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「今日から俺は!!」再放送3話 鈴木伸之が出てきて「ゲッ」ってなった、別世界の人だった
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新型コロナ感染拡大の影響で、各テレビ局では過去の番組の再放送や再編集版、傑作選などが多く放送されている。

TBSにて、2018年10月〜12月にオンエアされた「今日から俺は!!」が再放送中だ。
エキレビ!で本放送時に掲載した、沢野奈津夫氏によるレビューを再掲する(日付などは当時のまま掲載)。

「今日から俺は!!」に陰キャがハマるのは必然だった


原作「今日から俺は!!」は連載当時、ヤンキー漫画なのにヤンキーじゃない層にウケていたように思う。同じ時期に連載されていた「CROWS」は本当にヤンチャな人、「今日から俺は!!」はそのヤンチャな人から被害を受けながら生きる今でいう陰キャ、もちろんどっちも読む人が多かったが、なんとなくファンの住み分けが出来ていた。

西森博之先生に対して大変失礼な話になるのだが、「『今日から俺は!!』が1番好き」と堂々と言うのは、「自分は陰キャです!」と認めてしまうような気恥ずかしさがあった。大好きなクセに「まぁまぁ面白いよね」というスタンスを作り、変にカッコつけてしまう。だが、思春期真っ只中のそんな自意識は、三橋や伊藤ちゃんや今井が持ち合わせているものなのだから、我々陰キャがハマるのは必然だったと思う。

そもそも三橋と伊藤は、転校デビューを華々しく飾ってしまっただけの元一般人。ケンカこそたまたま強かったが、根は普通の人だ。そういった表現はないが、今井も本物のヤンキーではなく、ただ憧れてやってるだけだろう。もちろん谷川もそんな感じだ。

対して、開久高校は本物のヤンキー。どちらかというと「CROWS」寄りの人たち。友達との楽しいお喋りや女の子との恋愛なんかより、青春時代の1番上にケンカを持って来てしまった人たちだ。
なので三橋たちは、開久に遭遇すると、「ゲッ」という顔をする。「こっちはヤンキーごっこしてるんだから、本物のヤツらはくんじゃねー」ということだろう。

敵役の開久がこのドラマにおいての生命線


そんなわけで、第3話で本格的に登場した開久高校の面々、特にトップの相良(磯村勇斗)と智司(鈴木伸之)は、本作において異質の存在でなければならない。三橋(賀来賢人)、伊藤(伊藤健太郎)、今井(太賀)、谷川(矢本悠馬)の一般性を持つヤンキーに対して、絶対的な恐怖で居続けなければならないのだ。原作よりもギャグシーン多めでありながら、しっかりとヤンキー物であり続けるための最後の砦、生命線とも言える。こいつらが崩壊したら真面目にヤンキーやるヤツらがいなくなってしまう。

そんな超大事な役に1人、相良を任された磯村勇斗はすごかった。強弱ハッキリしたアクションのキレもさることながら、ヘラヘラ嫌な笑みを浮かべるその表情は、完全に相良だった。眉毛と唇がそれぞれ別の生き物のように自由に動く様は、最高に気味が悪かった。殴ったあとにいちいちその余裕の表情を見せつける仕草も、腹立たしくて仕方ない。みんな大好きなカワイイカワイイ今井が、後ろから角材で殴られてボコボコにされるシーンは、視聴者にとって不快でしかない。磯村勇斗は、作中一の悪人である相良で居続けてくれた。

「ゲッ」とさせてくれた鈴木伸之


卑怯な相良とは違い、強さのみで相手に恐怖を与える智司。
演じた鈴木伸之もそんな智司だった。しっかりと「ゲッ」とさせてくれた。恐ろしい表情を無理に作らず、人を怯えさせる怖いセリフは決して言わない。奇妙な動きで相手を威嚇もしない。ただ鈴木伸之は、足を肩幅程度に広げてまっすぐ立っていた。胸を張りまくってその場にドンと立っていた。緊迫したシーンにそぐわない普通の表情でいることで、ケンカという修羅場が日常であることを表現していた。他のキャラが軽やかなアクションを見せる中、1人だけ大きく振りかぶった重い攻撃をする。どこまでも別世界の人でありつづけていた

そんな智司から逃げることで、三橋は覚悟の決まっていない中途半端なヤンキーだという立ち位置が明確になる。そして、仲間に被害が及びそうになったときにだけ本気になり、主人公らしい主人公になることができる。やっぱり智司は、原作よりもギャグシーン満載の「今日から俺は!!」に、ドラマ性を作るための生命線だ。

それにしても、緊迫した三橋と智司のタイマンシーン。
「俺は三橋貴志だ。俺よりえばったヤツはたたきつぶす」という原作屈指の三橋の名言の直後に、ムロツヨシ(椋木先生役)というギャグ専門みたいなキャラクターを送り込むのだから福田監督は根性が座っている。もう一度開久とやりあうフラグはバリバリに立っているのだが、そのときのラストをどう締めるのだろうか。
(沢野奈津夫)


【一覧】「今日から俺は!!」1〜10話 全レビュー
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