊哉、松本尚、中村光伸
看護指導:石田喜代美
医療CG:奥山正次(デキサ)、横山敦子(GAIN)
医療担当助監督:竹中修
医療協力:セコメディック病院、第一会若葉クリニック
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:鈴木亜希乃、茂山佳則
演出:大塚恭司、佐久間紀佳、茂山佳則
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ