
※本文にはネタバレがあります
次週は第1部完結編『大豆田とわ子と三人の元夫』第5話
三人の元夫が魅力的過ぎる『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系 火曜よる9時〜)。第5話は「布団が吹っ飛んだ」からはじまった。とわ子(松たか子)の背負ったリュックがかわいい。【前話レビュー】30年経っても手をつなぎ合えるとわ子とかごめの尊い関係
第5話ではとわ子が4回目の結婚をするかもしれない局面があり、一番目の夫であり、唄(豊嶋花)の父でもあるらしい田中八作(松田龍平)と、子まで成しながら別れた理由が明かされる。
第4話でうっすら匂わせていたが、八作が気にかけているのはとわ子の親友・かごめ(市川実日子)。自由奔放なかごめは恋愛に興味がなく、八作は思いを告げることができない。が、彼女の一挙一投足をそっと見つめている。
夜、唄を背負ってとわ子の家まで送ってきた八作はそこで漫画を描いているかごめの靴下に空いた穴に気づく。その後、八作はとわ子に靴下をサプライズプレゼントする。靴下を用いた八作の痛ましいまでの遠回しな感情表現。もらった瞬間は気づけなかったとわ子だが、あとになって2足の靴下の意味に気づく。
「クズ」登場
他者が隠していることに薄々気づきながら、気づかない素振りをせざるを得ない感情を持て余す最たる例はサプライズパーティー。とわ子は会社の社員たちがサプライズパーティーを企画していることを察知し、必死に気づかないフリをし続ける。「世の中のサプライズパーティーの半分は本人にバレていますよ」と八作。「計画が楽しいからでしょう。気づかないフリは他者に対する思いやりにほかならない。とわ子もそうだし、まわりの人達――とりわけ元夫たちは互いにズケズケものを言い合っているようで、肝心なところには踏み込まないし、ズケズケにもリスペクトがある。ズケズケも含め互いを優しく思いやっている世界に、第4の夫候補であり、とわ子の仕事相手である門谷(谷中敦)が土足で踏み込む。
とわ子と同じく結婚を3回経験している人物だが、結婚と離婚の理由がとわ子とはまったく違う。門谷は「僕にとって離婚は勲章」で「あなた(とわ子)にとって離婚は傷」と決めつける。上から目線で見る門谷にとわ子は「失敗なんてないんですよ。人生に失敗はあったって、失敗した人生なんてないと思います」と反抗する。
明らかに失礼なのは門谷のほうなのに、プライドを傷つけられたと逆ギレし、運悪く彼との仕事にミスが発覚すると、とわ子に不利に振る舞う。他者を見下す態度もひどいし、仕事とプライベートを切り分けないところも最低である。罪を憎んで人を憎まずではなく、罪も人も憎む。
プライドを傷つけられたと被害者ぶるところが最悪で、現実社会にも、ここまではっきり言葉にはしないけれど、事象をそういうふうに都合よく受け止めてとんでもない行いに発展していく人がいることを感じるからこそ、このエピソードは注目を浴びるのであろう。だが、こんな人がいるから余計にとわ子やかごめや三人の元夫たちの思いやる様は染みる。
とわ子から門谷の話を聞いた八作が「おかしいよ」と激しく憤慨するところが良かった。とわ子と八作はケンカしそうな雰囲気になってもうまくコントロールしてかわそうとする。気遣いが最初にあるのではなくて、大事な人だからうまくやろうと気遣いが生まれて、その連なりが愛になっていくのではないかと、とわ子たちを見ていると思う。
松田龍平と石橋静河の共演シーンに胸アツ
仕事のトラブルから誕生日にとわ子が消えた。ざわつく社員たちの中で、「社長の指示で動くのが現場じゃありません。現場は作業完了の日に向かって動くんです」と作業に余念のない六坊(近藤芳正)のセリフはどこか『踊る大捜査線』のよう(「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きているんだ」的な)。布団が吹っ飛んだのダジャレから、みんな大好きな洒脱な坂元裕二節から、「アートイベント=暗いところで光るやつ」「3回離婚した人=パラレルワールドの人」など気の利いた例えから、ちょっとベタな良いセリフまで自由自在に盛り込まれている。
ラストはとわ子は不在の中、三人の元夫と彼らに迫る三人の女たちが八作の店に集結。次週は第1部完結編。
八作は、早良(石橋静河)に迫られたことを親友・俊朗(岡田義徳)に打ち明ける。親友だからこそ真実を話す。でも決して彼女には気を許していない。でもそれって友情のためなのか、単にかごめが好きだからなのか。それともとわ子のことが忘れられないのか。そこがまだわからない。

かわす八作とぐいぐい来る早良。松田龍平と石橋静河の共演シーンには、松田の父、故・松田優作と母の松田美由紀、石橋の父母・石橋凌と原田美枝子を思い浮かべ、名優の二世の夢の共演に胸を熱くする人も少なくないであろう。
松田優作と石橋凌、松田美由紀と原田美枝子は仲がよく、石橋と原田が鳥取砂丘で行った結婚式にも参列している。原田、石橋、松田優作の3ショットの写真も掲載された原田美枝子のエッセイ『あなたがそこにいるから』を読むと、石橋と原田がどれだけ松田夫妻と強く友情を育んでいたか感じられる。
彼らの子供の松田龍平と石橋静河が共演し、ハッピーエンドにはならなそうなひりひりした関係性の芝居でがっつり組んでいる姿を見ると、時の流れは出会うべき人たちを結びつけるのだなという気持ちになる。そこにかかるのはムーディーな主題歌「Presence II」がぴったり。
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※第6話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします
番組情報
カンテレ・フジテレビ系『大豆田とわ子と三人の元夫』
毎週火曜よる9時〜
★U-NEXTで第1話〜最新話まで配信中<31日間無料>
出演:松たか子(プロフィール) 岡田将生(プロフィール)
角田晃広(プロフィール) 松田龍平(プロフィール) 市川実日子(プロフィール)
高橋メアリージュン(プロフィール) 弓削智久(プロフィール) 平埜生成(プロフィール) 穂志もえか(プロフィール) 楽駆(プロフィール) 豊嶋花(プロフィール) 石橋静河(プロフィール) 石橋菜津美(プロフィール) 瀧内公美(プロフィール) 近藤芳正(プロフィール) 岩松了(プロフィール) 伊藤沙莉(プロフィール)
脚本:坂元裕二
音楽:坂東祐大
演出:中江和仁 池田千尋 瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美
制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ
番組サイト:https://www.ktv.jp/mameo/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami