『エール』最終週「エール」 120回〈11月27日(金) 放送 作・演出:吉田照幸〉

窪田正孝が最後まで守り抜いた『エール』の品格 グランドフィナーレは出演者による古関裕而メロディ
イラスト/おうか

※本文にネタバレを含みます

出演者による古関裕而メロディ

119回で、ドラマパートは終了。120回は特別編。出演者たちが、主人公・裕一のモデルになった古関裕而のヒット曲を歌い上げた。


朝ドラでは『てるてる家族』(03年)がドラマパートのなかに歌い踊るショー形式を取り入れていた意欲作で、最終回をミュージカルのグランドフィナーレのようにして盛り上げた。『エール』のようにドラマと切り離し、コンサートだけ最後に独立させることは異例。

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裕一を演じた窪田正孝が司会と指揮を行い、出演俳優たちが美声を披露した。歌唱指導した混声四部合唱のBREEZEのメンバーも参加。歌わなかったが、吟役の松井玲奈と浩二役の佐久本宝も応援で登場した。

以下、楽曲。


「とんがり帽子」
作詞:菊田一夫
歌:御手洗役・古川雄大、藤丸役・井上希美、夏目千鶴子役・小南満佑子、子役たち 

「モスラの歌」(映画『モスラ』劇中歌)
作詞:由起こうじ
歌:井上希美、小南満佑子

「福島行進曲」
作詞:野村俊夫
歌:古川雄大

「船頭可愛や」
作詞:高橋掬太郎 
歌:久志役・山崎育三郎
ギター演奏:鉄男役・中村蒼

「フランチェスカの鐘」
作詞:菊田一夫
歌:藤堂昌子役・堀内敬子

「イヨマンテの夜」
作詞:加賀大介
歌:岩城役・吉原光夫

「高原列車は行く」
作詞:丘灯至夫
歌:光子役・薬師丸ひろ子

「栄冠は君に輝く」
作詞:加賀大介
歌:藤堂役・森山直太朗、山崎育三郎

「長崎の鐘」
作詞:サトウハチロー
歌:音役・二階堂ふみ

楽曲とドラマを復習

「とんがり帽子」
19週。戦後、裕一(窪田正孝)が自暴自棄になっていたとき、劇作家・池田(北村有起哉)に誘われてラジオドラマ『鐘の鳴る丘』の曲を作り、復活した。

「モスラの歌」
ドラマでは登場しなかった。史実では、東宝の怪獣映画『モスラ』で双子のデュオ、ザ・ピーナッツが歌って人気になった。古関裕而は舞台のみならず映画の曲もたくさん作った。

「福島行進曲」
9週。東京でレコード会社と契約したもののなかなか芽が出なかった裕一(窪田正孝)が、親友・鉄男(中村蒼)の作詞で、故郷を想う曲を出せた。
鉄男の切ない恋の思い出もこもっている。

「船頭可愛や」
10週。なかなか曲が当たらない裕一が最後のチャンスと脅されてなんとかヒットを出せた曲。ディレクター廿日市(古田新太)が見つけてきて歌手にした藤丸(井上希美)が歌った。ほかに曲を気に入ったオペラ歌手・双浦環(柴咲コウ)が歌うことでヒットした。史実では、環のモデルの三浦環の歌ったものは売れなかった。


「フランチェスカの鐘」
劇中では登場せず。古関の自伝では、タイトルに「鐘」のついた曲が多いと振り返っているところで名前があがっている。

窪田正孝が最後まで守り抜いた『エール』の品格 グランドフィナーレは出演者による古関裕而メロディ
写真提供/NHK

「イヨマンテの夜」
23週。駆け足で紹介された、戦後、池田と裕一コンビでたくさんの作品を生んだなかのひとつ。「イヨマンテ」とはアイヌの言葉で「熊祭り」という意味。力強い民族音楽的な曲で、「のど自慢」で多く歌われたという。


「高原列車は行く」
22週。裕一が自由に好きな道を歩むなか、古山家を任され苦労してきた弟・浩二(佐久本宝)。なかなか結婚できなかった彼が、素敵なお嫁さん(志田未来)をもらったエピソードを彩った。役場から裕一が依頼されて作った曲。

「栄冠は君に輝く」
20週。甲子園の歌。
戦中、福島に戻って慰問していた久志(山崎育三郎)だったが、戦後は戦時歌謡を歌ったことを気に病み、歌えなくなっていた。それを救いたい裕一が歌ってほしいと頼む。甲子園球場で歌い復活する久志と裕一の友情が泣けた。

「長崎の鐘」
19週。戦争に加担したと悩む裕一が、長崎の医師・永田(吉岡秀隆)と出会い、戦後、どん底から懸命に生きていく人たちを応援する歌を作ろうと決意する。

子供たちも一緒に歌うファミリー路線ではじまって、福島関連の曲を集め、今年、開催されなかった甲子園の曲から、再生の祈りを込めた「長崎の鐘」で締めた。
福島への想いと、甲子園球児への想い、様々な苦難を味わう日本中の人への思いやりが感じられる曲構成だった。

岩城の声量が圧巻

稀代のヒットメーカーをモデルにしたドラマということで、劇中、歌が歌われる場面が何度もあり、その都度、胸を打った。歌はいつも人を癒し、励まし、再生の道を示してくれる。

そういうドラマだったため、歌える出演者がたくさんいた。単に歌手を起用するのではなく、歌も芝居もできるミュージカル俳優の起用が多かった。

120回のコンサートは、ミュージカル俳優ばかり。古川雄大、井上希美、小南満佑子、山崎育三郎、堀内敬子、吉原光夫……みな、ミュージカルの大舞台を踏んできている。

劇中で歌わなかった堀内敬子と吉原光夫は、ともに劇団四季出身で、その歌声には定評がある。今回、ようやく歌う機会があり、実力のほどを見せつけた。

堀内のふくよかでツヤのある包み込むような歌声の素晴らしさ。そして、吉原の圧倒的な声量。これぞ全身楽器という感じで、声の振動がテレビ画面からも伝わってきた。吉原の声は劇場だともっとすごく体に響くので、機会があったらぜひ彼のミュージカルを観てほしい。

NHKホールや、演奏者の方々も、コロナで大変だっただろうから、こういった企画によって活躍の機会があってよかったのではないだろうか。照明や美術やカメラなどのスタッフの方々にもこの15分のためにお疲れさまでした、ありがとうと言いたい。

歌はとにかく素晴らしかったが、プロのミュージカル俳優たちが水を得た魚のように力を発揮する活躍の場で、ギター演奏という明らかにアウェーの中村蒼に「大将カッコよかった」と声をかける窪田裕一の優しさが最高の見どころだった。窪田正孝は『エール』というドラマの品格を最後まで守った。

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Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami

■窪田正孝(古山裕一役)プロフィール・出演作品・ニュース
■二階堂ふみ(古山音役)プロフィール・出演作品・ニュース
■津田健次郎(語り)プロフィール・出演作品・ニュース


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窪田正孝が最後まで守り抜いた『エール』の品格 グランドフィナーレは出演者による古関裕而メロディ
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 

【放送予定】
2020年3月30日(月)~11月28日(土)

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

原作・原案:林宏司
脚本・作:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
主演: 窪田正孝 二階堂ふみ
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」

制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和