『おちょやん』第8週「あんたにうちの何がわかんねん!」

第36回〈1月25日 (月) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

『おちょやん』“人たらし”のテルヲ(トータス松本)撮影所に潜り込み、千代(杉咲花)のもとへ――
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

テルヲが来たー

はじまりは、黒衣(桂吉弥)による活弁ふうの先週までのあらすじ。

【前話レビュー】超問題人物・父テルヲがやって来た! 千代、逃げてーー

素敵な音楽とともにモノクロ映画のように先週のダイジェスト映像が流れ、黒衣のなめらかで軽快な語りが風情あり、高齢視聴者はなつかしい気持ちに、若者は新鮮な気持ちになったことだろう。撮影所編ならではの趣向が楽しめた。


こうして見ると、改めて、千代(杉咲花)は不遇な目に遭うが、それが延々続くことはなく、すぐに解決し、わだかまりを残すことなく次のターンへと進むよう、よく考えて作られていることがわかる。

昭和3年。千代が鶴亀撮影所に入って3年が経過した。ということは、入社したときは大正から昭和に改元された激動のときだったってことである。そしていまは金融恐慌のせいで不況。3年経過しても千代は大部屋女優のまま。
大部屋の中堅女優として「ボチボチ」「ボチボチ」と黒衣に言われ、カメラ目線でどやしつける。

でもボチボチならましで、不景気によってクビになった女優たちもたくさんいた。明日は我が身……と千代も不安になる。

監督になった暁には千代を主役にしてくれると言っていた小暮(若葉竜也)もなかなか芽が出ず、主役の道は見えない。小暮が書いていた脚本は、生き別れになった姉と弟の話。まるで千代とヨシヲのようだった。
『なつぞら』のようでもあるが。

そこへ、守衛(渋谷天外)が千代を呼びに来る。ヨシヲと名乗る者が訪ねて来たと聞いて、千代は一目散にその元へ向かうと――。

期待に違わない、忌まわしきテルヲ(トータス松本)7週の最後に出てきていたから視聴者は知っていた。知らぬは千代ばかりなりなのであった。


『おちょやん』“人たらし”のテルヲ(トータス松本)撮影所に潜り込み、千代(杉咲花)のもとへ――
写真提供/NHK

このとき、守衛は、襟首にこけしの肩たたき棒みたいなものを指している。すごく気になるけど、誰もツッコまない。こういう笑い、嫌いじゃない。

小暮もお父さんのことで悩んでいた

大部屋で女優たちに囲まれているテルヲ。千代のお情けでカフェー・キネマに一晩泊めてもらうことになって、そこでもまた調子よく、監督ことカフェー・キネマの店長・宮元(西村和彦)と仲良くなっている。お金を稼ぐことができず、子どもにも苦労させてしまう人物ながら、人たらし的な魅力があって、それでなんとか生き抜いている。

演じているのがトータス松本だからカリスマ的な魅力があるのは当然。
この笑顔は誰もに愛されてしまう。それに、人間、誰しも、自分が迷惑を被るまではその人物の本質にはなかなか気づけないもの。大部屋女優たちも、カフェー・キネマの人たちも千代のお父さん、ダメそうだけど楽しそうな人くらいの印象しか持っていないと考えられる。

千代が撮影所の中に入るのも届け出がないときは絶対に許可しなかった守衛すら、届け出のないテルヲを中に入れてしまうくらいだ。あの鉄の門番をどんな手を使ってすり抜けたのか。

千代はさぞ忌々しいことだろう。
千代の苦しみは彼女以外、誰にもわからない。

カフェー・キネマで「大監督」と宮元を持ち上げて、喜ばれ、酒をたらふく飲むテルヲ。千代の貧乏な子ども時代をペラペラとみんなにしゃべってしまう。ブタの餌を食べた話なんて、人に知られたくない、そんな乙女心がわからないテルヲ。鶏のマネをしたのが俳優の才能の片鱗だったとか言い出す。それはそうかもしれないが。


テルヲにはイラッとするが、なつかしい子供時代の千代(毎田暖乃)が出てきてうれしかった。

カフェーの人達から、千代がお金を貯めていることを聞き出し、すかさずそれを当てにする。なんて面倒くさい父親。所長(六角精児)のもとへ、娘を主演女優にと直談判しに行く。この、どこでもすいすいすり抜けていける才能を建設的なことに生かすべきだが、そうできないのがダメ人間の悲しい性。

『おちょやん』“人たらし”のテルヲ(トータス松本)撮影所に潜り込み、千代(杉咲花)のもとへ――
写真提供/NHK

一方、小暮は、実家の父から手紙をもらっていた。5年という約束で好きなことをやらせてもらっていた小暮。帰ってこいと
手紙には書かれていて、顔を曇らせる。

小暮にプレッシャーを与える父親がどういう人かまだわからないながら、『おちょやん』には子どもにとって尊敬に足る父親が出てこない。一平(成田凌)の父も芸一本で酒浸り、女性遊びが派手で一平を悲しませていたし、岡安の旦那・宗助(名倉潤)も悪い人ではないが頼りない。

誰にも認めてもらえない脚本を、千代だけは認めてくれたときの「ありがとう」という小暮の口調が印象的。千代に癒やされている感いっぱいだ。

どうなる? 朝ドラ送りと朝ドラ受け

ところで最近、『あさイチ』では朝ドラ受けが減っている。その代わり『おはよう日本 関東版』の高瀬アナによる「朝ドラ送り」は相変わらず熱心。

『あさイチ」は朝ドラ受けに頼らず、番組の内容で勝負しようという気骨を感じる。逆にいまは『おはよう日本』からチャンネルを変えないような努力で送りがされている印象。「受け」も「送り」も素直にドラマの感想をしゃべりはじめたようにも見えたときは新鮮で楽しかったけれど、ものごとは続けると形骸化してしまうもので、鮮度を保つことは本当に難しいと感じる。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■吉川愛(宇野真里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若葉竜也(小暮真治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■六角精児(片金平八役)プロフィール・出演作品・ニュース
■ファーストサマーウイカ(ミカ本田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■朝見心(純子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■F.ジャパン(池内助監督役)プロフィール・出演作品・ニュース
■籠谷さくら(滝野川恵役)プロフィール・出演作品・ニュース
■竹井テルヲ(トータス松本役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami