『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』1話 女は強いし、母も強い。私達は生きるために恋をする
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

情報量が多かった『ウチカレ』1話

『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(以下ウチカレ)(日本テレビ系 毎週水曜よる10時〜)は港区全面協力ということで、同じ港区に会社があるエキサイトも応援していきたいドラマ。

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主人公で作家の水無瀬碧(菅野美穂)空(浜辺美波)の母子は東京タワーが見える、港区のタワマン「エンゼルフォレストタワー」に住んでいる。もともと実家が南麻布の写真店で、そこを売った父母がスイスに行ってしまい、残された碧は自力で小説をヒットさせてタワマンを買った(父母は娘に一銭も渡していないのであろうか)。


だがしかし、碧の作家としての人気が陰ってきていた。連載が軒並み打ち切りになって、生まれ育ったこの街を出なくてはならない危機に……。

「情報が多過ぎて処理できない」という碧のセリフがあったけれど、ドラマ自体の情報量が多かった。初回にこんなに詰め込まれると追いつけない。恋愛小説の大家である碧の恋愛論――「恋愛って刀みたいなもの」からはじまって、いまの若い子は恋愛をしない、空も二十歳になっても恋愛の気配がなく、心配な気持ち。高級おしゃれマンションと並んで、古い情緒ある商店街も立ち並んでいるという南麻布の紹介。

散英社の雑誌編集長・小西(有田哲平)と新担当・橘漱石(川上洋平)がタワマンに訪ねてきて、意欲的だったミステリー連載は打ち切りで、恋愛小説をもう一度書いてはどうかという、このへんまでセリフが、新幹線の車窓の風景のようにビュンビュン流れていく。

さらに、娘の空の大学生活。ウェイ系の私立大学のなかでひとり陰キャの空は浮いている。でもメガネをはずしたら可愛い等々。大学の人気者・入野光(岡田健史)も出てきた。焼き肉、高級ブランドファッション……と次々出てくる固有名詞。
これもドラマ全盛期の手法である。

90年代から活躍しているベテランの頭の回転の速さに、いまのドラマがいかにのんびりしているか思い知らされる。昔の漫才もこんな感じで速かった。

ドラマの冒頭で、「恋愛って刀を持つことだと思うんです」「人をどこまで切っていいかって恋愛で学ぶの」などと鋭いセリフを碧が言って、取材に来たライターを感心させていたけれど、ドラマにもかつては、速さと強さの時代があったのだ。

女が可愛い言葉を使うと誰が決めたのか

さらに、アイデアがめいっぱい詰まっていて、あんこたっぷりのたい焼きやずしりと重い老舗の羊羹のようにお腹に溜まる。この『ウチカレ』は、昔ながらの、速さと強度と重量まであるドラマである。

昨今のドラマは軒並み、ゆるふわ――ふんわりやさしくわかりやすい世界に切り替わっている。そこへこの速度と強度と重量で勝負を挑んできたことがすごい。令和は、この速度と強度と重量で勝ち抜いてきた人達の作った世界の成れの果てでため息つきながら生きていて、人の話を受け入れて、飲み込んで、穏やかに共生していく時代であって、切り合うなんてことありえないはずなのだが、やさしい生き方が必ずしもいいわけでもなく、恋は切り合いというラストサムライによって再び、闘おうという意欲を人々が持つ可能性もあるかもしれない。

碧は勝負の世界に身を置いてきて、自己愛とタワマンのように高いプライドで肥大し、離婚も経験している。とはいえ、なにかと頼れる幼馴染のゴンちゃん(沢村一樹)がいる。さらに、彼女の小説のファンであるイケメン整体師・渉周一(東啓介)が現れ、この整体師を巡って、娘・空との切り合いがはじまるわけだが、こうやって見ていると、恋愛を切り合いに例えるくらいだけあって、女が強いのである。言葉遣いも「〜〜だ」とか「〜〜ぞ」「〜〜か」「〜〜な」とか、いわゆる女子言葉をほとんど使わない。
だからすこしきつく聞こえるときもあるのだが、それこそジェンダーフリー。女が可愛い言葉を使うと誰が決めたのか。

「私達は世界を生き抜く相棒だ」
碧が意地になってタワマンから引っ越さない理由は、タワマンから見える“象印”が守護神だから。幼い空は象印を見ると泣き止んだ。母と喧嘩した空だったが、ゴンちゃんから象印の話を聞いて心が動く。女は強いし、母も強い。私達は生きるために恋をする。

作家の書きたいという思いの感じられないドラマよりは、これが書きたい! という強い思いのドラマのほうが見応えがある。母ひとり子ひとりでがむしゃらに生きてきたふたりの愛の物語は刺さるところには刺さると思う。広く浅くよりも、誰かに強く刺さる物語のほうが幸福だ。

娘の空はオタクらしいが、第1話では彼女のオタク度はまださほど描かれていない(コスプレしているらしいことはわかる)。2話は、空のオタク部分にフォーカスが当たりそう。
オタク描写にどれくらいリアリティーと、なにより愛があるかが勝負かと思う。

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●第2話あらすじ
同じ相手とは知らず、整体師の渉(東啓介)を好きになってしまった碧(菅野美穂)と空(浜辺美波)。久々の恋する気持ちに浮かれる碧は、新作の恋愛小説に役立てるという名目のもと、気合いを入れて整体院へ。一方、出版社では「40代の女性が整体師に恋する」という碧の陳腐な企画を聞いた編集長・小西(有田哲平)が首をかしげていた。そんな中、担当の漱石(川上洋平)は人知れず碧のことを気にかけているのだが……。

大学では、空がゼミ中に落書きしたイラストを見た光(岡田健史)が、“大事な話”があると空を呼び止める。前回の飲み会以来気まずい関係の光に身構える空だが、喫茶店に空を誘い出した光はまさかのカミングアウト! なんと、自分は大学デビューで人気者のブランディングに成功した、隠れ二次元オタクだと打ち明ける!! さらに光は、ある突拍子もない提案を空に持ちかける……!

家に帰った空はさっそく興奮気味に碧に報告。しかしひょんなことから話がこじれ、言い合いに発展してしまう! お互いを思いつつ、母と娘は素直になれず……。頭を冷やそうと家を飛び出した空は、立ち寄ったカフェで偶然渉に再会する……。なぜか自然な流れで、動物園デートの約束を取り付けることに成功する空。
そして同じ時、空を探しに来た碧は、カフェの外から親しげに話す空と渉のツーショットを見かけ、衝撃を受けていた……!

その夜――。碧はおだやのゴンちゃん(沢村一樹)と俊一郎(中村雅俊)のもとへ。動き出した空の不器用な恋に、碧はある意外な心配をしていた……。

――番組サイトより


番組情報

日本テレビ系
『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』
毎週水曜よる10時〜

出演:菅野美穂 浜辺美波
岡田健二 福原遥 東啓介
中村雅俊 沢村一樹
有田哲平 川上洋平

番組サイト:https://www.ntv.co.jp/uchikare/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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