
※本文にはネタバレがあります
登場人物のメンタル危うい!? 『ウチカレ』3話
『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(以下ウチカレ)(日本テレビ系 毎週水曜よる10時〜)は、いきなり「鼻毛」。水無瀬空(浜辺美波)は憧れの渉先生(東啓介)との初デートに浮かれたものの、鼻毛が出ていることに気づいてショックを受ける。【前回レビュー】『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』2話 岡田健史大盤振る舞いの2話は人の“弱さ”描く
イケメンと鼻毛。
3話まで観て思うのは、『ウチカレ』の登場人物はほぼほぼ言動がヘンだということ。いわゆる、メンタルがすこし危うい。それぞれのキャラをちょっと振り返ってみよう。
空の母で作家の水無瀬碧(菅野美穂)はバブル世代でいまなお浪費と自己愛が止まらない。小説を当てて買ったタワマンを娘・空のために手放したくなく、売れなくなっても必死で小説を書き、「あんた(空)がいたから頑張れた」と言うけれど、空も自己愛の投影のように見える。懸命に自分を守ろうと、仕事にも恋にもがむしゃらな碧は傍から見ると痛い。
娘の空はぶっきらぼうで、オタクだが、碧と比べたら普通な感じ。周囲が見えているし、わきまえもある。彼女がもしも病んでいるとすれば、自由奔放で激しい母に手を焼きながらも離れられない、共依存のようになっているところだろう。
空が「弱虫」なところに共感した入野光(岡田健史)は、オタク趣味をひた隠して、モテキャラを謳歌している。イケメンを生かしてたくさんの女性と遊んでいるけれど、漫画を描きたいけど下手なことや、好きな年上の女性・未羽(吉谷彩子)とは遊びの関係にしかなれないことに満たされない。
未羽は複数の男性と付き合って、「トライアル期間」などと言い、品定めしている。嘘をつく時は「本当のことを半分混ぜる」と言う小悪魔キャラながら、都会に出てきてすり減って疲れてしまって、早く結婚したくてたまらない。
碧の担当編集・漱石(川上洋平)は「神保町にはブスしかいない。銀座じゃないから」と炎上狙いのようなセリフを吐く。この人はどうやらいいムードになるとすぐ女性といい感じになってしまうらしい。だからなのか、その彼女・伊藤沙織(福原遥)は漱石をGPSでストーカーしている。自身をメンヘラと言い、俊一郎(中村雅俊)にまで抱きついたりする。
渉の鼻毛は「つけ鼻毛」で、なぜ、そんなものを付けるのかは3話ではまだ明かされなかった。彼の場合は病みというほどではないかもしれないけれど……。
沙織と未羽は本音になると方言になる。
そんななかで、南麻布の老舗・たい焼きやのゴンちゃん(沢村一樹)と父・俊一郎だけが癒やしと思うが、俊一郎は妻を亡くし、心に抱えるものがありそうだし、ゴンちゃんは、碧いわく、精神が「小学生」。とはいえやっぱり、小学生でも、いや小学生だからこそ、ゴンちゃんの存在だけは、いまのところ楽な気持ちで見ることができる。ゴンちゃんの素直さとフラット感はとても貴重である。

ビー玉越しの東京タワーがエモい
そのゴンちゃんが見合いをすることに。もし結婚したら、今までのように気楽に付き合えなくなると心配になる碧。漱石に勧められ、ゴンちゃんとボブ・ディランのコンサートに行った帰り、碧とゴンちゃんは、母校・すずらん小学校に忍び込む。もうすぐ取り壊されると空から聞いたので、思い出を振り返りながら、校内を歩き、感極まった碧はゴンちゃんに言う。「嫁に行くのやめませんか」
ここで空のナレーション。
「母ちゃんは大事なところでセリフを間違えた」
正しくは、
「嫁をもらうのやめませんか」
ところがゴンちゃんは素直に「すまん」と謝って、碧がフラれた体(てい)になる。フラれたのは事実なのだが、彼女はプライドが高いというか気が弱いというかで、ここは、本気じゃなかった流れにして済ませたかったのに、ゴンちゃんはそれを解さない。
「やだ冗談よ、という余白を残すのが大人」なのにでゴンちゃんのせいで「大失恋のようになってしまった」ことをものすごくオオゴトのように捉える碧。
女性が失恋しないで済むように男性が気をつかわないといけないという暗黙のルールは、ジェンダー・フリーが重視されるいま、女性の味方と喜ばれるのだろうか。逆に男性に強いてはいないだろうか。
なんだかよくわからないけれど、その後、光が未羽に手痛くフラれ、「自分と関係のあった男の後ろ姿を見るのが好きなの」と言われ、そこで光が「恋はバイバイって言ったもん勝ちだ」とつぶやく。いずれにしても恋が勝負になっている。
第1話で、碧が斬り合いに喩えていることはブレていない。ちなみに、恋愛ドラマ全盛だった90年代、坂元裕二が脚本を書いた『同・級・生』(原作は柴門ふみ)では、ヒロインが「私が先に背中向けたら、私がなんか鴨居くん振ったみたいでしょ」と言う場面があった。男が先に背を向けているにもかかわらず、未羽とは逆の考え方なのが興味深い。

(C)日本テレビ
北川悦吏子先生は、あくまでも、女性が主導権を握っている。いずれにしても、恋愛時代全盛期の作家は、振ったフラれた=勝ち負けとして書く。ただし、勝ち負けというのも言いようで、結果よりも駆け引きという過程を楽しんだり、別れになにかちょっと気の利いたセリフをプラスしたり、それが大人の余裕だった時代があった。
その駆け引きや創作作業に疲れると、未羽のように結婚したくなってしまうのかあと。
さて、鼻毛に幻滅して最初の恋があえなく終わった空。光とは意外と馬が合いそうだが、当人は気づいていない。彼からもらったビー玉(北川先生の名作『ロングバケーション』のスーパーボールのセルフオマージュきたー)越しに街をのぞくと、逆さまの世界だった。東京タワーが逆さまになる。
「テールランプの灯る車は水族館の熱帯魚みたいだ」
エモい、エモすぎる。逆さまの風景が美し過ぎる。
光はチャラ男のようで、鼻毛の彼に対する洞察力と「恋は気まぐれなもの」だと懐の広さを見せる。空がなくしたビー玉をまたガチャで取ろうと頑張る良い人だ。
そんな感じで『ウチカレ』はすべてが極端。聖と俗の開きが広すぎて、水曜日は週の半ばで休みたい日にもかかわらず、ビルの1階から7階くらいまで階段で何度も往復するように観る体力を使う。
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●第4話あらすじ
碧(菅野美穂)の小説『私を忘れないでくれ』が、人気バンドのボーカル・ユウト(赤楚衛二)主演で映画化されることが決定。碧はファンであることを隠し、気合いを入れて打ち合わせに臨むが……小西(有田哲平)は原作の内容を勝手に変えようとするユウトの言いなりになっていた。自分の作品が守られないことにストレスを抱えつつも、映画化を受け入れないと次の作品も書かせないという暗黙の条件を前にプライドが傷つく碧。誰よりも碧を気遣う漱石(川上洋平)は、作品を守るためにできることを考えるが……。
一方、空(浜辺美波)は、デートに“つけ鼻毛”をしてきた渉(東啓介)にその理由を聞いていた。“忘れられない人”がいるのでわざとデートを失敗させようとしたという渉に、見くびられたように感じる空。自分でも意外なことに、勢いよく渉に別れを告げる! その夜、何かを思いついた空はペンを手に取り……。
おだやでは、ゴンちゃん(沢村一樹)の見合いが思わぬ形で破談に! 俊一郎(中村雅俊)は、ゴンちゃんが碧のことを思って内心ほっとしている、と話すが……。
翌日、碧のマンションに漱石が訪ねてくる。碧のために映画を成功させようと策を錬る漱石だが、碧は触れてはいけない漱石の過去に踏み込んでしまう……! かつて漫画編集部にいた漱石は、あるスキャンダルを起こして文芸に異動してきたのだが……。
そんな中、空は光(岡田健史)の作った物語をイメージした絵を見せるため、光と共におだやへ。二人は漫画制作を通して距離を縮めるが……。そこに碧と渉が偶然居合わせ、事態は急展開を迎える!
番組情報
日本テレビ系『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』
毎週水曜よる10時〜
出演:菅野美穂 浜辺美波
岡田健史 福原遥 東啓介
中村雅俊 沢村一樹
有田哲平 川上洋平
番組サイト:https://www.ntv.co.jp/uchikare/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami