『おちょやん』第6週「楽しい冒険つづけよう!」
第30回〈1月15日 (金) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

千代、撮影所へ
せっかく入った山村千鳥一座が解散になったため、座長の千鳥(若村麻由美)に紹介されて、鶴亀撮影所にやって来た千代(杉咲花)。それまではどんなに頼んでも守衛(渋谷天外)に拒まれて中に入れてもらえなかったが、今回は、受付に名前があって、すんなり入れた。このカタルシスのために、それまで何度も何度も入れない、守衛との攻防描写を重ねていたことは間違いない。【前話レビュー】「撮影所は食うか食われるかの戦場や」いよいよ始まった千代の女優人生
迎えに来てもらった助監督・小暮(若葉竜也)に「女優の竹井千代さんですか」と聞かれ、「女優の」という肩書がついていることが嬉しくてならない千代。初めて見た撮影所の中の撮影風景に興奮を覚え、絶対ここに入ると決意を新たにする。
「食うか食われるかの戦場や」
千鳥が知り合いだと言って紹介してくれた所長・カタキンこと方金平八(六角精児)は千鳥のことを「チドリン」と呼んでいた。所長の初登場は裸。しかもだるだる。おじさんの下ネタみたいなことを、「ガッデム」が口癖のハリウッド帰りの監督・ジョージ本田(川島潤哉)と一緒に言って笑っている。その本田に「バンブー・ベロニカ」と芸名をつけられかかった千代だったが、危うく回避。
面接は軽く合格。だが、あの程度では一生大部屋だとふたりが言っていることを千代は知らない。
「撮影所は食うか食われるかの戦場や」と、カフェー・キネマの洋子(阿部純子)は心配顔。洋子は仕事があまりないとはいえ、女優だからその厳しさを知っている。

いまの俳優は、芸能事務所に所属することが多いが、かつては、撮影所や映画会社に所属していたのである。いまでも、京都の撮影所などにはそこ所属の俳優がいる。
映画や舞台の世界には、主役ではないけれど、脇をしっかり固める役者が存在していて、その人達がいるからこそ成り立っている。主役だって脇役のおかげでよく見えることがある。千代のモデルの浪花千栄子もそのひとり。名脇役が主人公のドラマ『バイプレイヤーズ』が人気の昨今、脇役の仕事を描く『おちょやん』は時代のニーズに即していると言えるだろう。
いきなり女中役に。そしてアドリブをかます
千代がいざ、大部屋に入るとーー大部屋女優はみんないけず。このいけずは千鳥のいやがらせの比ではない。まさに洋子の言うように「戦場」の気配がぷんぷん。あちこちで火があがっている。

千代は「このすかたん!」と言って部屋を出る。いまのところはへこたれてない様子。
そしてなんといっても、千代には運がある。エキストラの女中が急に腹痛になったため、千代が抜擢された。代役運、三度目。天海一座、山村千鳥一座、そして映画。
三度目の代役抜擢だから根性もすわっている。千代は、道を歩くだけという役割に物足りなさを感じ、途中でまんじゅうを買う動きを入れてみる。ところが、そうすることでカメラと主演俳優の間を塞ぐことになってしまい、監督に怒られ、即、降ろされる。
「なんで〜」と自分のしたことに気づけない千代。
ハリウッドに住んでいただけで監督になったジョージ本田だからセンスはなさそう。当然、千代の演技論は理解できない。そもそも、舞台と映画は勝手が違う。
舞台は、舞台にあがれば「俳優のもの」と言われ、例えばアドリブをやって客に受けたら勝ちなところがあるが、映画は「監督のもの」。勝手なアドリブはご法度。すべて監督に従わなくてはいけない。その違いを千代はわかっていなかった。とはいえ、邪魔しない範囲でなにかやって爪痕を残すのも仕事。主演の前に立ってしまったからいけないだけで、後ろでちょこっとやる分にはいいわけだ。
それにしても、自分なりに役を膨らませていた千代。いつの間にそんな感性を育んだのだろうか。『正チャンの冒険』の公演中に学んだとしか思えないが。本来、8年間、芝居茶屋につとめ、芝居に親しんでいたから、俳優がどういうふうに演技をしているかも知らず知らずに学んでいたのだろうと想像できるが、それにしては、天海一座のときも、『正チャンの冒険』のときも、そういうところは全然なかった。やっぱり『正チャン』で主演に抜擢されて千秋楽までやっていく間に急速に育んだものと思っておこう。
千代のこの俳優としての優れた感性が生きるか。
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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■映美くらら(藪内清子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村亜矢子(シゲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若村麻由美(山村千鳥役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天外(守衛・守屋役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若葉竜也(木暮真治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■川島潤哉(ジョージ本田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■六角精児(片金平八役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami