
※本文にはネタバレがあります
新たなラブストーリーが発展『ボス恋』5話
麗子(菜々緒)のように美容のためにアーモンド食べようかなと思った『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(以下ボス恋)(TBS系 毎週火曜よる10時〜)第5話は、恋愛シミュレーションゲームのシナリオのようで、やや中だるみ感があったように感じる。4話で奈未(上白石萌音)と潤之介(玉森裕太)がキスして一回ピークが来てしまったからだろう。冒頭から主題歌が流れたこともピーク感を強調してしまった。【前回レビュー】奈未に徹底的に忠実な“子犬”で居続けようとする玉森裕太が申し分ない
第4話で雨に濡れながら2時間も待っていた潤之介を自分の部屋に連れて帰った奈未。「好きだよ」と言う潤之介の甘いささやきに、キスから先に一気に進んでしまうのかーーーーーと思ったら、そのまま潤之介は疲れて眠ってしまったのでホッとした。
寝ている彼を残し、朝ごはんを作って出社する奈未。それだけでもハッピー。にまにまが止まらない。連ドラの中盤でこんなに主人公が満たされていていいのか。もっと困ってのたうちまわってほしい。
奈未の目下の困難は、私達って付き合っているのか、いないのか問題。「好き」という言葉と付き合うを同質のものととらえていいかわからないという恋愛ビギナーにありがち問題である。
そこへ、潤之介の想い人らしい蓮見理緒(倉科カナ)が登場。いきなりかき回すのではなく、最初は、奈未と仲良くなる。お互い潤之介と知り合い同士であることを知らずに、理緒は奈未の恋の相談に乗る。
理緒と潤之介の過去を知らず、理緒に教わった「付き合おう」とはっきり言葉にしない相手の本心を知る作戦を無邪気に試す奈未。でもなかなかうまくはいかない。
潤之介から実家からカニが送られてきた(さすが実家が金沢)という連絡をもらって取りに行き、そこで告白させようと思ったら、麗子がやって来た。麗子が怖くて、奈未は「カニ目当て」だと言い張ってしまい、告白させる作戦は失敗に終わる。
そんなことではめげない奈未。恋も仕事も手に入れようと息巻くが、麗子はどちらも両立することに懐疑的だ。
奈未は怠惰な人間の願望そのもの
恋と仕事、どちらも手に入れたいと考える奈未は、ますます朝ドラ現代ものヒロイン化してきた。仕事の本質でなく表層的なところしか見ていなくて、恋と仕事の認識が観念的で、ただただがむしゃらで健気さのないヒロインは視聴者にあまり好かれない。こういうヒロインを演じるのはさぞ大変であろうと上白石萌音に同情もするが、彼女だからギリギリ保たせていると言えるだろうし、うますぎて、逆に、こういう子は好きじゃないと思わせてしまう危険性もはらんでいる。
上白石萌音は、なんにも考えずに口先だけでしゃべり、なんなら呼吸も口でしているような、いまどき一般人でもなかなかいなそうな無防備な人物を見事に演じている。それが意識的であることは、ガツンとやられたときの顔や、キスシーンのような決めシーンではちゃんと顔を作っているからわかる。
無防備は、他人をいやな気持ちにさせる。
それに比べて、奈未にはそういう意識がまるでない。頑張って自分を作り上げようとまったくしていないから、常にゆるみのある表情と口調。にもかかわらず、なんとなく仕事がもらえるようになり、なんとなく子犬系男子と恋がうまくいく。怠惰な人間の願望そのものの物語である。
こんなときこそ麗子にまたガツン!とやってほしいところだが、彼女は奈未に任した仕事を一回ボツにするも挽回策を与えるなど、ちょっと歯ごたえがなくなってきた。麗子は麗子で、宇賀神への恋心が止まらなくなってきている。「副社長はありえなくない存在です」と言われた宇賀神もまんざらではない感じに見える。後半戦、大人層には麗子と宇賀神、若者層には奈未と潤之介のラブストーリーを展開していく狙いであろうか。

潤之介は「付き合おう」とは言わないながら、奈未のなにもかもを理解し、受け止める。カニを食べそこなった代わりにカニのおにぎりとお味噌汁を差し入れ、「充電」と抱きしめるなど、いいとこしかない。
充電器付き愛玩用子犬の演技をし続ける玉森裕太は、優しく柔らかであることに徹し、奈未を常にふわりと包み込む。溶けそうな演技を徹底的にやり続ける上白石と、どんなに溶けても必ず支える、しかも優しくという難しいサポート力を徹底的にやりきる玉森。これは逆『半沢直樹』と言っていい。強烈な熱さと強さの顔芸で攻めるドラマと真逆なこれはこれで高度な技術を要する。この柔らかさの中に潜む若いふたりの表現者としての修羅を見た。
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●第6話あらすじ
奈未(上白石萌音)は麗子(菜々緒)に付き添い、とあるパーティに出席していた。するとそこには、潤之介(玉森裕太)の幼馴染み・理緒(倉科カナ)の姿が。しかし、潤之介がかつて想いを寄せていた相手だと知ってしまった奈未は、理緒と顔を合わせることができずに人影に隠れてしまう。
理緒に気づかれぬよう麗子とパーティ会場を後にしようとする奈未だったが、偶然麗子の父・宝来勝之介(宇梶剛士)と遭遇し挨拶をかわす。さらに勝之介は麗子に新谷(細田善彦)という若手実業家の男を紹介するのだった。
そんな中、パーティから帰宅した奈未のアパートの前には潤之介が待っていた。電話もメールも返事がなく、避けられていると感じた潤之介は、「理由を教えてくれるまで帰らない」とその場に座り込んでしまい……。
――番組サイトより
番組情報
TBS系『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』
毎週火曜よる10時〜
出演:上白石萌音(→プロフィール) 菜々緒(→プロフィール) 玉森裕太(→プロフィール)
間宮祥太朗(→プロフィール) 久保田紗友(→プロフィール) 亜生(ミキ)(→プロフィール)秋山ゆずき(→プロフィール) 太田夢莉(→プロフィール) 高橋メアリージュン(→プロフィール) なだぎ武(→プロフィール) 犬飼貴丈(→プロフィール) 橋爪淳(→プロフィール) 山之内すず(→プロフィール)
宮崎美子(→プロフィール)
高橋ひとみ(→プロフィール)
宇梶剛士(→プロフィール)
倉科カナ(→プロフィール)
ユースケ・サンタマリア(→プロフィール)
番組サイト:https://www.tbs.co.jp/BOSSKOI_tbs/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami