
第2週「運命のかぐや姫」8回〈4月8日 (水) 放送 演出・吉田照幸 松園武大〉
後に作曲家になる古山裕一(石田星空)の未来の妻・音(清水香帆)のターン、2日目。本放送の画像は、先日発された緊急事態宣言に関する情報でL字囲みになっているため、BSを録画したものを見てレビューを書いている。「スカーレット」から念のためBSと総合と両方録画することにしたのだが、早くも役立ってしまった(全然喜ばしい話ではない)。
柴崎コウ、讃歌
教会で音が琴を弾く予定だったが(音が琴、韻を踏んでいる)、自分が提案した「かぐや姫」で主役になれずぶーたれていて遅刻してしまう。父・安隆(光石研)と慌てて教会に駆け込むと、オペラ歌手・双浦環(柴咲コウ)が「私のお父さん」(プッチーニのオペラ 「ジャンニ・スキッキ」より)を歌い上げていた。

すっかりその歌に引き込まれる音。
父に連れられて挨拶する音に、環は優しい(彼女が歌う「蝶々夫人」のレコードまでくれる)が、音が琴の発表をしなかったことには注意する。
「どんなことがあっても今日みたいに出番を空けちゃだめ。周りの人に迷惑がかかるから」
「目の前のことに全力を尽くしなさい」
このドラマ、子供を教育するようなセリフが多いと感じるが、常識を伝えることは悪いことではない。
それはともかく、柴咲コウ。いい声をした歌手である彼女ながらオペラに挑むのはなかなか高いハードルだったと思う。
オペラ特有の体の奥を震わせ会場に反響させていくような歌い方ではなく、オペラを柴咲コウなりに美しく張った高音で見事に歌いあげたという感じで、それはそれで良かった。
あえて挑む。それが大事だと思う。
まさに、「目の前のことに全力を尽くしなさい」というセリフを地でいった感。
それがどんな役であっても。どんな不利な状況であっても。
双浦環が主役の作品であれば、事前にたくさんレッスンもできたであろう。重要な役とはいえ、主人公ではないので、オペラの歌唱を会得して発表できるレベルにもっていくにはリスクがありそう。それでも仕事を引き受けた、心意気を讃えたい。
なにより柴咲コウの声には包み込むような力はあるのは確かなのだ。映画「黄泉がえり」の歌はほんとうに良かった。
ちなみに「私のお父さん」は、娘が父親に好きな人ができたことを激白(?)する歌詞。将来、音が、裕一を好きになってお父さんに結婚を請うことを暗示しているのかと思ったが、じつはこのオペラは、戦争の影響でプッチーニの故国ローマでは初演できず、ニューヨークで行われたそうである。
目下、「エール」がコロナウイルス感染予防のため撮影中止になっていることとうっすら重なる感じがしてドキリとした。
作品が作れない、発表できない、そんなときどうする?という状況に人類はいま置かれているが、その原因が違うにせよ、過去にもそういう困難があったのだなあと思う。そんなときこそ“エール”。

「出たねえ 黒蜜」
環にすっかり魅了された音は、歌を習いたいと思い始める。と同時に「かぐや姫」のおじいさん役に「全力を尽くす」気持ちになり、たった一言のセリフに力を入れ始める。愛娘・環の性格を「感受性が強い」「繊細」などと語りながら晩酌する、父と母・光子(薬師丸ひろ子)
光子「いまは好きなことをやればいい。おなじことをやればいいって風潮嫌い」
安隆「出たねえ みつの黒い部分。黒蜜だ」
さほど黒くない気がするんだけれど、この時代はこれくらいの発言でも女性がこういうことを言うと「黒い」と思われたのかもしれない。
ところで、薬師丸ひろ子は歌わないのだろうか。
姉・吟(本間叶愛)と妹・梅(新津ちせ)も音の変化を不思議に思ってのぞいている。
メガネっ子・梅を演じている新津ちせ。アニメ監督と女優の娘だからか、ものすごく絵になる演技をする。顔からあり余るほどの表現欲を感じる。小さいのに圧が凄い。

不穏なナレーション
吟の14歳の誕生日にお祝いする家族。プレゼントは口紅。部屋の天井にいろんな柄の端切れが旗のように飾ってあるのが微笑ましい。
子供にせがまれダンスする夫婦。
チャイコスフスキーの「花のワルツ」は「なつぞら」で主人公なつ(広瀬すず)が天陽くん(吉沢亮)と一緒に見たディズニーの「ファンタジア」にも印象的に使用されていた。思わず体がスイングしそうになる優雅な曲。
そこへかぶる「こんな日がずっと続くと思っていました」というナレーション(津田健次郎)。
むむむ、何か不穏である。
不穏な終わり方
「かぐや姫」の主役に抜擢された神埼良子(田中里念)は、母親ます(篠原ゆき子)からのプレッシャーで体調を悪くしていた(ますの場面は昼ドラっぽいトーンだった)。稽古中、うまくできない良子に代わって音がかぐや姫を演じると「勝手なことしないで」と良子は怒ってしまい(当たり前)、教室から出て行ってしまう。
と、そこに「警察から連絡がありました」と熊谷先生(宇野祥平)が呼び出される。
音の身に何か? この不穏な感じは「小公女」を思わせる。
不穏に不穏が重なって、確信に変わってしまいそうで。これはもうテッパンの続きが気になる終わり方。安隆に「奥さん元気にしてるか」と聞く打越金助(平田満)もなんか怪しいし……。
明日が待ちきれない。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)
番組情報
連続テレビ小説「エール」◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り
原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和