
オタク喜ぶ『デンジャー・ゾーン』
更迭されたドローン操縦士がロボット上司に連れられて、近未来の紛争地帯で地獄めぐりにチャレンジ! 『デンジャー・ゾーン』はストーリーも、そしてオタク大喜びのディテールにも見所がギラリと光る一本だ。【関連記事】「大きくなったらアメリカ人になりたい」配信中毒者の願いが暴走「激突! スクールバス・レース」

クビになったドローン操縦士とロボット上司が核を追う!
舞台は2036年のウクライナ。現地では南下を目指すロシア軍に支援されたヴィクトル・コバル将軍率いる親ロシア派民兵と、ウクライナ軍との紛争が激化。ロシアを牽制するため米軍は無人機や「ガンプ」と呼ばれる人型のロボット兵器を装備した海兵隊を平和維持部隊として投入。主人公ハープ中尉はドローン操縦士。ウクライナから遠く離れたネバダの空軍基地でドローンを操縦し、地上部隊の支援に当たっていた。その日もハープは窮地に陥っていた海兵隊の1小隊を救出するべくドローンを飛ばし、敵の支援車両を発見する。支援車両の空爆を要請するハープだったが、付近で負傷した海兵隊員を巻き込む恐れがあったため要請は却下。しかしハープは独断で対地ミサイルを発射し、結果として戦闘には勝利したものの海兵隊員2名の死亡者を出してしまう。


命令違反で更迭されたハープは前線へと送り込まれ、ロボット部隊に配置される。上官となったリオ大尉は一見すると普通の人間だが、実は米軍初のアンドロイド兵だった。リオ大尉の任務は、ウクライナ領内に隠された核ミサイル発射施設を奪取しようとするコバル将軍の追跡。自分と2人でコバル将軍を追い詰めようとするリオにハープは困惑するが、容赦なく放り込まれた最前線で激しい戦闘に巻き込まれる。
実のところ『デンジャー・ゾーン』は爆発や銃撃戦が主体というわけではなく、案外ストーリー重視の一本である。機械的な判断しかできなかったハープ中尉は、アンドロイドなのにやたらと人間臭いリオ大尉に引きずり回されるうち、自分がこれまでに行ってきた「戦争」の欺瞞に気づいていく。


リオ大尉には、ロボット兵を運用する米軍の身も蓋もなさ、醜悪さが集中している。人間より人間らしいが、基本的な命令原則は人間に下される必要がある。また見た目のデザインは有色人種でも親しみが持てるよう黒人として作られ、握手で人間の心をつかめるように手のひらにだけ熱源が設けられている。実戦でも人間より敏捷で力も強く、デジタル的な速度で格闘をこなすし、常人には無理な動きでロボット兵とも互角に戦う。このリオ大尉の理屈だけで設計されたことによるエグさが、『デンジャー・ゾーン』の主題へとつながっている。
『デンジャー・ゾーン』の主題は、つまるところトロッコ問題だ。「より大きな犠牲を避けるためならば、少数の犠牲を受け入れるべきか」という、古典的な問題をどう扱うかを描いた作品である。ハープ中尉は映画が始まった当初、即座に少数を犠牲にする選択肢を選べる兵士だった。しかし戦場で自分が犠牲にしてきたのはどのような人々だったのかを目撃し、そしてより大規模に「多数を救うために少数を犠牲にする」という事態が進行しているのを知った時、彼は初めてどう振る舞うべきかを自分に問うことになる。


一方で、当初は機械的な判断しかできなかったハープ中尉に比べてグッと人間らしかったリオ大尉。しかし彼は根本的には理屈だけで設計されたロボットであり、その理屈だけのロボットが「アメリカ本国とは直接関係ない場所で戦われている紛争」についてどのような判断を下すかが『デンジャー・ゾーン』の核心だ。
ロボット兵のミリタリー的ディテールに、思わずオタクもニッコリ
案外ストーリー重視と書いてしまったものの、本作最大の魅力は"近未来のウクライナに展開する、ロボット兵を大量に装備した合衆国海兵隊"という、軍事SFファンなら一度は考えたことがありそうなネタを直球で映像化した点だ。とにかくそのビジュアルとディテールはなるほど納得のオタク味。

ガンプが使っている火器もなかなかのわかってる感。人間の歩兵だったら扱うのにそこそこ腕力の必要な軽機関銃(しかも本体の下にグレネードランチャー付き)や大型の対物ライフルを標準装備。重たい大型火器を軽々と扱えるぞ、というロボット兵のアドバンテージがきっちり映像化されている。ロシア軍側のロボット兵も登場するが、こちらは肩に大口径の重機関銃を装備したアームを備えている上、戦闘時には機銃を装備した腕を地面について四脚の機体としても動くという仕様。米露両軍のロボット兵に対する設計思想の違いもビジュアルとしてわかりやすく、こちらに関してもオタク笑顔で褒めたいところだ。

また、途中でハープ中尉とリオ大尉が受け取る密売品のライフルにも注目。通常米軍の使っているライフルはレシーバー上部もレールになっていて光学サイトが乗せられているが、密売のライフルは固定ハンドガードの旧型となっており、「これは密売品だから現用最新の銃じゃないよ」という目配せになっている。う、嬉しい……!


「米軍側の装甲車はもっとRPG避けの金網とか増加装甲とかたくさんつけて、車体の上にゴツい遠隔操作式の銃座も乗せてほしい~!」とか「ロボット兵の作り込みに比べると普通の人間の歩兵の装備はちょっと力の入り方が甘くない?」とか「その迷彩パターンはちょっとどうなの?」とか、ついついウザいツッコミも脳裏をよぎるが、それも精度の高い作り込みがあればこそ。近未来を舞台にしたミリタリーSF映画として、見たいものを見せてくれる作品と言っていい。「気の利いたミリタリーSFのディテールと、派手な銃撃戦が見てえ~!」という頭の悪い願望にも応えてくれる、懐の深い一本だ。
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作品情報
『デンジャー・ゾーン』2021年 / 1時間55分
出演:アンソニー・マッキー、ダムソン・イドリス、エンゾ・シレンティ、エミリー・ビーチャム、マイケル・ケリー、ピルー・アスベック
監督:ミカエル・ハフストローム
プロデューサー:ベン・ピュー、エリカ・スタインバーグ、ブライアン・カヴァナー=ジョーンズ、アンソニー・マッキー、ジェイソン・スパイア
脚本:ロブ・イェスコム、ローワン・アタリー
ストーリー原案:ロブ・イェスコム
<ストーリー>
戦争が続く近未来の世界。紛争地帯へと送られたドローン操縦士は、軍の最高機密であるAIを上官とし、核攻撃を阻止するための危険な作戦に挑む
◎配信ページ:https://www.netflix.com/title/81074110
しげる
ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。
@gerusea