
「名探偵コナン」といえば、マンガ・アニメともに長く愛され続けている長寿作品のひとつである。
黒の組織によって小学生に姿を変えられてしまった高校生探偵・工藤新一が、江戸川コナン(以下、コナン)として次々と事件を解決していくことでおなじみのこの作品だが、ときにはコナンが犯人を追い詰めるために「盗聴」や「GPS追跡」など法律的にギリギリの行為を行っていることもある。
普段は犯人を追い詰める側のコナンだが、実はコナンも違法行為をしているのではないだろうか?
この疑問を解決するべく、今回はコナンの中でも特に法的に気になる行動をピックアップ。自身もマンガ好きという村田浩一弁護士に「名探偵コナンを日本の法律で裁くとどうなるのか?」をお聞きした。

日本の法律ではコナンの前例がない
――「名探偵コナン」では通常コナンが犯人を追い詰めていますが「意外とコナンも違法行為をしているのでは?」という点についてお聞きできればと思います。
私もいろいろと調べてみたんですが、そもそも今の日本の法律はコナンを想定していません。

――ですよね……。
日本の探偵は人探しなどの依頼が多く、コナンのように事件を捜査する私立探偵は存在しないんですね。
また(コナンの行動は)法律で前例がないものも多いので、ちょっと架空の議論になってしまうんです。
――では「現代の日本の法律はコナンを想定していない」という前提のもと、それでもコナンの行動を現代の法律にあてはめるとどうなるのかをお聞きできればと思います!
毛利小五郎に麻酔銃を打つのは罪ではないのか
――まず1つ目の疑問なんですが、毛利小五郎に何度も麻酔銃を打つのは犯罪ではないんでしょうか?
刑法204条の傷害罪ですね。生理機能、いわゆる人間が生きるための機能を害しているので犯罪です。
――薄々そんな気はしていましたが、けっこうガッツリ犯罪ですね。
そうですね。さらにここで気になるのは「麻酔の種類がなんなのか」です。
成分によっては、麻薬および向精神薬取締法にひっかかり、コナンだけでなく麻酔を作った阿笠博士も罪に問われるかもしれません。
――どういう成分だとダメなんでしょうか?
ベンゾジアゼピンなどですね。

――ちなみに「小五郎のフリをして自分の考えを喋る」ことは法的に問題ないんでしょうか?
これはいいんじゃないでしょうか。このケースで言うと、ウソの推理をして警察に迷惑がかかった場合は業務妨害になりますが、直ちに違法とは言えないです。

――なるほど、小五郎のフリもダメかなと思っていたのですが法律って奥が深いですね。2つ目の質問ですが、コナンが小五郎たちにくっついて捜査現場に勝手に忍び込むのは法的に問題ないんでしょうか?
業務妨害になるケースはあると思います。
ただ、これは「公務執行妨害と業務妨害の区別」という問題に関わってきますね。法律を勉強している人がけっこう好きなトピックです。

これは簡単にいうと「警察官は、(法律上では)業務妨害ではなく公務執行妨害しかされないんじゃないか」という問題です。話すとかなり長いんですけど……。
(村田先生がなんだか活き活きとしている……!)
まず業務妨害は「脅したり、騙したりして業務を邪魔する」ことで、公務執行妨害は「公務員に暴力をふるって邪魔する」ことです。

いろいろとあるんですけど、結論をいうと「コナンがやっていることは業務妨害かもしれないが、日本の法律ではそもそも警察官への業務妨害が認められにくい。かといってコナンは公務執行妨害というほどのこともしていないので、結局大丈夫なのではないか?」ということですね。
――コナンは法律の隙をついて現場で捜査をしていたんですね。
よっぽど制止を振り切って妨害するようなことがない限り、コナンは大丈夫だと思いますよ。
――捜査の手がかりも勝手にひろったりしているんですけど、これも問題ないんでしょうか?
これもありえるのは業務妨害の罪ですけど、捜査の手がかりを勝手にひろった場合はどうなるのか……、(事例の本を読みながら)うーん、前例がないですね。
――なるほど。日本の法律でコナンを裁くのは、法律から考えても事例から考えてもなかなか難しい作業なのがよくわかります……。
コナンが犯人を間違えたらどうなるのか
――続いてこれはシンプルな疑問なんですが、コナンってわりと大勢の前で「犯人はお前だ!」って言うんですけど、あれでもしコナンが犯人を間違えたらどうなるんでしょうか?
皆の前で「人殺しをしたのはお前だ」と言うってことですよね。不特定又は多数人が認識できる状態で人の社会的評価を害する事実を摘示すると法律的には「名誉棄損」になるので問題になります。さらに言うと特定少数人に摘示した場合であっても、不特定多数人に伝わる可能性があると、名誉棄損になることがあります。
――犯人に向かって「犯人はお前だ!」と言うのも問題になるんですか?
名誉棄損には例外があって、摘示した事実が公共の利害に係り、目的が専ら公益を図ることにあり、事実が真実であることの証明があったときは違法にはなりません。そのため、真犯人に「犯人はお前だ」と言った場合は名誉毀損が成立しないことがあります。

コナンの場合は重大犯罪の真相を解明する目的できちんと真犯人を当てているので違法でなくなるかもしれません。真犯人であることの根拠があるのかが重要になるので、議論の余地はありますね。

――「犯人はお前だ!」というときは、かなり証拠を集めて慎重に伝えた方がいいんですね。
そうですね。

スケボーは道路交通法にひっかからないのか
――では続いて、コナンのターボエンジン付きスケボー(めちゃくちゃ速く走る改造スケボー)についてお伺いできますか?
これはおもしろいところなんですが、この改造されたスケートボードは道路交通法の軽車両に当たります。

車両には、自動車・原動機付き自転車・軽車両という種類があるんですけど、このスケボーはその中の一番下の軽車両に入りますね。もちろん実際にはないので予想ですけど。
その場合、道路交通法にしたがうことになるんですが、アニメを見る限りだとコナンがけっこう速度オーバーをしているんじゃないかと思います。
――細い道を爆走したりしていますもんね。
そうですね。
それから、コナンが犯人を追いかけるためにスピードを出してまわりの歩行者がよけたりすることがあると思うんですけど、歩行者の邪魔にならないようにしないといけないのであれもダメです。

――たまにスケボーで2人乗りをしていることもあります。
そこも気になってかなり調べてみたんです。道路交通法には答えがなかったんですが、東京都の道路交通規則で「自転車以外の軽車両は、その乗車装置に応じた人員を超えて乗車させないこと」とされていたんですね。
――「1人乗りのターボ付きスケボーなら1人しか乗るな」ということですよね?
そうです。
――ということはつまり、阿笠博士が大きい2人乗りのスケボーを作ったら……。
大丈夫だと思います。
――よかったです! 阿笠博士なら作れると思います!
原動機がついたスケボーというのが今は走っていないので、あくまで空想の議論ですが。
――なるほど。でも道路交通法が予想外の乗りものにもかなり対応して作られていることがわかって感動しました!
■まいしろ
社会の荒波から逃げ回ってる意識低めのエンタメ系マーケターです。音楽の分析記事・エンタメ業界のことをよく書きます。
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