
2019年12月10日に京都コンサートホール 大ホールで幕を開けたASKAの『premium ensemble concert -higher ground- 』。その東京公演は、東京国際フォーラム ホールA、LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)に続いて、この東京文化会館 大ホールが3ヵ所目。
2018年の『THE PRIDE』ツアーではオーケストラとの共演、2019年の『40年のありったけ』ツアーは編曲家・演奏家としてASKAの音楽活動を長年支えてきた澤近泰輔が率いるASKAバンドとの共演と、全くスタイルの違うコンサートを繰り広げてきた。その二つのツアーを合体させ、自身初の試みとなるバンド+ストリングス形態をとったコンサートが『higher ground』なのである。今回は7名のASKAバンドに、15名からなるビルボードクラシックスストリングスの弦楽アンサンブルが加わった超豪華な編成。これは何があっても見逃せない、聴き逃せないと思わざるをえない内容となっていた。

実際、本当にとても素晴らしい内容のコンサートだった。言うまでもないことではあるが、時に柔らかなヴェールとなり、時にフランクな軽やかさをまとい、時に強靱な鋼となり……というASKAのボーカルの底力あればこそのパフォーマンスだった。なにしろ15名によるストリングスが密度の高い音で囲んで来ようとも、ピアノが繊細な響きで静かに近寄って来ようとも、バンドがテンションの高いサウンドで迫って来ようとも、ASKAは受け身も鮮やかに対峙し混ざり合っていく。まさに天下無敵なASKAという名の楽器が、ホールに鳴り響くコンサートとなった。
選曲も、往年のオーディエンスにとっては痒いところに手の届くラインナップ。ライブのイントロダクションとして演奏されたのは3月にリリースされるニューアルバムの収録曲「We Love Music」のインストバージョンで、それに続いたオープニング曲はストリングスが入ることでダイナミックになったCHAGE and ASKAのナンバー「僕はMusic」や「天気予報の恋人」、ライブという場が実によく似合うソロ初期の楽曲「HELLO」が、まず一気に演奏されていく。
あれもこれもそれも、すべて自分。という潔さとともに、あんなこともこんなこともそんなこともあった自分をまっすぐ受け止める。言ってみれば自分に対して甘くも厳しくもない、ただ愛おしく受け入れているような風通しの良さを、その選曲から感じた。作られた時期はもちろん、そもそもは制作意図も全く異なるのだろう楽曲たちが、平たく立ち並ぶたたずまいが好ましかった。そう自然に思えるくらい、今のASKAが選んだ洋服に着替えた楽曲たちが仲よく並んでいた。

ライブ中盤ではソロ楽曲を代表する1991年発表の「はじまりはいつも雨」と、2000年発表の「good time」が続けて披露された。この2曲を歌ったあとASKAが「『good time』はほぼ(ヒット)しなかったけど、20年、30年の間に好き好きタイマーが作動するんじゃないか(笑)」と口にしていたが、確かに的を射た言葉だと思った。それほど新鮮な1曲として耳に滑り込んできた。
ライブの折り返し地点では、質問タイムと称してフランクに観客と言葉を交わす時間をはさみライブは後半戦に突入していく。バンドのコーラス担当であるSHUUBIと向かい合ってデュエットした「you&me」を皮切りに、このあたりからロック色を強めたバンドサウンドに誘われて会場もどんどんヒートアップ。15thアニバーサリー・タイミングの「HEART」、20thアニバーサリー・タイミングの「higher ground」、これもまた懐かしの「青春の鼓動」といった楽曲の登場に観客のテンションも否応なく上がっていく。
あっという間にアンコール。再びステージに戻ってきたあとは、かつてロンドンに滞在したときの思い出が元になったという「一度きりの笑顔」が歌われた。さらに様々な意味で思い入れのある楽曲だと思う「PRIDE」と、ものすごく久しぶりに歌われる「BIG TREE」が続いた。もうこの2曲に関してはASKA降臨としか思えなかった。耳を通して身体の隅々にまで染み込んでいくボーカルとサウンド、和製ゴスペルと言いたくなるような声の存在感、すべてがASKAでなくてはならない“歌”だった。

「次のツアーは三身一体と言ってましたけど、それがこのツアーなんです」とライブ途中のMCで語っていたASKA。その“三身”は、ストリングスとバンドとASKAであり、音と言葉と声であり、もっと感覚的なことでもあるような……。いずれにせよ、これだけのパフォーマンスを見せられては、このあとに控えている10枚目のアルバム『Breath of Bless』への期待は天井知らずだ。屋根を突き抜け、空をぐんぐん登っていくしかない。おそらくASKAは自らが目指した“さらなる高み(higher ground)”を、そのアルバムで見せてくれるのだろう。
取材・文/前原雅子