『大豆田とわ子と三人の元夫』6話 「ひとりで死んじゃったよ」やりきれない、かごめとの突然の別れ
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

心の整理がつかない『大豆田とわ子と三人の元夫』第6話

大豆田とわ子(松たか子)が誕生日の夜に行方不明になって『消えた大豆田とわ子と三人の元夫』になってしまった『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系 火曜よる9時〜)第6話。第1章完結編は想像の斜め上どころではない予想外過ぎて、未だに心の整理がつかない視聴者も多かったのではないだろうか。

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誕生日にとわ子がいなくなった。
仕事上のアクシデントがあり、残された社員たちは社長不在のなか、六坊(近藤芳正)のリードによって必死に立て直しを図る。

とわ子の誕生パーティーを八作(松田龍平)の店でやろうとしたが、主役不在のまま、三人の元夫に関わる女たち三人と合コンのようなことになる。「自己紹介ってこんなに危険すれすれのものだっけ」と鹿太郎(角田晃広)の言うような不穏な自己紹介にはじまって、その後の展開もぴりぴりムードが消えることはない。

場所を主人不在のとわ子の家に移し、父・旺介(岩松了)を交えてからもそれは続き、いやむしろ度を越していき、6人が抱えている危険な感情が破裂しそうになっていく。まるで黒ひげ危機一髪ゲームのようであった。

女優の美怜(瀧内公美)、ホテル勤務の翼(石橋菜津美)、八作の親友の彼女だった早良(石橋静河)はただただわずらわしくくっちゃべる。鹿太郎、慎森(岡田将生)、八作にぐいぐい接近してきて、自分本位に振る舞い、彼らは追い詰められ、餃子を作る手が震えてへんなものになってしまう。

ただ、この6人の吐く言葉は、どんな状況でも気が利いている。追い詰めても追い詰められてもこんなに気の利いた言葉を使える人は生きていけます、たぶん。

男たちのダメさを指摘し、そのエビデンスとして「自分と付き合いたいと思う?」と究極の問いを突きつける女たちに男たちはようやく沈黙する。反省した男たちがちょっと相手と向き合い、少し穏やかになる空気。才気あふれる言葉が飛び交うパーティーが終わる。


「どこを好きだったか教えるときは、もうその恋を片付けるって決めたときだよ」

気の利いたことを言う早良。美怜と翼はそれぞれ気の利いたやり方で彼らから去って行く。そして、早良も……。それぞれの別れの形。3組の別れが一気に描かれた。どれも女性側の一方的な思い込みとヒロインぶった身振りのまるでドラマのような終わり方だった。別れの見本市。



「ひとりで死んじゃったよ。ひとりで死なせちゃったよ」

第1章完結回は別れの回。もうひとつ、大きな別れがあった。

早良と別れた八作のケータイに誰かから連絡。慌てて外に出て、ケータイにかけるがつながらない。
不穏な音楽。コンビニでストローとホチキスを買って、靴下も買って向かった先は病院。そこには唄(豊嶋花)が自販機の前でうなだれていた。

自販機でドリンクを買うことができない彼女に温かい飲み物を買い与える八作。受け取った指先が震えている唄を八作は抱きしめる。そのまま廊下を歩いていくと、医者が「午前1時17分死亡確認、直接死因は心筋梗塞」と話している。待合室には――

とわ子がいた。彼女だけは落ち着いて、八作から受け取ったストローとホチキスを用いて、器用な手付きできびきびとパーカーからすり抜けてしまった紐を直す。でもやっぱり指がこわばっているのを八作は握りしめる。

「ひとりで死んじゃったよ。ひとりで死なせちゃったよ」

とわ子が、元夫三人たちはともかく、仕事先にいっさいの連絡をしないで消えた理由は、かごめ(市川実日子)の急死だった。

葬式の準備もかごめの親戚に混じって手伝い、葬式を無事終える。
そこでこの回初めてとわ子じは「かごめ」と名前を呼ぶ。

その後、出社し、かごめの部屋に入って冷蔵庫のありあわせの材料でごはんを作り、食べながら、かごめが残した空野みじん子名義の漫画原稿を読み、それをポストに投函する(漫画賞応募)。

彼女の漫画がどうなったか描かれないまま1年が経過する。

これこそが伏線

こうなって思い返せば、かごめは葬式を親戚にやってほしくないと言っていたり、最後の晩餐に食べたいと話したコロッケを食べたりしていたが、まさか過ぎる。心筋梗塞って漫画を根詰めて描いたせいだろうか。やりきれない。こんなふうに、家族や友人、恋人、知人がふいにいなくなってしまうことはある。天災や疫病によってその頻度は高くなっている。今の時代のふいに訪れる哀しみにも似た描写をまさにふいに挿入し、その衝撃を体感で示してくる。ここには気の利いたセリフはいっさいない。

前半のかしましく無意味な女たちの自分勝手な雰囲気を見ていると、あんなふうにぺらぺらと機知に富んだふうの会話を交わして生きていかないと弾かれてしまうような人間関係の世界に生きていなくてもいいのではないかなんて気もする。と同時に、かごめのように恋をしないで生きていた人物が死んでしまうことをとても残念に感じた。



『大豆田とわ子と三人の元夫』6話 「ひとりで死んじゃったよ」やりきれない、かごめとの突然の別れ
第7話は5月25日放送。画像は番組サイトより

前半と後半のギャップ、とわ子不在を時限爆弾のようにした緊張感の持続、かごめのなにげないセリフ――これこそが伏線というような伏線の張り方……など作り手の高度なテクニックを堪能した回だった。


かごめのセリフが後々こんなふうになると思うと、とわ子がいなくなったとき、停電が起きて、殺されるうんぬんの話になるところ。坂元裕二作品の松たか子はいつも闇をもっている役なので、今後、殺人あるんじゃないかとさえ思ってしまう。でもこれはあくまでも、行方不明のとわ子の身に何かが? と心配させるための仕掛けであろう。考え過ぎは慎森……じゃなくて心身に良くない。
(木俣冬)


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※第7話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします

番組情報

カンテレ・フジテレビ系
『大豆田とわ子と三人の元夫』
毎週火曜よる9時〜

出演:松たか子 岡田将生 角田晃広 松田龍平
市川実日子 高橋メアリージュン 弓削智久 平埜生成 穂志もえか 楽駆  豊嶋花
石橋静河 石橋菜津美 瀧内公美 近藤芳正 岩松了 伊藤沙莉

脚本:坂元裕二
音楽:坂東祐大
演出:中江和仁 池田千尋 瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美

制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ

番組サイト:https://www.ktv.jp/mameo/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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