『おちょやん』第8週「あんたにうちの何がわかんねん!」

第40回〈1月29日 (金) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

『おちょやん』爪痕残した若葉竜也演じる小暮が去り、そして千代(杉咲花)も京都の撮影所をあとに
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

花の送り主は誰?

懐に退職届けを忍ばせていた千代(杉咲花)だったが、「人の苦しみがそない簡単にわかってたまるか」「そやから俺は芝居するんねん。芝居してたらそういうもんがちょっとわかる気がする。わかってもらえる気がする」という一平(成田凌)の言葉に揺れる。
そこへ千代に小さな花かごが届く。

【前話レビュー】<貸した金返せよ>と歌っておきながら役柄では金を返さないトータス松本

「たったひとりでもおまえを見てくれてる人がいてくれてるっちゅうことや」とまた一平が顔を出し、それだけ言って去っていく。一平、なんやねん! でもこの昭和のご都合主義的な登場の仕方も、一平が舞台俳優であることでかろうじて成立しているように思う。劇的なことをするのが身についているのだ、一平は。

それより、この花は誰の贈り物なのか。一平? 小暮(若葉竜也)? それとも、テルヲ(トータス松本)? それとも、守衛(渋谷天外)の自作自演? なんにせよ、美しい花と小鳥の声が心地よかった。

千代と小暮の別れ

花の贈り主――千代のファン? のおかげか、千代は芝居をまだ続けようと思う。それはつまり、小暮の求婚を断るということだった。

撮影所の中でしみじみしていると、酔った小暮がやってくる。酔っていることで、動きにバリエーションがつき、ふたりっきりの会話も淡々としないで見ることができた。

小暮には自分はふさわしくないと言う千代に、「うまくいかない自分を慰めてほしかっただけなのかもしれない」と省みる小暮。なぜ小暮はこんなに泥酔しているのかと思ったら、カフェー・キネマのビール売上競争で、千代を1位にしようと飲みまくったからだった。

「映画で一等にしてあげられなかったから」という小暮の健気さに「お酒弱いくせに……」と心打たれる千代。
でも、彼女の心は結婚にはもう向かない。ううう…切ない。

懸命にグビグビとビールを飲む小暮。酔った仕草、「そんなことない!」と撮影所のセットから転がり落ちる芝居や、いろんな思いを飲み込むようにビールを飲む姿、「本当は僕が千代ちゃんを日本一の女優にしてあげたかったなあ」としみじみ言う表情等々、若葉竜也の良い芝居。彼は、いわゆる爪痕を残したと思う。藤竜也、藤原竜也に続く、若葉竜也。

千代、再び、道頓堀へ――

小暮が去り、千代は今一度、芝居を頑張ろうと思ったが、千代は撮影所をクビになる。だがしかし、代わりに、道頓堀に新しくできる劇団に入るようにと言う社長(中村雁治郎)

映画の世界では通用しないという戦力外通告。だが「あんた映画には向かん」と言った社長は「キャメラ映りが悪いいうのはな、悪口なんか褒め言葉なんか、どっちやろなあ。実物のよさがな、キャメラでは収まりきれんちゅうこともなあ」と所長(六角精児)に言う。その口元には米粒。良いことを言いながら、米粒。
いい話なのかそうでもないのかどっちやろなあ。

所長には39話で名セリフを言わせておきながら、社長はおもしろでオトす。所長はこれで退場、社長はまだ登場するってことだろう。

守衛さんも、撮影所で、来る女優、去る女優を見つめてきたという風情も、演劇で登場人物が去っていくときのような感じで味わいがあった。

『おちょやん』爪痕残した若葉竜也演じる小暮が去り、そして千代(杉咲花)も京都の撮影所をあとに
写真提供/NHK

千代が道頓堀に旅立つ(帰る?)とき、カフェー・キネマの仲間たちが見送って、宮元(西村和彦)が「よーい本番!」と映画撮影ふうにするところも決まった。このとき、手前の柳が揺れている。こういう気配りが素晴らしい。千代がクローバーを店のテーブルに飾っていくのが良かった。

こうして、千代は花道を拍手で送られながら去っていくように、次のターンに向かう。

『おちょやん』爪痕残した若葉竜也演じる小暮が去り、そして千代(杉咲花)も京都の撮影所をあとに
写真提供/NHK

『おちょやん』は2週間単位でクライマックスが来て、新展開になるので、ある意味、単発の2時間スペシャルを2週間ごとに繰り出している感じ。たとえば、この2週間がいまひとつだったとしても、次の2週間で挽回できる可能性はある。長丁場を続ける、これもひとつの工夫であろう。


ところでテルヲは

千代のお金を、小銭まで拾って去っていったテルヲ(トータス松本)が『あさイチ』のゲストで登場。「テルヲの言い訳スペシャル」としてトークが行われた。

39話で「金の切れ目が縁の切れ目」と千代が言った場面を映像で見たとき、「借金大王」が頭で流れたと言っていた。やっぱり。

関西弁の陽気なトークで楽しませてくれた。こんなに良い人そうなトータス松本が、あんなにいやなテルヲだなんて。本人「ただ一生懸命芝居しているだけなのに」とのこと。でもトータス松本のテルヲの魅力が視聴者を増やす可能性も秘めているから世の中不思議なものである。「朝ドラ史上最悪」というワードはなかなかキャッチーである。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■吉川愛(宇野真里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若葉竜也(小暮真治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■朝見心(純子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■三戸なつめ(竹井サチ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■竹井テルヲ(トータス松本役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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