『おちょやん』第21週「竹井千代と申します」

第105回〈4月30日(金)放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

朝ドラ『おちょやん』紫のバラの人は栗子だった カタストロフィーからカタルシスへ――見事な逆転劇
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

千代、一から出直し

「はじめまして! 竹井千代と申します!」

【前話レビュー】塚地武雅の明るさも大きく寄与 ドラマのムードをクリアーに変えた6つの要因

千代(杉咲花)、リスタート。もう一度俳優をやることを決意し、花車当郎(塚地武雅)主演のラジオドラマ『お父さんはお人好し』の顔合わせで気張って挨拶。時に昭和26年、3月のことであった。


顔合わせ当日、千代は出かける前に栗子(宮澤エマ)から花かごを受け取る。京都の撮影所時代から折につけ花かごを送っていたのは栗子であった。

因果はめぐる。千代の不幸のはじまりをつくった張本人・栗子が巡り巡って千代を支えて、絶望の淵から立ち上がらせる。カタストロフィー(破滅)からカタルシス(浄化)へ――見事な逆転劇となった。

栗子が紫のバラの人だった

頑なに出演を拒む千代に「お芝居はもうつらい思い出でしかあらへんのですか。……残念です」と作家・長瀬(生瀬勝久)はつぶやき帰っていった。千代にとって、お芝居がつらい日々をひととき忘れ、変えていくものだったのが、いまや楽しかった日々を悲しみに変えるものになっていた。

その気持ちを変えたのは、春子(毎田暖乃)と栗子。春子が作文を千代の助言で読めたと大喜びで、まりのように跳ねて帰ってきた。「これからも私のそばにおってな」と春子は千代に抱きつく。その温かみが千代の凍てついた心を溶かしていく。

昭和26年3月、『お父さんはお人好し』顔合わせのとき、栗子が花かごを差し出す。
千代が俳優をやっていることを知ったとき「うれしゅうて、涙が止まらんかった」と本音を明かす栗子。こっそり芝居を観て元気になって、名乗らず花を送り続けてきた栗子。花は栗子なりの贖罪だったのだ。1年前、千代が雨やどりしている場所に突然迎えに来たのも、彼女をずっと見ていたからだった。

「わてはあんたの芝居が大好きやねん」
栗子は千代の芝居に元気をもらいながら応援を続け、千代の生涯最大のピンチを救った。千代と栗子は離れていても影響を与えあっていた。

つらいことを乗り越えてきた千代と栗子の和解とシスターフッドの芽生え。花かごは、有名な演劇漫画『ガラスの仮面』で、主人公に紫の薔薇を贈る人のオマージュではないかと、SNSでは、紫のバラの人予想が盛んに行われていた。一平説、テルヲ説、ヨシヲ説などあったが、男性が女性を支えるパターンではなく、貧困に苦しんだ女性同士が支え合っていたことになったのは、令和の物語らしいと言えるだろう。

大いに励まされた千代は「たったいっぺんつらいことがあったからて、それがなんだすねん」と顔合わせで挨拶する。強気の千代の復活である。

朝ドラ『おちょやん』紫のバラの人は栗子だった カタストロフィーからカタルシスへ――見事な逆転劇
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』紫のバラの人は栗子だった カタストロフィーからカタルシスへ――見事な逆転劇
写真提供/NHK

栗子の魅力を深める宮澤エマの芝居

ラジオドラマに出演することが決まった千代は、台本を読んで、千代なりに解釈して、いろいろ書き込みをして夜を明かし、ちゃぶ台の上に突っ伏して寝てしまう。その書き込みを見て、しんみりする栗子。
芝居が好きな千代と、その千代の芝居が好きで理解者である栗子の関係が、短い場ながら強く伝わって来た。こういう演劇愛にあふれた場面がこれまでももっとあったなら……。

栗子は千代が芝居を辞めるきっかけになった千秋楽を観に来ていた。そのときの栗子の目線に注目したい。千代を凝視した目線が一瞬上手方向に動く。おそらく隣の一平(成田凌)のことも見ている。そう、こういうとき、何があった? と相手役のほうも見るものだ。宮澤エマの目線にドラマがあった。千代との会話でもちょっと目線を逸らすなど、栗子がやや千代に気が引けているところがあることを感じる瞬間などがあって、栗子の魅力を深めている。

宮澤エマは2022年度の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にも出演が決まっている期待の俳優。元首相・宮澤喜一の孫で、世間の認識としてはDAIGOと同じようなポジションのようなところもあるが、ミュージカルで鍛えた実力派。美しい高音の持ち主で、三谷幸喜のミュージカル『日本の歴史』(今年再演がある)でも大活躍した。
近年はミュージカル以外の作品でも活躍、大竹しのぶの『女の一生』にも出演して、明治時代に貿易で財を成した資産家の次女役を艶やかに闊達に演じていた。

天海祐希きたーーー

とにかく、画面を明るく爽やかにしようとしていることが伝わってくる。もともと照明はできるだけ明るくしているのを感じたが、千代復活編になって、小道具にも変化が。栗子の家に青い野菜が配置されているのもそのひとつ。千代がふきのとうの下ごしらえをしていて、台所にも野菜がある。おまけにガスの青い火まで灯っている。みかんもある。瑞々しいものがあるだけで気分が変わる。

栗子は花もきれいに活けている。花かごのセンスの良さも栗子だったからだとわかる。千代が春子の髪の毛を結ってあげている画もほっとする。花、青物、おしゃれ……やわらかいものが注がれていくのは千代だけではない。視聴者の心にもどっと流れこんで来たはずだ。


ラジオドラマに出演候補にあがっていた人気女優・箕輪悦子(天海祐希)がポスター画像出演のみで終わらず、ワンカット天海祐希が出てきた遊び心も楽しかった。

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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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