『おちょやん』第1週「うちは、かわいそやない」

第3回〈12月2日 (水) 放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

『おちょやん』3回 人間の本質を見つめる物語と名優たちの人間力でドラマを見せる心意気
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

生きるちから

「ほんま生きるってしんどいな そう思わへんけ?」
ハードボイルドな少女・千代(毎田暖乃)・9歳。

【前話レビュー】2週間描かれる千代の子供時代 子役豊作の近年、神回誕生に期待

あっという間に出ていった栗子(宮澤エマ)を探しにテルヲ(トータス松本)も出ていって、10日間も戻ってこない。だが三味線を置いていったので、千代は自分を困らせるためであろうと考える。


案の定、栗子はテルヲと戻って来て、隣の小林勝次の父・辰夫(烏川耕一)に妙におしとやかに挨拶。千代の話を聞いて説教してやると息巻いていた辰夫はすっかり栗子の色香に丸め込まれてしまう。

テルヲは栗子にうまいものを食わせるために、千代を連れて流星丸(鶏)を売りに行く。流星丸は、食用ではなく、鑑賞用で、大きなガラス工場を経営している峰岸社長(佐川満男)の開いた観賞用鶏の品評会に出される。が、家ではあんなに鳴いていたのに、なぜか鳴かない。

テルヲは千代に「コケコッコー」と鳴けと無茶振りする。しぶしぶ鳴く千代。のちに上方喜劇の俳優になり、映画やドラマの名脇役となることが紹介されている千代の才能の片鱗がここで見える。声の個性。声量の豊かさ。そして土壇場の度胸。

死んだお母ちゃんが助けてくれた

開き直った千代は「この子の鳴き声は生きるための鳴き声やさけえ」と社長に強気に出る。

「おっちゃんの目は曇りガラスやな」

千代の大切なガラス玉に見覚えがあった社長。
亡くなった母・サエ(三戸なつめ)がこの工場で買っていったのだ。この工場で働いていた働き者のサエに免じて、これもなんかの縁やと、社長は流星丸を買う。

意味深に出てきた流星丸、これで退場か……。たとえそうだとしても、「生きるために鳴く」という生き方を提示したことで十分な役割を果たしている。

食用として生きるおおかたの鶏とは違う、鳴いて生きるという道もある。これもまた、芸の道に繋がっていると言えるだろう。千代と流星丸は同じカテゴリー(ひとに見られてナンボの世界で生きる)の仲間である。

『おちょやん』3回 人間の本質を見つめる物語と名優たちの人間力でドラマを見せる心意気
写真提供/NHK

いきなり不穏。弟のピンチ

流星丸を売って得たお金で、勝次(原知輝)にもおはぎのお返しをしようと考える千代。ただの図々しい子ではなかった。ちゃんと義理がたい子でホッとした。

テルヲも、亡くなったサエを忘れたわけではなかった。
サエを忘れたくないからこそ、サエとはタイプの違う栗子を後妻に迎えることにした本音を漏らす。

テルヲの言ってることはもっともでもあるし、詭弁のような気もするけれど、これが生きるということなのだ。<どんな今日も愛したいのにな>と主題歌も歌っている。どんなことがあっても明日はやって来る。だからこそ出会った明日を愛して生きていくしかない。

第1話がメタ手法ではじまったので、ギミックで見せるバラエティ感覚のドラマになるかと思ったら、ギミックに頼らず、人間の機微にじわじわ迫っていく。

大阪制作(BK)の朝ドラの常連の佐川満男(峰岸社長役)や、小林家で千代がしゃべっているとき、ひとり背を向けひたすら鍋を煮ているおばあちゃん・ ウメ役の正司花江など、知る人ぞ知る名優たちが脇を固め、人間の本質を見つめる物語と彼らの人間力でドラマを見せる心意気は、『わろてんか』でモデルになった吉本新喜劇と関西で双璧を成す松竹新喜劇的。

さらに、ひたすら美しく描かれる竹やぶで月あかりに照らされるサエと千代の思い出に奏でられるサキタハヂメののこぎり楽器。のこぎりの刃を鳴らしているのに、風の声のような口笛のような、絞り出すような哀切の音がドラマを上等なものにする。『妖怪人間ベム』や『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』などの音楽も彼によるものだ。

『おちょやん』3回 人間の本質を見つめる物語と名優たちの人間力でドラマを見せる心意気
写真提供/NHK

ただし、ほっこりだけでは終わらない。父と娘の喧嘩しながら仲の良い様子を描いて、サエの墓参りに走っていく夕暮れで終わるかと見せて――「お腹減った」ばかり言っている弟・ヨシヲ(荒田陽向)にピンチが……。


栗子がお腹をさすっていたのも気にかかる。

いまのところ、前作『エール』の派手な要素盛り盛りの作りと比べたら、やや地味に感じるけれど、こういうのが好きな人は確実にいるし、こういう物語の世界も残していくべきだ。といってもまだ3回。結論には時期尚早。ゆっくり楽しみたい。

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Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami

■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田 凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■トータス松本(竹井テルヲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮澤エマ(竹井栗子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■三戸なつめ(竹井サエ役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

【放送予定】
2020年11月30日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥

主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
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