『おちょやん』第7週「好きになれてよかった」

第34回〈1月21日 (木) 放送 作:八津弘幸、演出:大嶋慧介〉

『おちょやん』千代(杉咲花)は忍耐キャラか自由気ままキャラか 朝ドラ主人公パターンのどっちなのか
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

さようならはじまり3日目

高城百合子(井川遥)主演映画『太陽の女カルメン』の撮影現場、百合子のセリフ「さようなら」からドラマがはじまることが、32回、33回、34回と3日続いた。一瞬、あれ? これ、すでに観た……デジャヴュ? 再放送? とドキリとさせようという仕掛けであろうか。いや、「さようなら」だけで何回も村川茂(森準人)監督に「違うな」とやり直しをさせられているのだ。


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理由も告げず、ただ「違う」「違う」の繰り返しは、山村千鳥(若村麻由美)もそうだった。実際、「違う」「違う」と何度もやり直しさせる演出家や監督はいる。たいていそれは、俳優がひとりで決めつけてきた考えを取っ払うためである。何度も同じことをやり続けると、そのうちわけがわからなくなり、それによって思いがけない演技になり、それが良かったりするのである。

高城百合子、駆け落ちする

千代(杉咲花)は恋する演技の勉強のため、助監督・小暮(若葉竜也)に恋人のふりをしてもらって共に過ごすことで、本当に好きになってしまう。その小暮から、一平(成田凌)の天海一座が解散して、苦しんでいるようだと聞く。

じつは劇団が解散したので脚本の勉強をしに来た一平。
強がって見せているが、「俳優なんてやるもんやあらへん」と千代に言ったのは一平の気持ちの現れだったことを千代は気づく。そしてまたひとしきり痴話喧嘩ふうな会話をするふたり。

そんなとき、やり直しに嫌気がさして撮影所を走って逃げる百合子とばったり。今度は、千代のことを九官鳥のレイチェルではなく、ちゃんと思い出した百合子。以前も、逃げていて、千代に助けてもらったから思い出したのだろう。百合子は頭じゃなくてカラダで記憶するタイプ。


ふたりは追手から隠れて、なつかしく語り合う。「覚えてないけど。フフ」って、百合子は本当に天然の人。類まれな美しさと度を越した感性が彼女を俳優として燦然と太陽のように輝かせているのだろう。山村千鳥のようなある意味、常識人で苦労人がかなわない、自分は闇だと思うのも無理はない。

百合子は、「俳優は嘘をつくものだが、自分自身には嘘はつけない」と持論を語る。
「私たちは自由なのよ」と言う百合子。その後、共演者・小竹栄一(小堀正博)と駆け落ちしてしまった。「自由すぎるわ……」と千代は呆れる。

「本性を引き出そうとして引き出しすぎた」と監督。監督はやはり、がちがちに固まった俳優の演技プランを崩し、自然なところを引き出そうとしたようだが、そのせいで、百合子は飛び出していってしまったのだ。単なる、厳しいダメ出しのわかりやすい表現や、繰り返しの面白さを狙ったものではなかったのである。


と言いたいところだが、百合子は、カルメンは自由な女にもかかわらず、監督の言うことを聞いていたらそうならないと演出を批判していた。百合子は最初から自由で、監督が芝居を決めつけていたと百合子は思っている。監督と俳優、どっちが正しいのか。この描写に関して芝居が好きな人だったら一晩中話していられる。

『おちょやん』千代(杉咲花)は忍耐キャラか自由気ままキャラか 朝ドラ主人公パターンのどっちなのか
写真提供/NHK


『おちょやん』千代(杉咲花)は忍耐キャラか自由気ままキャラか 朝ドラ主人公パターンのどっちなのか
写真提供/NHK

「遠慮してはだめ」

高城百合子の一件によって、千代はまた代役のチャンスを獲得する。『カルメン』をジョージ本田監督(川島潤哉)で作り直すことになり、キャスト一新。千代にも役がついたのだ。


千代との別れ際、百合子は、「私が頼んであげる」と言った。そんなことをしたら妬まれたり恨まれたりすると困惑する千代に、「この世界で生きていく覚悟があるなら、遠慮してはだめ」「使えるものは何でも使いなさい」「誰に何を言われようと、自分がやりたいと思うようにやるべきよ」と助言も。

朝ドラはどういうわけか、主人公が、『おしん』に代表されるひたすら忍耐するパターンか、『まれ』『半分、青い。』や『エール』(主人公の妻・音)などのように、周囲のことはお構いなしに自由に振る舞い、やりたいこと、欲しいものをすべて手に入れていくパターンに二極化する。

『おちょやん』は当初、忍耐キャラだったが、百合子の影響で、欲しいものは掴むキャラに変容しつつある。変容というのも第3のパターンで、『まれ』は最初、人のために生きるとか地道にコツコツとか言っていたが、いつの間にか、なんでも手に入れようとする人物に変化。


『エール』の音は、最初、なんでも獲得しようとがむしゃらだったが、結婚後は、歩をわきまえ諦めることを学ぶようになる。そもそも物語は10種類くらいしかなく、それを応用させながら作っていると言われているわけで、こういう造形が悪いわけではない。テンプレ化させない不断の努力が必要だ。それはともかく、千代、もってる。――代役運を。

その分、恋愛運は微妙。小暮は高城百合子信奉者、というか恋していたようで、千代はしょんぼり。このとき、壁にそっと両手で触れた指先の奏でる寂しさは、恋する繊細な心を映し出していた。この演技はテンプレでない、杉咲花のオリジナルな表現である。こういうのがあれば見続けられる。

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■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami