『おちょやん』第1週「うちは、かわいそやない」
第1回〈11月30日 (月) 放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉
2カ月遅れのスタート
朝ドラこと連続テレビ小説『おちょやん』が2カ月遅れではじまった。クランクインは2020年4月2日だったが、コロナ禍で撮影が一旦中断。前作『エール』も撮影中断して、放送が2カ月ずれ込んだため、『おちょやん』もそのまま2カ月スライドして11月30日スタートに。【第1週あらすじ】貧しい農家に生まれた千代 父が連れて来た新しい母親は何もしない人で…
だがそんなアクシデントなんて吹っ飛ばすような明るい幕開けだった。第1話放送後、SNSでは新しい朝ドラを楽しんだ声と並んで、「メタ」というワードが飛び交った。
「メタ」フィクションってなに?
冒頭、登場人物がずらりと並び、芝居の口上の体(てい)で、これから、これこれこういうドラマがはじまります、と説明しつつ、全国のお茶の間に向かって挨拶した。これが「メタ」だと話題になった。物語のなかに現実感を取り込むことによって、物語を本当だと思い込み過ぎないようにさせること。簡単に言えば「これはお芝居です」とあらかじめ断っておくことである。それが逆に作品に親しみを感じさせることになる。
主人公・花を演じる杉咲花を真ん中に、幼少時代を演じる子役・毎田暖乃、お父さん・武井テルヲ役のトータス松本、のちの夫となる天海一平役の成田凌、芝居茶屋の女将・岡田シズ役・篠原涼子、語りと黒衣(くろご)役の桂吉弥が並んで挨拶。
このように俳優がはじまる前に挨拶することはままあるが、千代が物語の概要を話すと、トータス松本が「全部言うたらあかん」とネタバレチェック、一平の解説を誰もツッコんでない、シズの話を長いと次々ツッコむ。極めつけは、子役の毎田が「最初の2週間だけやけど」と出る時期をあらかじめ明言。これが「メタ(フィクション)」として大ウケした。
「メタ」という手法は昔からあるものだが、近年テレビドラマでおなじみになったのは、『勇者ヨシヒコ』シリーズや『銀魂』などの福田雄一が盛んに使いはじめたことによる。現実離れした奇妙な世界を、明らかにおかしいでしょ、この世界、と登場人物と視聴者が共有することを楽しむようになった。
低予算でファンタジックな世界が完璧に構築できないうえ、ゲームや漫画を生身の人間が演じるときにどうしても生じる違和感を、誤魔化さずに違和感を含めて楽しむことで前向きに回避したのだ。
『エール』の119回、物語の終わりに、俳優の窪田正孝と二階堂ふみが役でなく俳優として挨拶したことも「メタ」手法のひとつ。
「メタ」はシェイクスピアの時代(戦国時代と同じ頃)から使われていた手法で、例えば、2016年に亡くなった偉大なる演出家・蜷川幸雄がかつて、シェイクスピア劇を『花より男子』などで注目されていた小栗旬をはじめとする若い俳優を主役に上演するにあたってよく使っていた。
小栗などを目当てに、初めてシェイクスピアを観る若い世代や演劇に馴染みのなかった人たちにも演劇に入り込みやすくするように、まずは俳優が稽古場で稽古していて、合図で着替えて、これから芝居がはじまりますと挨拶するところからはじめるのである。シェイクスピアって難しそう。昔の外国の話はわかりにくそう……という心配をまず取り除いたのだ。
『おちょやん』がこの「メタ」手法ではじまったことは、主人公がのちに女優になり、上方演劇の世界を描くドラマとしてふさわしい。トータス松本が次々ツッコみ、“黒衣”(衣装替えや装置の転換や小道具の持ち運びなどを助ける裏方。黒子ともいうが黒衣が正しい)が、舞台上に“おってもおらん”と思うというお芝居を観るルールも紹介されて、何人もの黒衣たちが千代の前をぐるぐる駆け回ってどんなに視界を邪魔しても、黒い人たちは「おらん」ということを示し、これで全国のお茶の間のみんなが同じ認識をもつというスタートラインに立ったのだ。
ちなみに、2010年度前期朝ドラ『ゲゲゲの女房』では妖怪が「見えんけどおる」だったが、黒衣は「おっても(見えるけど)おらん」なのである。
貧しい家、酒浸りの父
こうして、現実なの? ドラマなの!? とドタバタな感じではじまりながら、秦基博による主題歌「泣き笑いのエピソード」の爽やかかつ染みる歌声と、キャラクターがかわいいカラフルなアニメーションのオープニング映像によって、物語の世界に自然に誘われる。そこは大正5年、大阪南河内の小さな村。9歳になる千代(毎田暖乃)は、5歳で母サエ(三戸なつめ)を亡くし、父・テルヲ(トータス松本)と弟ヨシヲ(荒田陽向)と養鶏場を営みながら暮らしている。
「シラミ、シラミ」と近隣の子にからかわれたりもするけれど、「うちは、かわいそうやない」と自分に言い聞かせ、たくましく生きている千代。言葉遣いもかなり荒いが、形見のガラス玉を月と重ねながら亡くなった母のことを竹林で思い出すときは、夢見る乙女の顔になる。
野性味と繊細さの混ぜ具合が巧み。脚本は『半沢直樹』(第一シリーズ)や『家政婦のミタゾノ』の八津弘幸、演出は『TAROの塔』『経世済民の男・小林一三』『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』などの梛川善郎。のこぎりを演奏するサキタハヂメの音楽も夢見るムードを高める。
【関連記事】『エール』120話 窪田正孝が最後まで守り抜いた『エール』の品格 グランドフィナーレは出演者による古関裕而メロディ
【関連記事】『エール』119話 小山田(志村けん)の最後の手紙で改めて伝えた作曲家・古山裕一の真価
【関連記事】『エール』118話 共に駆け抜けた池田を亡くした裕一に世界の声は聞こえなくなった……
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami
■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田 凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■トータス松本(竹井テルヲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮澤エマ(竹井栗子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■三戸なつめ(竹井サエ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■烏川耕一(小林辰夫役)プロフィール・出演作品・ニュース
■正司花江(小林ウメ役)プロフィール・出演作品・ニュース
※次回第2回のレビューを更新しましたら、以下のツイッターでお知らせします。
お見逃しのないよう、ぜひフォローしてくださいね。
【エキレビ!】https://twitter.com/Excite_Review
【エキサイトニュース】https://twitter.com/ExciteJapan
番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』【放送予定】
2020年11月30日(月)~
<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」