Netflix『ラブ&モンスターズ』は蟻、ミミズ、ヒル、蛙のモンスターが絶妙なイヤさ具合で攻めてくる
(C)Netflix

『ゾンビランド』系映画最新作『ラブ&モンスターズ』

人生において大事なことを教えてくれる映画はたくさんある。その中でもちょっと特殊なのが、『ゾンビランド』系映画である。といってもそんなにたくさんこのスタイルの映画があるわけではないのだが、『ラブ&モンスターズ』はこの『ゾンビランド』系映画の最新作と言っていい。


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巨大生物をかいくぐり、彼女の元へ130kmの道のりを踏破せよ!

映画の冒頭では、7年前に地球に謎の小惑星が接近したことと、その影響で地上の小動物が巨大化し人類を襲うようになったことが説明される。人類の95%は死亡し文明は壊滅。生き残った人間たちは、地下のシェルターにこもって細々と生き延びていた。

Netflix『ラブ&モンスターズ』は蟻、ミミズ、ヒル、蛙のモンスターが絶妙なイヤさ具合で攻めてくる
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主人公ジョエルは、とあるシェルターで暮らす生き残りの一人である。料理ができて絵が描けるものの、モンスターと化した生物との戦闘ではイマイチ頼りなく、戦闘時は常に仲間外れ。周りの生き残りたちは次々にカップルになったり子供を産んだりしているものの、なんとなく一人だけ浮いた感じで生活していた。

そんなジョエルだったが、ある日他のシェルターとの無線通話で、7年前に付き合っていたかつての恋人エイミーがまだ生きていることを知る。
すぐにでも会いに行きたいところだが、エイミーが生活しているシェルターはおよそ130km離れた地点。しかしこのままここにいても役に立てず、何より彼女が気がかり……ということで、仲間たちに見送られつつジョエルは自分のシェルターを出発。モンスターだらけの地上を、130km歩いてエイミーのシェルターまで向かうことに。大した戦闘スキルもないジョエルのサバイバルは、果たしてうまくいくのか。

出てくるモンスターに、哺乳類は皆無。蟻やらミミズやらヒルやら蛙やらというイヤ度高めのメンバーが、全員特大サイズになって人間を襲う。
それもデカすぎないサイズ(刃牙に出てきたカマキリくらいのサイズ感)なのが最高にイヤである。この手の映画でモンスターがおざなりだと興ざめだが、その点に関してはこの映画は大丈夫。しっかり「イヤだな~!」と思わせつつ、最後の一線は超えない程度の絶妙なイヤさ具合で攻めてくる。

Netflix『ラブ&モンスターズ』は蟻、ミミズ、ヒル、蛙のモンスターが絶妙なイヤさ具合で攻めてくる
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と、凶暴なモンスターでビビらせつつも、話の筋立てはよくできたアメリカ製コメディそのもの。ジョエルが道中で出会う犬のボーイ、地上で暮らす戦士のようなサバイバーのクライドとミノウなどなど、劇中での登場人物や会話がだいたい全部フリとオチになっており、結末までに伏線をしっかり回収してくれるのでモヤモヤする部分はなし! 「7年前に生き別れになった彼女に会いに行く」という目的もこれ以上ないほどはっきりしていて、映画の筋がそこからブレないのも好印象。「キッチリ仕上がった脚本」のお手本のような作品である。


世間の荒波に立ち向かう人々にオススメの一本

前述のように、この映画を見ていてつい思い出してしまったのが2009年の映画『ゾンビランド』である。厄災で壊滅してしまった世界、逃げ延びて引きこもるしかなかった主人公の冴えない青年、目的のためにずっと移動し続けるロードムービー的な筋立てと、基本的な構成要素がだいたい一緒なのだ。

Netflix『ラブ&モンスターズ』は蟻、ミミズ、ヒル、蛙のモンスターが絶妙なイヤさ具合で攻めてくる
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『ゾンビランド』がそうだったように、『ラブ&モンスターズ』でのモンスターだらけの地上は、わけがわからないことばかり発生する世間の暗喩である。その恐ろしさから地下に引きこもっていたジョエルは、愛する彼女のために勇気を振り絞って地上に出たことで様々な経験と先達の助言をゲットし、いつしかモンスターだらけの地上でも平気になっていく。

『ゾンビランド』と『ラブ&モンスターズ』が似ている点はもう一つ、主人公がわりと記録を大事にするというポイントもある。『ゾンビランド』の主人公コロンバスが「生き残るための32のルール」を集めて鉄則としていたように、ジョエルは出会った怪物やその対処法を絵に描いてまとめ、常に持ち歩く。2人とも自分や他人の行動のログをつけてはそれを閲覧し、自分が生き残るための手助けにしているわけである。


Netflix『ラブ&モンスターズ』は蟻、ミミズ、ヒル、蛙のモンスターが絶妙なイヤさ具合で攻めてくる
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もしモンスターだらけの地上が厳しい世間の暗喩であるとするならば、我々が『ラブ&モンスターズ』から学ぶべきはまず「問題と対処法のメモを取れ」「そしてそれをまとめていつでも閲覧できるようにしろ」という点であろう。現にジョエルは、いろいろな助言や自分の発見を忘れず実行していた。実践的である。ここでは一例のみを示したが、この映画を最後まで見れば他にも様々な教訓が手に入ることだろう。

どうしたって世間の荒波はおっかない。人生に解決法はなく、歳をとっていようが若かろうが、足元をすくわれて酷い目に遭うこともそれなりにある。
そういう恐ろしい場所を歩く時、一体どうすればいいのか。『ラブ&モンスターズ』は、それを知るためのちょっとした助けになる映画ということになる。お話の内容も若者が頑張る話なので基本的にはフレッシュだし、モンスターやゾンビから教訓を得るのもまた一興。この春から新しい学校に進学したり新社会人になったりと、いろいろ環境の変わった人に見てほしい作品である。


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作品情報

『ラブ&モンスターズ』

Netflix『ラブ&モンスターズ』は蟻、ミミズ、ヒル、蛙のモンスターが絶妙なイヤさ具合で攻めてくる
(C)Netflix

4月14日(水)よりNetflixで配信中
配信ページ:https://www.netflix.com/jp/title/81277430

出演:ディラン・オブライエン、ジェシカ・ヘンウィック、マイケル・ルーカー、アリアナ・グリーンブラット
監督:マイケル・マシューズ
脚本:ブライアン・ダッフィールド

<ストーリー>
モンスターの襲来から7年。
すべての人類は地下コロニーでの生活を余儀なくされていた。ジョエル・ドーソン(ディラン・オブライエン)は、130km離れたコロニーで暮らしている高校時代の彼女エイミーを無線通信で発見する。彼女への思いが再燃したジョエルは、地下での暮らしに思い残すことはないと自覚し、行く手に待ち受ける危険を承知で、運命の人に会うために旅立つ決意をする。

2021年/1時間 49分


Writer

しげる


ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。

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