『おちょやん』第7週「好きになれてよかった」
第35回〈1月22日 (金) 放送 作:八津弘幸、演出:大嶋慧介〉
千代、捨てられる妻役を演じる
34話では新人大部屋女優だった千代(杉咲花)が35話の終わりには3年が経過して中堅女優になっていた。展開が早い!【前話レビュー】千代(杉咲花)は忍耐キャラか自由気ままキャラか 朝ドラ主人公パターンのどっちなのか
でも驚くことはない。これは朝ドラ名物のひとつである。
『おちょやん』の初恋はあっという間にはじまってあっという間に終わった。そして、恋の終わりに得たものは、仕事。主演映画『太陽の女カルメン』の撮影を蹴って駆け落ち失踪した女優・高城百合子(井川遥)の置き土産として、千代に役がついた。
その役は、その役は、ほかの女性に心を奪われた夫に捨てられそうになっている妻の役。初恋を経験したばかりの千代にいきなり悩める人妻という大人の役だ。こちらも一足飛び。
当然ながら、なかなかうまくできない。ジョージ本田監督(川島潤哉)に「本気で人を好きになったことがあるのか」と聞かれ、「あります」と毅然と言った視線の先には、その相手で助監督の小暮(若葉竜也)が……。
なりゆきで好きになっただけだったが、その小暮が好きだったのは高城百合子。
千代に頼る男たち仕事も恋もとガツガツしがちな朝ドラヒロイン。だが千代はそうでもなかった。百合子が好きな彼の心に、彼女がいないことにつけいってぐいぐい入っていくようなことはしない。そこは上品。
一平は一平で、脚本がうまく書けず、鶴亀株式会社の社長・大山(中村雁治郎)から、父の作風を越えようとしてもがいていると見透かされていた。
社長は、「血のつながりは消せないもの。『見とうない汚らわしさも優れた才能も』受け継いでいるから、それをまず知ることだ」と助言する。この「見とうない汚らわしさ」とは、酒浸りで女遊びが激しかったところであろう。
落ち込む千代を励ますと言いながら、内心、自分が励ましてほしい一平。いつもの軽口をたたきあって、すこしだけホッとなっているのがわかる。
一平が去ると、今度は小暮が現れる。彼もまた「また励ましてもらおうかなと思って」と千代に言って、映画と食事に誘う。
小暮が百合子のことを「好きになれてよかった」と言った言葉を、千代は本番で役の感情として取り入れる。こうして、捨てられる女の哀しみを見事に演じることに成功した千代は、小暮と握手をし、いつか映画監督になった小暮と俳優として仕事をすることを誓う。
ジェンダーが問われるいま、男はこう、女はこうと、男女の枠に当てはめて考えることは良くないけれど、少なくともこれまでの朝ドラは、女性作家が書く男性は、ヒロインにとって都合のいい人か、悪い人だった。
『カルメン』を映画館で観てひとりむせび泣いている監督(西村和彦)もなかなかチャーミングだった。
父が追いかけてきた
映画デビューしてから3年。千代は中堅女優として映画にいくつも出るようになった。世間に名前が出たら、離れ離れになった弟ヨシヲに気づいてもらえると思っていたが、名前に気づいたのは父・テルヲ(トータス松本)で、撮影所にやって来る。千代の夢に出てきたテルヲの高笑いで、次週へつづく。なんとも不穏な終わり方。『おちょやん』で描かれる男性たちのなかで最大の問題人物がテルヲである。この人、それこそ男とか女とか関係なく、人として、いいところが全然ないので、どうとらえていいか難しい。35回の展開を見るに、千代は、ダメな男に頼られがちな人物のように感じる。これは危険な兆候である。千代、逃げて――。
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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■吉川愛(宇野真里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若葉竜也(小暮真治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■ファーストサマーウイカ(ミカ本田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■浜口望海(撮影技師役)プロフィール・出演作品・ニュース
■三戸なつめ(竹井サエ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■竹井テルヲ(トータス松本役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami