flumpool コロナ禍でもツアー開催を選んだたくましさの理由

ソフトなイメージを裏切る、flumpoolのたくましい姿勢の理由を探る

コロナ禍の中、全国31都市36公演を巡る大型ツアー『flumpool 10th Tour「Real」』を開催中のflumpool。本ツアーは、2020年8月、すでに販売していたチケットを一旦全て払い戻した上で新開催概要を定め、収容人数をガイドラインに沿って抑えて再販。メンバーがその決意と覚悟のほどを綴ったコメントを発表すると共に、実施に踏み切ったものである。
約4年ぶりにリリースしたオリジナルアルバム『Real』を携えたこのツアーに対して、メンバーには特別な思い入れがあったのだろう。

もちろん、何が何でもライブを断行するというわけではなく、刻々と変わるコロナの状況を精査し、対応を柔軟にアップデート。いくつかの延期も発生しているが、それらの振替公演を盛り込みながら1本1本成功例を積み重ね、すでにツアーは折り返し地点を過ぎている。並行して、ファンクラブ限定のオンラインツアー『flumpool FAN MEETING~裏Real~』も開催中。一連の決断と行動に、彼らの柔らかいパブリックイメージを良い意味で裏切るような、果敢でたくましい姿勢を感じる。


ツアー開催を彼らが表明した2020年夏頃を思い返すと、単発ライブはポツポツと再開し始めていても、それについて大きな声で話すのが躊躇(ためら)われるような、エンタテインメント全体の委縮・自粛ムードがあったように記憶している。
同年8月15日、まずはツアー初日を迎えるはずだった地元・大阪を舞台とした初配信ライブ『flumpool「FOR ROOTS」~半Real~』を開催。AR技術を駆使した洗練された表現でうっとりとさせる一方で、ルーツを辿るドキュメント映像をたっぷり盛り込んで、彼らの人間性とバンドの歴史を明確に伝えていたのも印象深い。


配信ライブのMCで山村隆太(Vo)は『Real』ツアー開催への意欲を明言していたが、他アーティストのツアー中止や延期のニュースが相次ぐ状況だったので、本当に幕は開くのだろうか?と個人的には心配していた。しかし彼らは約束通り、全国で待つファンの元へ会いに行く決断をする。勇気があると感じたし、ツアー初日の10月2日、大宮ソニックシティにおける極めて厳重な感染対策からは、並々ならぬ真剣さが伝わって来た。

歓声を発して盛り上がることができない状況を逆手に取った演出、選曲、遊び心溢れるオリジナル応援グッズの活用。
制約のある中でファンを楽しませようとする彼らの試行錯誤、そんなバンドの心意気を汲み取ったファンの協力。それらが結びついて生まれた新しいライブの在り方を目の当たりにすると、温かい何かが心に広がった。それは、バンドとファンが互いを想い合っていることへの感動だった。約2カ月後に足を運んだ東京・中野サンプラザ公演では、スタート当初は手探りだったその新たな試みがしっくりと馴染んできているように思われた。

flumpool コロナ禍でもツアー開催を選んだたくましさの理由
『Real』ツアー専用の応援アプリ「PEPEンライトReal」を制作


デビューは2008年

flumpoolというバンドの来歴を振り返ると、山村と阪井一生(Gt)、尼川元気(Ba)の幼馴染み3人は2002年、郷里の大阪・松原市でアコースティックギター・ユニットを始動。2007年に知人の紹介で小倉誠司(Dr)が加入し、現在の形となった。2008年に「花になれ」で鮮烈にデビュー。
以来、代表曲「君に届け」を筆頭に、近年では2020年2月にリリースした「素晴らしき嘘」など、映画・ドラマ作品の世界観に寄り添う主題歌を多数手掛けてきた。

しかし、バンドは順風満帆な時ばかりではなかった。2017年12月、ツアー中に山村が歌唱時、機能性発声障害を発症し、予定されていた残りの公演及び地元での年末ライブを中止、そのまま活動休止期間へ突入……という先の見えない苦境を味わっている。

復活は2019年1月。地元・大阪の天王寺公園でゲリラライブを開催し、flumpoolは戻って来た。2020年には待望の新アルバムを引っさげて10度目の全国ツアーを、というタイミングでのコロナ禍。
悔しさはあるに違いない。しかし、発声障害を機に自らを見つめ直した山村は“弱さをさらけ出す強さ”を身に付けているし、彼の復帰を急かさず静かに支えたメンバーたちの包容力は増している。お互いの信頼関係ももちろん、強まっているだろう。



また、山村が復帰するベストなタイミングを待ち、水面下で何度もリスケジュールを行ってきたという2018年の経験、モチベーションの保ち方は、見通しの立てづらいコロナ禍に大いに役立っているのではないだろうか? 活動休止を明けてからの彼らには、バンド史上最高のポジティブさを感じる。

メンバーのキャラクターは?

メンバー各自を紹介し人物評を述べるなら、フロントマンの山村隆太は、ほぼ全曲の作詞を担い、その時々に発信すべきメッセージを体現するバンドの顔。俳優としてドラマに出演した経験もあり、2021年4月からは朝の情報番組『めざまし8』にコメンテーターとしてレギュラー出演中(隔週金曜)。新しい活動に目を奪われつつも、私がいちばん驚いているのは、今回のツアーで声色の幅が広がっていること。
とりわけ耳を奪われているのは、大人っぽい妖艶さである。

メインコンポーザ―の阪井一生は繊細な情感をポップに昇華するメロディーメイカー。本体のバンドのみならず劇伴音楽でも才能を発揮する。ライブではお笑い担当を背負って立ち、観客を楽しませるためには満身創痍を厭(いと)わない。また、LEGO BIG MORLヤマモトシンタロウとオンラインサロン「おとなり」を開設。ゲスト講師を招くなどして、無限に広がる音楽の楽しみ方を伝えてもいる。


尼川元気は、浮遊感のある佇まいでバンドを客観視する存在。ベース以外にシンセサイザーも操り、ライブでのパフォーマンスは多彩かつダイナミックだ。音楽知識が幅広く、好奇心も旺盛だと思うのだが、多くを語ろうとしないため一見ミステリアス。ポーカーフェイスのニヒリストのようでいて、実は影のお笑い番長なのかもしれない。

小倉誠司はそのドラミング同様、真っ直ぐな人柄で、嘘のつけない不器用さが魅力。ステージを去る時に勢いよくTシャツを脱ぎ捨て上半身裸になるワイルドさと、猫をこよなく愛し、ツアー各地で保護猫カフェを巡ってファンにレポートする優しさを併せ持つ、振り幅の大きい人である。活動休止期間中、ファンとせめてものコミュニケーションを、とオンラインゲームで繋がるなど、思いやりと実行力を併せ持ってもいる。

4人揃ってのインタビューはメンバー同士のやり取りが漫才のように展開し、横道に逸れることも多い。幼馴染みとしての気安さと、仕事仲間としての互いへのリスペクト。その両方が今の彼らにはある。

5月26日(水)にはニューシングル『ディスタンス』がリリースされる。先行配信されている「フリーズ」(TVアニメ『セブンナイツレボリューション‐英雄の継承者‐』オープニング主題歌)は、“人を求める”想いをきっかけとし、自らの力で変化を遂げていく決意を歌った曲で、爽やかで華やかで明るく、flumpoolらしいアッパーチューンの最新形だ。

パッケージとしてのリリースは『Real』から約1年ぶり。タイトルからは、この作品がコロナ禍の時代を映し出すものだと推察できる。私たちが日々強烈に意識せざるを得ない人と人との物理的な距離(ディスタンス)を描いているのか、あるいは、そんな時代を生きる人々の心の距離について掘り下げているのか……flumpoolは果たして、私たちにどんなメッセージを投げ掛けてくるのだろうか? リリースを待ちながら、そしてツアーを無事に完走できるよう心から祈りながら、見守っていきたい。



ツアー情報

【flumpool 10th Tour 2020「Real」】
2021年4月24日(土)岩手県・盛岡市民文化ホール 大ホール
2021年5月1日(土)香川県・サンポートホール高松 大ホール(※2月14日より振替)
2021年5月4日(火・祝)東京都・オリンパスホール八王子
2021年5月5日(水・祝)東京都・オリンパスホール八王子
2021年5月9日(日)大分県・J:COMホルトホール大分 大ホール(※2月23日より振替)
2021年5月16日(日)静岡県・静岡市清水文化会館マリナート 大ホール(※3月7日より振替)
2021年6月4日(金)新潟県・新潟テルサ(※2月12日より振替)
2021年6月12日(土)滋賀県・滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 大ホール(※2月20日より振替)
2021年6月19日(土)愛知県・愛知県芸術劇場 大ホール
2021年6月20日(日)愛知県・愛知県芸術劇場 大ホール

関連リンク

■flumpool オフィシャルサイト
■A!SMART flumpool商品ページ


Writer

大前多恵


ライター・編集者/NHKディレクターを経てロッキング・オン入社、2006年独立後はフリーランスに。音楽家や俳優など、表現者へのインタビュー取材を中心に活動中。ライブレポート、作品レビュー、書籍編集、語り起こし本の執筆、物語の創作なども。

関連サイト
トロイメライの庭