竹内涼真×鈴木亮平「テセウスの船」1話考察【再放送】
イラスト/まつもとりえこ

新型コロナ感染拡大の影響で、各テレビ局はドラマの撮影や番組の収録が行えず、過去の番組の再放送や再編集版、傑作選などが多く放送されている。

TBS日曜劇場で今年1〜3月にオンエアされた「テセウスの船」の再放送が昨晩よりスタートした。
今回は一部地域では放送されていないものの、おじいさんの古い斧(@gfsoldaxe)が再放送に合わせてつぶやくTwitter連動企画も行われており、一度ドラマを観た人も、本放送を見逃した人も楽しめる内容となっている。

エキレビ!で掲載した、近藤正高氏によるレビューを再掲する(日付などは当時のまま掲載)。

竹内涼真がタイムスリップで急展開、あのワープロ書いてるの誰


TBSの日曜劇場の新ドラマ「テセウスの船」が始まった。東元俊哉の同名コミックを原作とするこのドラマでは、竹内涼真演じる主人公がタイムスリップして、若き日の自分の父親と遭遇する。

日曜劇場ではこれまでにもたびたびタイムスリップ物が登場した。大ヒットして続編もつくられた「JIN-仁-」(2009年・2011年)は、大沢たかお演じる現代の医師が幕末にタイムスリップする話だったし、「流星ワゴン」(2015年)では、西島秀俊演じる中年男が、死んだはずの友人の運転するワゴン車で過去にさかのぼり、そこでいまの自分と同じ年齢だったころの父親と出会うことで物語が展開された。

今回の「テセウスの船」は、主人公が父親と向き合うという点で「流星ワゴン」と共通するところが多そうだ。
「流星ワゴン」は、香川照之が年老いて余命いくばくもない父親を特殊メイクをして演じたことでも話題を呼んだが、「テセウスの船」の父親役の鈴木亮平もまた、役に合わせて体型まで変えるなど徹底した役づくりで知られる(日曜劇場では、「天皇の料理番」で主人公の兄が病気で痩せ衰えていく姿を忠実に演じていたのが記憶に残る)。それだけに、今回もどれだけ役になりきるのか期待が高まる。

その鈴木亮平が「テセウスの船」で演じる父親=元警官の佐野文吾は、1989年に東北の片田舎の小学校で起こった無差別大量殺人事件の犯人として死刑判決が下り、現在は収監されているという設定だ。主人公の田村心(しん)は、事件の起こった年に生まれ、父親不在のまま女手一つで姉と兄とともに育てられた。心自身には父の記憶はないが、加害者の家族としてずっと世間から厳しい非難を受け続け、教師志望にもかかわらず、その夢もあきらめて隠れるように生きてきた。それだけに父・文吾に対しては、自分たち家族の人生をめちゃくちゃにされたという恨みしかなかった。


そんな心に、文吾は無罪かもしれないと過去に向き合うよう勧めたのが、妻の由紀(上野樹里)だった。由紀は、お腹の子供のためにと心が少年時代より耳に残っているという曲をハーモニカで聴かせてもらうなど、幸せなひと時をすごしていたのもつかの間、ドラマが始まってまもなく娘を出産して死んでしまう。いきなり急展開だが、第1回はこうした劇的な場面がこのあとも繰り返され、私はすっかり物語に引き込まれていた。

互いを疑い始める心と文吾


心の手許には、父・文吾の事件について由紀が事細かに調べてまとめたノートが残された。彼はそれを手がかりに、かつて家族が住んでいた宮城県音臼村(ちなみに原作では北海道という設定)を訪ねる。だが、事件の起こった小学校跡に立ち寄ったとき、辺りに霧のようなものがかかったかと思うと、すでに取り壊されたはずの学校の校舎が現れた。

心が驚いて、近隣を見て回っていたところ、神社の下で少女が倒れているのを見つける。
急いで彼女を近くにあった医院に担ぎ込み、院長の三島に預けたあと、心は院内の日めくりのカレンダーの日付が1989年1月7日であることに気づく。待合室のテレビには、新元号「平成」の発表の瞬間が流れていた。どうやら心は事件の起こる31年前にタイムスリップしてしまったらしい。

ふと思い出して由紀の残したノートを見れば、その日、小学5年生の女児が神社の階段から転落したという新聞記事の切り抜きが貼ってあった。女児の名前は佐野鈴(白鳥玉季)……ほかでもない心の姉であった。そこへ文吾が制服姿で病院へ駆けつける。
初めて目のあたりにした文吾を、心は自分の父親と思う以前に、無差別殺人事件の犯人として見てしまう。娘を助けてくれたと知った文吾に握手を求められても、とっさに拒否して、その場を逃げ出した。

病院を出た心は、別の女児と遭遇する。三島医院の次女の千夏だ。再びノートを確認すると、千夏はこの日、除草剤を誤飲して死亡したとの新聞記事があった。心はこれを回避すべく、医院の倉庫に入って除草剤を見つけると、それを山に持って行って容器ごと捨てる。
だが、それを新聞配達員の長谷川(竜星涼)に目撃されてしまう。心は心で、文吾が雪のなか千夏を山へ連れていくのを目撃する。

このあと心は、若き日の母・和子(榮倉奈々)とまだ幼い兄・慎吾(番家天嵩)とばったり出会う。和子にともなわれ三島医院に戻った心は、鈴は早く助けられたおかげで、顔に凍傷の跡が残らずに済んだと知り、安堵する。心の知る鈴(貫地谷しほり)には右頬に傷跡が大きく残っていたからだ。過去は変えられるとの実感を得た心は、千夏もきっと死ぬことはないと思ったのだが……予想に反して、その直後、千夏が倉庫で倒れているのが見つかり、まもなくして死亡が確認される。


ここから心の頭には、文吾がこの事件でも犯人なのではないかという疑惑がもたげる。これに対し文吾もまた、心が千夏を殺したものと疑い、管轄の警察署に連絡を入れた。父子が互いを疑い、ひそかに探り合う。心は文吾の勤務する駐在所の机の引き出しから、除草剤の空き容器を見つけてしまう。一方、文吾は、自宅に泊めた心が慎吾と風呂に入っているすきに、彼の財布を探し出し、そこから見慣れない紙幣や「平成32年」と書かれた免許証を発見した。


雪山での事件が父子のわだかまりを解く


その後もさまざまな事件が起こる。由紀のノートには、1月9日に地元のメッキ工場の工場長・木村(不破万作)が出勤中、軽トラックで橋にさしかかったところで雪崩に巻き込まれて死亡したとの新聞記事もあった。心はどうにかして木村を救うべく、通りかかった文吾のパトカーに乗せてもらって追いかけ、すんでのところで木村を引き止める。これには文吾も、一緒にいた木村の娘で、鈴や千夏の通う学校の教師のさつき(麻生祐未)も驚くしかなかった。

やはり過去は変えられると再び自信を取り戻した心だが、文吾より通報を受けた刑事の金丸(ユースケ・サンタマリア)に署まで連行され、取り調べを受ける。翌朝、釈放された心は、例の山に行って、先日捨てた除草剤の容器を探すも見つからない。そこで鈴と出くわした。聞けば、鈴の同級生で、死んだ千夏の姉・三島明音が行方不明になったという。ノートでもたしかに同様の事件の記述はあったが、それは5日後に起こるはずだった……(ちなみに原作でもこの事件はもう少し物語が進んでから登場する)。

心は村の人々とともに捜索するなか、文吾が明音を背負って雪の降りしきるなか山奥へと入っていく姿を見かける。雪上に残った足跡をたどっていくと、明音と文吾が崖から落ち、岩のすきまにかろうじてとどまっていた。このままでは寒さで明音が死んでしまうと文吾に言われ、心はやっとのことで彼女を引き上げる。さらに文吾を助けねばと、手を差し伸べるのだが、文吾は「俺はいい」と断り、一刻も早く明音を送り届けるよう促す。

心はタイムスリップしてからというもの、たとえ文吾を殺してでも過去を変え、自分たち家族を救おうと思っていた。だが、当の文吾から明音を託されたとき「子供を守るのが大人の使命だろう」と言われ心変わりする。明音を送り届けると再び崖まで戻り、すっかり疲弊した文吾に手を差し伸べた。文吾はなおも断るが、心から「俺はあなたに生きていてほしいんだっ!」と言われては、受け入れるしかなかった。

大柄な文吾を崖の上まで引き上げるのはさすがに困難をきわめたが、どうにか救出すると、心は彼と雪の上でほほえみを交わす。心が「いま、俺はようやく信じることができた。この人は俺の父さんだ。殺人犯なんかじゃない」と確信した瞬間であった。

このあと自宅に戻った文吾と心は、体を温めるため一緒に温泉に浸かる。このとき、駐在所の引き出しにあった除草剤の容器は、心が捨てたのを文吾が回収したものだと判明。さらに文吾が口笛で吹く「上を向いて歩こう」が、自分が由紀の生前、お腹の子にハーモニカで聴かせようとしていた曲であることに気づく。って、心がハーモニカで吹いていたのは「上を向いて歩こう」だったのか! うろ覚えで吹いていたせいか、まったく違う曲に聴こえたけど……。ともあれ、雪山の一件と、「上を向いて歩こう」のおかげで、心はすっかり文吾に対するわだかまりが解けるにいたった。

ところで、本作のタイトルの「テセウスの船」とは、劇中でも説明されていたとおり、ギリシャ神話に出てくるエピソードに由来する。これは、戦に勝利した英雄・テセウスの船を後世に残すため、朽ちた木材を次々と交換し、やがてすべての部品が新しいものに取り換えられたのだが、こうしてできあがった船は果たして最初の船と同じものなのだろうか……という一種のパラドックスだ。

ここで登場する船の部品は、このドラマにおける31年前に同じ村であいついで起こった事件に相当するのだろう。心はそれら事件が起こるのを一つひとつ阻止しながら、自分が生きる“未来”をも変えようとしている。ただ、その結果、変えなくてもいいことまで変わってしまうことはないのか? そんなパラドックスの可能性を予感させる第1回であった。

「あぶデカ」「プッツン」……80年代ネタも登場


劇中では、1989年という時代設定にあわせて、さまざまな懐かしネタも盛り込まれていた。村の商店主・井沢(六平直政)が「ゆくぜ、タカ」と、当時の人気ドラマ「あぶデカ」こと「あぶない刑事」で柴田恭兵演じるユージのモノマネをするわ、親の介護のため実家に来た田中(せいや)は、自分を不審者扱いして駐在所にむりやり連れてきた井沢と徳本(今野浩喜)に対し「何なんですか、あの人たち。完全にプッツンなんですけど」とあきれかえる。「プッツン」も当時の流行語だ。

ただ、この時代を知る私には、ちょっと気になるところもあった。幼い慎吾は心と初めて会った場面で、「ちゃっぷい、ちゃっぷい」と、使い捨てカイロのCMから流行ったフレーズを口にしていたが、くだんのCMが放送されたのは1983年と、ドラマの時代より6年も前で、幼い慎吾が知っていたにしてはちょっと古い気もする。まあ、両親や姉から教わったという可能性はあるけれど。

あと、同じく慎吾が心と風呂に入ったときに歌っていた「24時間戦えますか」というのは、1989年に流行ったドリンク剤のCMソング(時任三郎が牛若丸三郎太名義で歌った「勇気のしるし〜リゲインのテーマ〜」)だが、1月の時点では肝心のCMはまだ流れていなかったような気もする。私もうろ覚えなので、これについてはもうちょっと調べてみたい。

気になるといえば、劇中でときおり映し出された、犯行をほのめかすような文章が打ちこまれるワープロの画面もそうだ。ここで書かれたメッセージは、一体誰がどこに宛てたものなのか。おそらく次々に起こる怪事件の鍵を握るであろう、このメッセージの真相を知るためにも、今夜放送の第2回以降も見逃せない。(近藤正高)




オンエア情報


TBS
「テセウスの船ネタバレSP」
※放送は一部地域を除く
5月11日(月)深夜23:56〜24:55
5月12日(火)深夜23:56〜24:55
5月13日(水)深夜23:56〜24:55
5月14日(木)深夜23:56〜24:55
5月15日(金)深夜24:20〜25:20
5月18日(月)深夜23:56〜24:55
5月19日(火)深夜23:56〜24:55
5月20日(水)深夜23:56〜24:55
5月21日(木)深夜23:56〜24:55
5月22日(金)深夜24:20〜25:20