『おかえりモネ』第3週「故郷の海へ」

第12回〈6月1日(火)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』第12回 りょーちんら同級生が集まりお盆の支度を 登米と亀島の描き方の違いが面白い
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

モネこと百音(清原果耶)は就職後、はじめて故郷・亀島に帰って来た。そこではお盆の行事が行われ、幼馴染で同級生の及川亮(永瀬廉)、野村明日美(恒松祐里)、早坂悠人(高田彪我)もやって来る。妹・未知(蒔田彩珠)も加わって、フレッシュな若手が勢揃い。
氷水につけたもぎたて野菜のような瑞々しさが画面いっぱいに広がった。

【関連レビュー】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第11回掲載中)

お盆の支度

お盆の支度が丁寧に描かれた。ドラマのタイトルは『おかえりモネ』だが、お盆は先祖に「おかえり」をする行事。お盆を描くことで、タイトルの「おかえり」が多義性を帯びてくる。日常の「おかえり」のみならず、死者の存在を迎え入れる心も籠もったタイトルのように感じる。

帰宅したモネは、登米の人たちからもらったお惣菜をお盆のお客さん用に準備。お惣菜を味見しながら亜哉子(鈴木京香)は亡くなった雅代(竹下景子)が民宿をやっていたことを思い出す。亜哉子が手の甲で味見をする気取らない姿はいかにも家の中という感じだった。

祖父・龍己(藤竜也)に呼ばれてモネはお盆の飾り棚づくり。持ってきた組手什がさっそく役立つ。この盆棚がなかなか豪華。雅代の「今年は私もお仲間になります」というナレーションのとき、代々の先祖がわいわい会話しはじめたら面白かったかも。雅代だけ転生しているわけではないよね、きっと……。


モネは黒いワンピースに着替え、制服姿の未知と庭で迎え火の支度をはじめる。そこへ同級生たちがやって来て、一緒に迎え火を炊きながら歌った歌が印象的だが、彼らはあくまで当事者として、先祖代々、土地に伝わるお盆の歌と振り付けをごくごく自然に行っている。モネが登米で何もかも新鮮で驚いたり、慣れようと頑張ったりしていることとはまったく別で、亀島ではモネは溶け込んでいて、すべての行為が淡々と運ばれていく。登米と亀島の描き方の違いが面白い。

淡々とした日常描写の中、数ヶ月ぶりに会った同級生たちは、微妙に変化していて、それに気づいて互いに驚く。同級生に歴史ありで、明日美は亮に年イチで告白し続けて、高校2年の夏に少しだけ付き合ったが、それをモネは知らなかった。その話をしているときの未知の気が気じゃない表情や悠人だけ我が道を行く余裕があるところなどが見ていて楽しい。

子どもといえども単純でなく、もつれあう関係がある。当然、大人たちにも……。大人たちが亮に父親のことを聞くと「元気っすよ」とさらりと流す亮。すぐに誰かが話題を逸らす。その時、耕治(内野聖陽)と亜哉子もちょっとへんな反応をしている。
穏やかに楽しそうな亀島の旧くからの仲間たちにも、口に出さないことがある。包帯を巻いたその下はどうなっているのだろうか。

モネが嵐の日に生まれたこと

亮の父・新次(浅野忠信)の話題が出たわけは、モネが生まれるとき、彼が亀島から気仙沼の本土まで船を出したから。あのとき船が出なかったら、亀島には出産設備がなかったため、モネは生まれることができなかったかもしれない。モネは嵐を、そして死を乗り越えてこの世に生まれてきた。運命を背負っているのである。

モネ出産時の騒動によって耕治は橋建築が悲願となり、行政に積極的に働きかけていた。家庭の事情から亀島の事情までリアリティーのある描写の数々で、社会と住民の生活が密接に関わっていることが伝わってくる。

『おかえりモネ』第12回 りょーちんら同級生が集まりお盆の支度を 登米と亀島の描き方の違いが面白い
写真提供/NHK


『おかえりモネ』第12回 りょーちんら同級生が集まりお盆の支度を 登米と亀島の描き方の違いが面白い
写真提供/NHK

現実の気仙沼では、2021年3月6日、三陸沿岸道路の気仙沼港ICと浦島大島ICをつなぐ「気仙沼湾横断橋」が開通したばかり。着工は2014年だった。それより前の2019年4月7日に開通したのは、気仙沼本土と大島を結ぶ気仙沼大島大橋(愛称は鶴亀大橋)。津波で大島へのフェリーが被災し長期間にわたって孤立した経験から誕生した橋で、着工はやはり2014年。ドラマの橋は後者がモデルになっていると考えられる。
耕治悲願の橋が出来るところまでドラマでは描かれるだろうか。最後は橋を渡ってモネが帰ってきて「おかえりモネ」か。

陰陽それぞれ

モネと未知はどことなく陰キャっぽい。透明感があるけど姉妹ともども瞳が虚ろ(意識的にそう演じているのだと思う)。陽なのは、耕治と明日美と亮。彼らが出ると空気が数段上がる。雅代も声や写真だけでも明るい。亜哉子は首にタオルを巻いてもなおサヤカ(夏木マリ)的な掃き溜めに鶴的な華やかさが消えない。龍己は飄々とした感じ。貫禄あり。最後に登場したお寺の息子・後藤三生(前田航基)のひょうきんさが決定打。ひと盛り上げしてくれることを期待する。



※『おかえりモネ』第13回のレビューを更新しましたら、Twitterでお知らせします

番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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