『おちょやん』第1週「うちは、かわいそやない」

第2回〈12月1日 (火) 放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

『おちょやん』2週間描かれる千代の子供時代 子役豊作の近年、神回誕生に期待
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

新しいお母ちゃん

どんなに貧しい暮らしをしていても、「明日もきっと晴れやな」と月に向かって前向きに考える竹井千代(毎田暖乃)・9歳。ちょうど、11月30日は満月で、ドラマの満月と重なって見えた。

【前話レビュー】2カ月遅れのスタートというアクシデントを吹っ飛ばす、メタ演出による明るい幕開け

第1話の終わりに、父・テルヲ(トータス松本)が新しいお母ちゃん・栗子(宮澤エマ)を連れて来た。
通常のドラマだったら、亡くなったお母さん・サエ(三戸なつめ)が忘れられないと嘆き、父と娘の確執が生まれるのがテンプレートの展開。ところが千代の反応は違っていた。

「でかした! ようやった!」

千代は新しい母親の到来に大喜び。黒衣(桂吉弥)も「なんや、嬉しいんかい」とびっくりポン(なつかしい『あさが来た』ネタ使ってみました))。

「これからはあの人のことをお母ちゃんと呼ぶ。堪忍や」とめちゃくちゃ現実的な千代。
なぜなら、新しい母に家事をやってもらって、学校に行けるようになるから。

勇んで学校に行くことにした千代だったが、思惑は大外れ。栗子は色っぽく三味線を弾く以外、なにもしない女だった。テルヲに「一生楽さしたる」と言われてやって来たので、彼女のほうこそ、お風呂もない貧乏な家に騙された感がある様子。

結局、食い扶持が増えて、ますます貧乏になるうえ、栗子の分まで食事の支度に洗濯もしなくてはならなくなる千代は散々……。

「シラミはもうわいとらんさけい」
学校で自己紹介するとき、千代は「シラミはもうわいとらんさけい」と言う。
この間まで「シラミシラミ」とからかわれていたからで、この自虐的なセリフに生徒たちは無表情。見ているほうも笑えないし、どう受け止めていいのかわからへん……。

千代は字が読めないことも笑われる。スルーもいやだし笑われるのもいや。見ているほうはちょっといたたまれないが、千代は気にしない。とてもたくましい。


『おちょやん』2週間描かれる千代の子供時代 子役豊作の近年、神回誕生に期待
写真提供/NHK

お弁当をかけて隣の席の小林勝次(原知輝)と徒競走勝負に出る。
……が、ボロ負け。
開き直って喧嘩して、玉井先生(木内義一)に注意されると、嘘泣きして、まんまとおはぎをゲット。サブタイトルが「うちは、かわいそうやない」だけあって、千代は必要以上に自分を卑下しないし、物事を自分に都合いいように前向きに転換していくバイタリティー旺盛な人物だ。

字が読めないわりには、弁が立つし、地頭がいいのだろう。でもせっかく「お腹減った」ばかり言っている弟のためにもらってきたおはぎを、栗子に食べられてしまう。
無念……。

2週間の子供時代はどうなるか

たくましくて、頭がキレて、なんでもうまくいく……わけではなく、たくましさや頭のキレをもちながら、そのポテンシャルをまだ生かしきれず、いろいろうまくいかない。2話で千代は2回も転んでいた。鶏小屋で1回、道端(ここは映さず声のみ)で1回。転んでも転んでもへこたれず、立ち上がっていく姿が好ましく映る。七転び八起き。

1話の前口上にもあったように、これから「2週間」は主人公・千代の子供時代が描かれる。


朝ドラで子供時代は本番前みたいなもので、それがたまに意外に跳ねるときもあるし、退屈なまま過ぎていくこともある。『おちょやん』はどうだろう。まだ様子見という印象だ。

『おちょやん』2週間描かれる千代の子供時代 子役豊作の近年、神回誕生に期待
写真提供/NHK

1話の視聴率は、18.8%(関東地区 ビデオリサーチ調べ)で、ちょっとおとなしい。

もしこれを読んでいる朝ドラビギナーの方がいるとしたら、子供時代で脱落しないで、と助言する。最近は、子役豊作の時代で、子供時代に神回があるということも多々ある(例:『半分、青い。
』『なつぞら』『スカーレット』『エール』など)。

仕掛けのディテールはしっかりしている。栗子が三味線弾きであることは、千代がのちに進んでいく大衆芸能の道を思わせる。三味の音色が千代のゆく道を暗示しているように聞こえた。

千代が食事の支度をテキパキするところや、暗く貧しい家のなか、登場人物の顔には明るい照明を当てるなどして、画面が暗くて見づらいことがないように工夫していることは、好感度高い。また、鶏が鳴くとき、白い息を吐いているのも画的に面白い。

なんといっても、おはぎのあんこの処理。最近、食べ物の跡を口元につける画をよくドラマで見る。たいてい、無垢な可愛さ、あどけなさを表す記号として用いられることがいささか疑問だったが、今回、栗子がおはぎをこっそり食べたことが口元のあんこでわかる描写は、ベタながら、憎らしく、胸のすく思いがした。白いクリームは善意、黒いあんこは悪意の印か。いずれにしても口元にクリームのベタな無垢さはもうお腹いっぱい。

【第1週あらすじ】貧しい農家に生まれた千代 父が連れて来た新しい母親は何もしない人で…
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Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami

■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田 凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■トータス松本(竹井テルヲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮澤エマ(竹井栗子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■三戸なつめ(竹井サエ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■木内義一(玉井先生役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

【放送予定】
2020年11月30日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥

主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」